35・30周年記念誌

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ご挨拶

東京大学医学部附属病院病院長
田中 栄

 当院の大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)センターで運営してまいりましたUMINが、本年度で設立35周年を迎えることができました。UMIN設立30周年時は、新型コロナウイルスの流行が始まった頃にあたり、当院ではとても30周年記念行事を行える状況にはありませんでした。このため、今回のUMIN設立35周年の時期に35・30周年記念行事という形態で記念式典、記念講演会、記念パーティを開かせていただくことにいたしました。
 大学病院の大きな使命は、研究、教育、診療ですが、UMINはこの3つすべての分野に関係する多数の情報サービスを運用し、利用登録者数55万名、Webアクセス件数は月間1億ページビューほどに達しています。海外にも、医学文献データベース、研究助成金データベース、臨床研究支援サービス、臨床試験登録システム等の様々な医学・医療用の公的インターネットサイトは存在しますが、UMINのように、研究、教育、診療にまたがる多様なサービスを提供する総合的な公的情報サービスは、世界的にも他に類例を見ないものとなっています。UMINの数あるサービスのなかでも1997年より運用が開始されたオンライン演題登録サービスは、最もよく知られたサービスであり、500近くの学会で利用いただいています。臨床・疫学研究データを収集するINDICE関連システムもたくさんの臨床・疫学研究プロジェクトで広く活用されており、930万例以上の症例データを蓄積しています。医学生の臨床実習用の経験・能力の記録を行うCC-EPOC、臨床研修医の経験・能力を記録するPG-EPOCも多くの医学生、臨床研修医に利用されています。なかでもPG-EPOCは、臨床研修医の9割が活用しており、このため大学病院や研修指定病院の医師のほとんどがUMINの利用者となっています。
 国立大学病院は、原則として、自施設のための中央診療部門しかもっていませんが、全国的に推進が必要な事業については、全国の大学病院に向けたサービスを行う分野として、国立法人化前に予算措置されてきた部門が3つありました。本学医学部附属病院UMINセンター、名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部、大阪大学医学部附属病院中央クォリティマネージメント部であり、現在もそのまま機能しています。後二者は、自大学病院へのサービスと全国へのサービスを並行して行っていますが、本学のUMINセンターは、専ら全国へのサービスを行うセンターであり、大学病院の中央診療部門として非常に特異な存在となっています。各大学は、学問の自由の原則のもと、自由に研究・教育活動を行うのが原則であり、それが大学のよいところであります。ただし、UMINのような情報インフラストラクチャーは、大学毎につくるよりは、センター方式で集中的に運用した方が遥かに効率的です。また集中方式の方が信頼性の確保、セキュリティ保護の点でも有利です。UMINの情報インフラストラクチャー外からも東京大学学内からとまったく同様に活用できます。またサーバーの能力の範囲内であれば、UMINの情報サービス、UMINのID、UMIN提供データは、追加コストなく、各利用者に提供可能な点も大きな特徴です。全国共同利用・共同研究拠点には様々なものがありますが、実験機器・診療機器の場合には、物理的に拠点内部から利用するしかない場合がほとんどであるのとは、大きく異なります。
 UMINのサービスのほとんどは、広く全国の医学・医療関係者に開放してまいりました。多施設共同臨床研究、疫学研究、学術情報の収集、臨床教育・研修等の活動は、研究者・医療者の所属施設をまたがって実施されるからです。そうした活動で、中心的な役割を果たしてきたのは、大学・大学病院です。UMINがその役割を果たすためには、今まで同様に、今後もサービスの全国の医学・医療関係者へオープンに提供していきたいと考えています。
 私個人のUMIN利用経験としては、まず初めに電子メールの利用がありました。全世界どこからでも使え、所属施設が変わっても継続して使えるUMINの電子メールは非常に便利でした。また整形外科関連領域の多くの学会で、UMINのオンライン演題登録を使っていたため、個人的にも使う機会が多くありました。このため、個人的にもUMINの活動の意義や成果を、身をもって感じています。
 各人が研究、教育、診療に大きな成果をあげるのみならず、全国のリーダーとして日本全体の研究、教育、診療の向上に貢献することも、国立大学病院の重要な使命であると考えています。UMINの活動を当院の使命のひとつと位置づけ、全国の医学・医療関係者のために維持・発展させてきたいと考えています。今後とも、全国の医学・医療関係者の皆様のご支援・ご協力・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。