遠隔医療実験-2.実験の結果

2.実験の結果

2−1 医療用・生活支援用共通

(1)実験の時期・通信の頻度・通信時間

 通信の頻度は平均して1週間当たり 3.5回となっている。通信を行ったトータル回 数は実験期間の長さによって異なり、まだ1回しか行っていないところから60回に 及ぶものまでかなり幅がある。

 一回あたりの通信時間は正確な計測ではないが、だいたいの目安を質問し回答を集 計したところ、平均約13分という結果が出た。

   

(2)時間帯

 日常生活の支援や診断が主な用途であったため、通信した時間帯は日中の時間帯に 集中している。就寝後の通信は行われなかったが、このような時間帯に使用するのは 緊急通報的な使い方に限られる。

   

(3)重点的にみた項目

 医療用調査票では、全身の状態、顔面の状態、上肢・下肢の状態、問診の4項目に ついて、重点度を質問した。全般的に「よくみた」という回答が得られたが、特に顔 面の状態や問診については、ほぼ全員が最重点にみているとの結果が得られた。これ はTV電話等が顔の表情を読みとることに主眼をおいた使われ方をされた結果と言え る。

 生活支援用では、身体の状態、精神の状態、生活環境の状態、介護の状態、家族の 状態の5項目について、重点度を質問した。ワーカーの立場では特に精神状態の確認 に重きをおいてTV電話等を使ったことがわかった。

   

(4)価格に関する意見・感想

 価格については、高いという回答が圧倒的に多く、個人レベルで導入できる金額で はないことが明らかになっている。行政の援助や保険制度の見直し、共同利用やリー ス等の解決策がいくつか意見として出されている。

   

(5)音声の性能に関する意見・感想

 音声については、意見がやや分かれた。聴診情報がとれるような性能向上のニーズ がいくつか出された。

   

(6)画像の性能に関する意見・感想

 画像についても、意見が分かれた。特に詳細な画像情報を必要とする分野の医師か らは、より一層の性能向上を望む声が強かった。

   

(7)操作性に関する意見・感想

 操作性に関しては、カメラのリモート操作について要望が強かった。

   

(8)往診、通院、訪問看護等の補完

 TV電話等を導入することによって、往診、通院、訪問看護等がどの程度減らせる かについて質問をした。

 TV電話等の使用頻度は実施機関によってばらつきがあるので、TV電話等は週に 2回程度使用すると仮定して試算すれば、往診が一月あたり約2.3回必要なケースが 約1.3回に、通院は約2.2回が約1.2回に、訪問看護は約6.9回が3.8回に削減可能とい う結果が得られた。

   

(9)病状の変化への対応に関する意見・感想

 病状の変化に対して、TV電話等は非常に有効であるとの評価が得られた。利用者 の側からの意見でも同様の結果が得られている。

   

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2−2 医療用

(1)プロブレム別の評価

 患者の病名は以下の通りである。

   

 これらのケースから、54のプロブレム(在宅患者以外のケースも含む)がリスト アップされた。回答者の専門が違うため、プロブレムの種類、数ともにばらつきがあ る。ただし精神面のフォローに関するもの、日常生活動作の確認等は病名と関係なく リストアップされている。

   

(2)診断機器としての利用価値

 各プロブレム毎に、TV電話等が往診や電話と比較して、診断機器としてどのレベ ルにあるか評価してもらった。結果としては、往診と同レベルであるという評価の「 1」が最も多くなった。このことは往診時においては患者との会話とその際の表情か ら得る情報、すなわち問診の重要性が非常に高く、TV電話等は問診情報の取得が十 分に可能であることを示している。

 「4」と評価されたのは慢性気管支炎の患者に対して、聴診ができなかったケース などである。特定の病気に依存するプロブレムの場合、より一層高い音声や画像の性 能を求められることがわかる。

 今回は1機関のみ、INSネット1500(他はINSネット64)を利用した実 験も行った。INSネット64を利用した場合では、表情の読み取りが時々困難になっ たり、歩行の様子を見る場合に画像が乱れたりすることがあったが、INSネット 1500ではまったく問題がなかったとの報告がなされている。特に動画像に関する 性能において、INSネット1500を利用すれば、TV電話等の診断機器としての 価値は高まる。

   

(3)チェック項目別の評価

 調査票の様式では、記号で記入する方式をとったが、これらを得点に置き換えた。 配点は、直接接するのと同等レベルである◎は3点、診療可能なレベルである○は2 点、診療は不可能だがある程度確認はできたというレベル△は1点、それ以外は0点 とし、評価対象外のものはカウントせず、分野別に平均をとって、どの分野がTV電 話等による遠隔医療に適しているかの評価を行った。

 全身、皮膚、問診、眼、口腔、頚部、胸部、腹部、上肢・下肢の9分類で平均得点 を集計した結果、一番高い得点を得たのは問診で、全身状態がこれに続く形となった。 前項での評価にもある通り、医師が診断する場合に問診が占める比重は高く、そのた めの機器としてTV電話等が有効であることが明らかになっている。

 これに対して、口腔、頚部等は得点が低く、対照的な結果となった。現在のテレビ 電話等の画像や音声の処理能力が、これらの診断に必要な情報を伝えるのにはまだ性 能不足であることを示していると言える。

グラフは準備中

   

