今回の実験で取り上げたシステムは、「徘徊老人保護システム」と「遠隔健康相談 システム」である。これらは、すでに実用化もしくは近日中に実用化される技術を利 用しており、現時点で実現性の高いシステムである。また、一般高齢者や介護家族等 のアンケート調査においても、比較的高いニーズが見られたシステムでもある。
PHSを利用したシステム実験では、追跡開始から発見までの平均保護時間が10分 以内と概ね良好な結果となった。また、徘徊者と追跡者が移動した距離は概して追跡 者の移動距離の方が少なく、効率的な保護がなされた。
一方、無線呼出しの場合は発見に至らないケースが何件か見受けられた。しかし、 通信インフラとしては普及の進んだものであることから、実験の参加者からは早期の 実用化を期待する声が多く聞かれた。
今後の課題としては、PHSを利用したシステムでは、対象エリアの狭さやデッドゾー ンの存在、追跡者とセンターとの情報伝達方法の煩雑さ等が挙げられる。無線呼出 しを利用した実験では、通行人へのメッセージが明瞭に聞き取りにくいなど、機能面 での工夫が必要である。両者に共通の課題として、徘徊老人に身につけてもらえる端 末の開発、社会的な認知度を高めていくことなどが必要である。
遠隔健康相談システムが、医療や生活支援のサービスを提供する側にとっても、そ れを利用する側にとっても有効であることが確認できた。中でも、リハビリに代表さ れる身体の運動能力等の観察が重要になるケース、表情の読み取り等から患者の精神 面の把握が重要となる生活支援のケース等では、特に有効な結果となった。また、圧 倒的多数の利用者は、医師、看護婦等のサービス提供者の顔が見えることによる安心 感を強調しており、中にはこのシステムがもはや生活に欠かせないものになったとい う声も見受けられ、情報長寿社会においては不可欠なサービスになる可能性を秘めて いると言えよう。
今後の課題としては、サービス提供者側からは、画像の精細度の向上、動きの再現 性の向上、カメラのズーム・方向の遠隔制御、聴診情報の伝送等の機能・性能の向上 が指摘された。サービス利用者側からは、ボタン操作の簡素化等機器の使いやすさの 向上、サービス提供の24時間体制、緊急通報の機能の必要性等が指摘された。両者 に共通のものとして、機器の低価格化、心電図、体温等のバイタルデータの伝送等が 指摘された。
また、このシステムを使った医療分野の診断は、医師の事前の訓練の効果が大きい との指摘があった。