競技種目別メディカルチェックの試み

競技種目別メディカルチェックの試み

 

渡辺郁雄(朝日大学内科)

 

国体出場競技選手の健康管理の立場から近年メディカルチェック(MC)が広く行われるようになってきた。大部分のMCの目的はトレーニングによって発生する障害を早期に発見したり、突然死などを起こし得る潜在性の疾患をみつけたりすることにある。MCの目的は上記の他に、現時点では競技を続行したり競技力の向上には直接関係しないが、選手が生涯健康で生きていく上で問題となる異常を発見することも重要な課題である。

検査内容は日本体育協会のガイドラインに示される項目を代表として、どの競技者についても同じ画一的なものであることが多い。しかし、実際には競技の種類によって身体にかかる負荷の程度や種類は著しく異なり、したがってトレーニングが身体に及ぼす影響は大きく異なるので、競技特性を考慮したMCが行われることが本来は望ましい。

さらにMCを実施する時期は多くは秋季国体に出場することがほぼ決定する8月下旬以降であるが、実際にMCで指摘されるような異常が問題となるのはそれ以前のトレーニングの期間であり、この時期に異常を発見してこそ、治療により競技力の向上をもたらしたり、トレーニング中に起こる事故の発生を予防したりすることができることになる。

国体選手のMCに関するこれらの問題点を考慮しながら、我々は国体予選が始まる以前に競技種目別に検査項目を設定したMCの実施を試みている。

今回は本県内の国体、インターハイ代表候補選手を中心とした高校生柔道、相撲、レスリングの重量級選手(W群)、陸上中長距離走者(R群)、器械・新体操選手(G群)、ボクシング選手(B群)についての種目特性を考慮したMCを中心に報告する。

すなわち、日本体育協会ガイドラインによる検査項目を全員に行い、その他にJ群には脂質代謝、糖代謝などについて、R群については貧血、心臓超音波などについて、G群については過度の減量による貧血、栄養障害などについて、B群については頭部CT検査を行った。

その結果、W群の一部に収縮期高血圧、高GPT血症、高インスリン血症、高コレステロール血症の傾向が、R群の一部に種々の不整脈などがみられた。G群において事前に懸念された貧血、低蛋白血症はさほど著名ではなく、B群の頭部CT検査では1名に透明中隔嚢胞が存在した以外異常者はなかった。

これらの多くは必ずしもただちに競技への参加を禁止するようなものではない。しかし、MCが単に競技選手としてのみではなく、選手の生涯を通しての健康管理を目指すものであるならば、これらの結果は生活習慣病予防の立場からも看過であきないものもあり、今後の定期的観察や場合によっては生活習慣の変更を必要とするものである。

種々の問題を解決するためには物的、人的資源の確保、コストベネフィットの立場からの検討など、解決しなければならない様々な課題があることはいうまでもないが、国体選手のメディカルチェックの受診率を向上させると同時に、受診時期に関する配慮、効率良い検査項目のガイドラインの確立が必要と考えられる。



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