(4)改良すべき点

 医療用調査票であげられた改良すべき点は以下のようなものである。

(5)追加機能として必要な点

 以下のような意見があげられた。

(6)活用すべき分野

 以下のような意見があげられた。

(7)普及させる上での課題

 以下のような意見があげられた。

(8)その他気づいた点

 以下のような意見があげられた。

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2−3 生活支援用

(1)プロブレム別の評価

 患者の病名は以下の通りである。

   

 生活支援の立場からは17のプロブレムがあげられた。ワーカー等が在宅療養生活 を支援する上で意識するプロブレムは精神面の問題に特に重点が置かれている。

   

(2)生活支援機器としての利用価値

 各プロブレム毎に、TV電話等が往診や電話と比較して、生活支援機器としてどの レベルにあるか評価してもらった。往診と同レベルという「1」の評価こそ少ないが、 「2」「3」に集中しており、生活支援のための機器として利用価値は高いという評 価になっている。往診と同レベルと評価されたのは「生活上の問題の有無の確認」に 使ったケースであった。サンプル数の差もあり、医療用との単純な比較はできないが、 生活支援の場合には、医師の問診よりカウンセリングに近いので、より高度な精神状 態の読み取りが要求されるものと考えられる。

   

(3)チェック項目別の評価

 医療用と同様、記号を得点に置き換えた。

 集計は、身体、表情、生活環境、介護、家族の5分類で平均し得点を集計した。結 果としては、生活環境の確認や介護状況の確認にはやや難しいとの評価になっている が、全般的に評価は高い。

   グラフは準備中

   

(4)改良すべき点

 以下のような意見があげられた。

(5)追加機能として必要な点

 以下のような意見があげられた。

(6)活用すべき分野

 以下のような意見があげられた。

(7)普及させる上での課題

 以下のような意見があげられた。

(8)その他気づいた点

 以下のような意見があげられた。

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2−4 利用者用

(1)利用者のプロフィール

 回答者は在宅療養者本人が7名、在宅療養者を介護をしている人が12名となって いる。

   

(4)話したい相手

 話したい相手として最も多くあがったのは「家族」であった。その他以下のような 名前があがっていた。

   

(5)通院、往診、訪問看護等の回数を減らせるか

 電話と比較するとやはり相対的に、「効果がある」という回答が多い。しかしこの 後に出てくる他の効果と比較すると、若干通院、往診、訪問看護の回数削減効果に対 して、それほど期待は大きくないと考えられる。

 またサービス提供者側がかなりこの効果を強調していたのに対して、利用者側の意 識はそれほどではなかった。往診や訪問看護が減ることに対する患者の不安感が読み とれる。

   

(6)健康に対する不安感を軽減できるか

 この効果については、はっきりと読みとれる結果となった。電話と比較して、かな りの安心感が得られることが強調されている。

   

<自由意見>

(7)社会からの疎外感・孤独感の解消になるか

 効果については肯定的な意見が多いものの、前の設問と比較するとやや評価は低い。 これはまだ通信先が病院等の施設に固定されており、アクセスできる先が限られてい るためと考えられる。

   

<自由意見>

(8)病状の変化への対応を早められるか

 この効果についても、有効性を高く評価する回答が多かった。症状の変化に対して、 往診や通院を待つまでもなく、医師が対応できるメリットはやはり非常に大きいと言 える。

   

<自由意見>

(9)その他の効果に関する意見・感想

<電話の場合>

<TV電話等の場合>

(10)操作性に関する意見・感想

 操作性については意見が分かれた。患者の症状の重度や実際に操作するのが患者か 介護者かによってかなり状況が異なるようである。

   

<自由意見>

(11)画像の鮮明度に関する意見・感想

 画像に関しては、比較的良好な印象を与えている。

   

<自由意見>

(12)動画像のなめらかさに関する意見・感想

 動画像については、やはりコマ数に関する注文があげられた。INSネット 1500での実験では、この問題はかなり解消されたとの、医師からの意見もあった。

   

<自由意見>

(13)画面の大きさに関する意見・感想

 画面の大きさについても特に不都合といった意見は出されなかった。

   

<自由意見>

(14)機器の重さに関する意見・感想

 今回の実験で使用した機器の中で、TV会議システムの場合は特に重いものなので、 設置場所等に苦労したケースもあった。D及びEの回答のうち2件はTV会議システ ムである。

   

<自由意見>

(15)音質に関する意見・感想

 音質については、基本的に話が出来ればよいというスタンスであったため、医療の 立場からの評価に比べると高い評価になっている。

   

<自由意見>

(16)追加機能に関する意見・感想

 特にこれ以上の機能は希望しないという意見もいくつかみられた。在宅での療養生 活に対する不安感の強さを反映してか、緊急通報の機能については希望する人が非常 に多かった。

   

<自由意見>

(17)継続利用の希望

 今後の引き続き利用したいと考える人がほとんどであった。しかし使いたくないと 答えた人も1名いた。理由としては操作が煩わしく、それに見合うだけの効用も得ら れないということであった。この患者は社会からの疎外感、孤独感の解消効果につい ても評価が低く、また操作性に対する評価も極めて低かった。また医師とのつきあい の長さも他のケースと比較すると短い。

 このようにすべての患者にとって、TV電話等は手放しで歓迎されるものではなく、 ひとりひとりの身体の状況等によっても差異があることを示している。

   

<自由意見>

(18)その他自由意見

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