遠隔医療実験:2−2 医療用
2.実験の結果
2−2 医療用
(1)プロブレム別の評価
患者の病名は以下の通りである。
表
これらのケースから、54のプロブレム(在宅患者以外のケースも含む)がリスト
アップされた。回答者の専門が違うため、プロブレムの種類、数ともにばらつきがあ
る。ただし精神面のフォローに関するもの、日常生活動作の確認等は病名と関係なく
リストアップされている。
表
(2)診断機器としての利用価値
各プロブレム毎に、TV電話等が往診や電話と比較して、診断機器としてどのレベ
ルにあるか評価してもらった。結果としては、往診と同レベルであるという評価の「
1」が最も多くなった。このことは往診時においては患者との会話とその際の表情か
ら得る情報、すなわち問診の重要性が非常に高く、TV電話等は問診情報の取得が十
分に可能であることを示している。
「4」と評価されたのは慢性気管支炎の患者に対して、聴診ができなかったケース
などである。特定の病気に依存するプロブレムの場合、より一層高い音声や画像の性
能を求められることがわかる。
今回は1機関のみ、INSネット1500(他はINSネット64)を利用した実
験も行った。INSネット64を利用した場合では、表情の読み取りが時々困難になっ
たり、歩行の様子を見る場合に画像が乱れたりすることがあったが、INSネット
1500ではまったく問題がなかったとの報告がなされている。特に動画像に関する
性能において、INSネット1500を利用すれば、TV電話等の診断機器としての
価値は高まる。
表
(3)チェック項目別の評価
調査票の様式では、記号で記入する方式をとったが、これらを得点に置き換えた。
配点は、直接接するのと同等レベルである◎は3点、診療可能なレベルである○は2
点、診療は不可能だがある程度確認はできたというレベル△は1点、それ以外は0点
とし、評価対象外のものはカウントせず、分野別に平均をとって、どの分野がTV電
話等による遠隔医療に適しているかの評価を行った。
全身、皮膚、問診、眼、口腔、頚部、胸部、腹部、上肢・下肢の9分類で平均得点
を集計した結果、一番高い得点を得たのは問診で、全身状態がこれに続く形となった。
前項での評価にもある通り、医師が診断する場合に問診が占める比重は高く、そのた
めの機器としてTV電話等が有効であることが明らかになっている。
これに対して、口腔、頚部等は得点が低く、対照的な結果となった。現在のテレビ
電話等の画像や音声の処理能力が、これらの診断に必要な情報を伝えるのにはまだ性
能不足であることを示していると言える。
グラフは準備中
表
(4)改良すべき点
医療用調査票であげられた改良すべき点は以下のようなものである。
- リモート及び遠隔カメラで歩行の状況等の運動を全て観察できることが必要である
- 操作性の向上
- ライティング技術とのタイアップで、鮮明度を補完でき、解像度や識別度があがる
- 色調がもう少し良くなって欲しい
- 微細な運動を評価できる画質が必要
- 在宅医療専門の機器として別途設計を行い、双方がもっと利用しやすいよう必要機能に絞るべきであるが、但し、家庭用テレビ電話、会議用テレビ電話との併用を考えるなら、現在の機能のままでも仕方がない
- 患者は寝たきりに近く、ベッドの足元にテレビを置き、足元から顔までカメラで収まるように設置したが、顔の表情などは十分に読み取れなかった(日中一人でベッドにいることがあり、その際は患者一人では動けないため)
- 受話器を持たずに会話ができるようにして欲しい
(5)追加機能として必要な点
以下のような意見があげられた。
- 書画機能;患者へ教科書の写真を通して説明するため
- FAX機能を連結;病名と処方内容の伝達するため
- 画面の明るさを調節できるようにする
- ペンライト風のカメラ
- コンピュータシステムとの連結
- 聴診に必要なマイクの開発
- 体温、呼吸、血圧etc.センサーの同時モニター、カメラを手持ちし(ズーム機能をつけて)患者に迫れるようにすると良い
- 録画機能を持たせ、必要に応じて後から医療スタッフと相談できるようにする
(6)活用すべき分野
以下のような意見があげられた。
- 皮膚科専門医のいない離島や山間部には良い
- 在宅患者、独居老人とのコミュニケーション
- ターミナル患者の訪問看護の補助
- 遠距離間の家族コミュニケーション
- 在宅人工呼吸機器療法中の対応
- リハビリ分野においては専門医不足解消に役立たせるため、老人保健施設、老人ホーム、リハビリ機能を有しない老人病院などでのリハビリ診療や訓練に利用できると思われる
- 問診、患者の心理的な満足の充足
- 教育用のテープ、CD−ROM等を患者に送って、病状の説明ができる
- 高齢者(独居及び高齢者世帯)の福祉
(7)普及させる上での課題
以下のような意見があげられた。
- 経済的有用性としては診療報酬と機器価格、維持管理費が採算が合うかどうか不明で、そのための法の整備が必要
- 社会的有用性としては、福祉医療の面からの検討が必要になる
- 画面の鮮明さ(自然な動きにより近づけること)
- コストが安くなること(通常の電話ぐらいになると良い。)
- 医療者側のバックアップシステム(24H体制)
- 操作性を易しくすること
(8)その他気づいた点
以下のような意見があげられた。
- 飲水量が少なく、どのようにしてヘルパー、家政婦などに飲み込みの訓練指導を行えるかが切実な課題であったが、テレビ電話によって解決された
- 使い方によっては十分に活用される機器である
- 他科のドクターのX線診断装置や内視鏡機器のようなもので、皮膚科医の目も訓練により習熟してきて正診率が向上する
- 相手先医療機関では、周辺地区に口コミで来院する人が多い
- 医師も安心でき、治療が向上している
- 画面に映るからお互いきちんとした格好で電話をしないといけないと思っているのではないだろうか。特に、患者側からすれば電話の相手以外にも自分を見ている人がいるのではと思うと体を露出するということに対して抵抗があるのではないだろうか。話している相手の後ろを人が通っているのを見るとその場の雰囲気が気になるのではないだろうか。
- 1.5Mの伝送速度をサポートするテレビ会議システムは、診断機器としては不十分だが、精神的な満足を与えるコミュニケーションツールとしては大変優れている。今後の高齢化社会における問題は、
- 監視の必要な高齢者を誰がどこで監視を行うか
- 監視や生活支援は必要ないが、何となく不安、何となく寂しい高齢者の精神的な満足をいかに満たすか
の2つだと思うが、これらの問題解決の糸口がテレビ電話システムだと思われる。しかし例えば「バーチャル・同居」のような環境を実現(テレビ電話回線を常時開放)するためには電話料金体系の大改革が必要になる。
- カラーTV電話は白黒TV電話(静止)より格段機能的に高く、有用性が極めて高い
- 2ヶ月弱の借用期間であったが、もっと長く使ってみたかった
- 在宅援助を行う上で、このような問題点をいくつか抱えているケースは多く、家庭での直接指導を行うため、リース制でもテレビ電話の設置が有効であると考える
- 非常に興味深いシステムとして注目しているが、あまりにも高価なので普及させるには対象 を限定しなければ予算が組めないのが残念である。
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