35・30周年記念誌

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UMIN薬剤小委員会活動報告

薬剤小委員会委員長
広島大学病院薬剤部副薬剤部長
冨田 隆志

 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が設立35周年を迎えるにあたり、薬剤小委員会の活動内容を振り返り、今後の展望を述べます。
 薬剤小委員会は、UMIN設立当初から活動しており、全国の国立大学病院薬剤部の担当者が集まり、薬剤情報に関する様々な課題について議論、情報共有、そして解決策の検討を行ってきた。10周年、20周年の記念誌に掲載された活動記録からも、薬剤小委員会が常に時代の変化を捉え、薬剤師の業務効率化、安全性の向上、そして質の高い医療提供に貢献してきたことが伺える。
1. 活動の概観
 UMINでの薬剤小委員会の活動の大きな第一歩として、添付文書を始めとする医薬品情報の提供がある。これは利用可能な外部情報源が限られ、各施設で自ら情報を整えていく必要のあった当時、業務効率化や情報の質の担保に大いに貢献したものと考えられる。その後、病院薬剤師の業務が次々と拡大し、薬剤管理指導業務が進展していくと、情報通信技術の向上も相まって、注射薬配合変化情報、副作用情報、TDM情報など、臨床現場で必要とされる情報を共有するようになった。特に、患者服薬指導に活用できる「疾患別服薬指導データベース」や、知識共有の進んでいなかった中毒情報を集約した「中毒データベース」、各施設での多大な労力を費やしていたマスター整備の省力化・共通化を進展させた医薬品マスター、用語データベースなどは、組織的に定期的な更新が続けられた。近年の情報環境の進展に伴い、これらの情報は公的、商業的に複数の組織によっても開発、提供されるようになり、薬剤小委員会としての情報更新は終了したが、情報化時代の国立大学病院の薬剤業務構築に大きな成果を上げたと言える。
 また、薬剤小委員会は、単なる情報交換の場ではなく、薬剤業務における問題点を共有し、解決策を生み出す場としての役割を担ってきた。臨床現場における問題点や先駆的事例などの情報を収集し、全国規模での情報共有を目指してきた。血液製剤に関する記録の管理・保管の電子的保存や、製剤ロットのバーコード入力化など、先駆的な取り組みも行われ、共有されてきた。その他にも、全国規模での医薬品情報の標準化など、UMINの特性を活かした活動が行われてきた。このような活動は、UMINの組織力があってこそ実現できたと言える。2010年以降も、1回量処方や、処方箋への検査データ記載、直近では電子処方箋対応、薬局との情報伝達・情報共有などといった多数の社会的ニーズが次々と課題となっており、解決に向けた議論、協議を行ってきた。
2. 委員会の体制
 薬剤小委員会は当初全国8大学(北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、岡山大、九州大)の担当者で活動を開始し、各種システムやデータベースの担当大学の担当者が加わっていった。その後、すべての国立大学附属病院に置かれたUMIN担当者全員を薬剤小委員会委員とし、現在では情報共有の場としての色彩も強くなっている。2008年からは、国立大学附属病院薬剤部長会議を通じてUMINの薬剤部門担当幹事が2年任期で定められ、同大学の担当者が薬剤小委員会委員長を務めて運営されている。

歴代担当

所属
薬剤担当幹事
薬剤小委員会委員長
1989
東京大学
折井 孝男
1997
金沢大学
古川 裕之
1999
山梨医科大学
鈴木 正彦
2001
島根医科大学
西村 久雄
2002
島根医科大学
平野 栄作
2003
高知大学
市原 和彦
2008
鹿児島大学
山田 勝士
下堂薗 権洋
2010
岡山大学
五味田 裕
定金 典明
2012
愛媛大学
荒木 博陽
守口 淑秀
2014
滋賀医科大学
寺田 智祐
炭 昌樹
2016
群馬大学
山本 康次郎
阿部 正樹
2018
鹿児島大学
武田 泰生
有馬 純子
2020
福井大学
後藤 伸之
五十嵐 敏明
2022
大阪大学
奥田 真弘
前田 真一郎
2024
広島大学
松尾 裕彰
冨田 隆志

3. 35周年を迎えて - 今後の展望
 UMIN設立から35年、医療を取り巻く環境、医療情報を取り巻く環境は大きく変化してきた。医療の高度化、専門化、チーム医療の進展、そして医療情報の急速な進展は、薬剤師の役割にも大きな変化をもたらした。医療安全、がん化学療法、ICT/感染制御、チーム医療、在宅医療など、薬剤師が関わる領域は拡大している。これらの領域において、質の高い医療を提供するためには、最新のエビデンスや他施設の取り組み事例などを共有することが不可欠であり、情報共有システムの構築、情報発信の強化を進めていく必要があるだろう。
 医療現場には、電子カルテ、医薬品管理システム、各種データベースなど、様々な情報システムが導入されている。これらのシステムの開発が進み、今後はシステム間のデータ連携、標準化が強く求められており、薬剤業務の効率化、医療安全の向上への貢献が期待されるところである。このように高度化する医療に対応できる薬剤部門を維持、発展させるためには、医療情報に関連する最新の知識や技術を習得した薬剤師が活躍でき、さらに継続的に後進を育成できる環境が必要である。薬剤業務の遂行にあたって、情報技術の活用は必要不可欠である。これらの変化を的確に捉え、UMINを活用した新たな活動展開を模索していきたい。