35・30周年記念誌

35・30周年記念誌へ戻る

UMIN 35周年のお祝いと更なる将来への期待

元UMIN協議会会長
大阪大学大学院医学系研究科医療情報学名誉教授
国立病院機構大阪医療センター院長
松村 泰志

 UMIN 35周年おめでとうございます。
 私は医師になって39年目となりますので、UMINの歩みと、私自身の医師としての歩みはほぼ時期を共にしています。私が大学を卒業した頃は、まだ、インターネットが日本には入ってきていない時期です。この時期から、情報通信技術が将来の医学・医療の領域にも大きな影響力を持つことになることを見通してUMINを立ち上げられた英断に敬服いたします。私も32年前に病院情報システムに関わることとなり、医療現場に情報通信技術を導入して医療をより良くしようと取り組み始めていました。UMINの活動は広く医学・医療領域の情報通信技術の活用を目指したものであり、私の対象は病院内のシステム化ですので少しフィールドは違っていましたが、この技術をどのように取り入れると効果的なのかを考え、周囲を説得し、利用者を教育し、効果が発揮できるように様々な調整をするという仕事内容については、まったく共通していたかと思います。この仕事を経験して感じていたのは、苦労が多い割には報われない仕事だということです。導入するまでは、システム運用のメリットがなかなか理解されず、関係者への説得に苦労します。システム導入の機会を得たとしてもこれを成功させるのは難しく、成功したとしても、当初は褒められることがあっても直ぐにシステムがあるのが当たり前になり、システムの維持管理が必要であることを知られることはありません。しかし、まれにトラブルが発生すると、途端に脚光を浴び、何をやっているんだと叱られます。当初からUMINの責任者を担当されてきた木内先生には、心からお疲れ様と申し上げたく思います。
 私は、UMINの活動当初から、一人のユーザーとして利用させていただいていましたが、2016年度から2019年度までUMIN協議会長を務めさせていただきました。この時初めて運用側のご苦労を目の当たりにしました。私が協議会長を務めたころは、インターネットの導入期から随分と時間が経ち、当たり前のインフラとして利用されるようになっていました。私が協議会長の間に、他のアプリケーションをUMIN IDでのシングルサインオン(SSO)で起動する実証実験、臨床研究の症例報告書登録と症例の割付をする臨床研究支援システムであるINDICE Cloudのリリース、研修医が実施した内容を記録し指導医が評価を登録システムであるEPOCの改訂版であるEPOC2のリリースなど、新たなシステムを開始させる事業がありました。一方で、UMINの予算が毎年400万円ほど減っていた時期であり、それまで提供してきたサービスを整理する必要が生じていました。医薬品情報データベース、医療材料データベースであるメディエについて、各大学病院の利用頻度に差があることから契約形態を見直す議論となり、受益者負担の形に変更することとしました。その後、利用病院が増え、現在は、ほぼ全大学病院で有償利用されているとのことです。オンライン学術集会演題登録システムについて、維持管理のための費用負担が大きくなっていたこと、民間の事業で同様のサービスをするところがでてきたことから停止することを提案しました。しかし、このシステムの利用者は多く、有償化しても良いので継続して欲しいとの要望が多数寄せられました。そこで、利用料金を定めて有償化して利用を継続させることにしました。今年、私が学会長を務めた国立病院総合医学会でも、このシステムを毎年使ってきたとのことで、今年の学会でも使わせていただきました。このシステムを停止させなくて良かったと今更のように思いました。最も大変だったのは、UMINメールサービスの停止でした。この頃は各大学でメールサービスが提供されていましたので、UMINメールは必須では無くなっていると思われました。しかし、異動の多い人にはメールアドレスを変えなくて良いUMINメールがありがたいであるとか、中立的な立ち位置での公的機関のメールアドレスは都合が良いであるとか、個々の大学のメールサービスでは担えないニーズがあり、UMINのメールサービスを廃止しないで欲しいとの声が多数寄せられました。しかし、単に予算の問題だけでなく、標的メールやUMINメールを介してウイルス被害があった事例から、この対策を組み入れたメールサービスを展開するには大きな費用負担が発生するとの越え難い問題がありました。Google社のG suiteに移行させる等の案もありましたが、利用者がアカデミアとは限らないことからG suiteは利用できないことが判明しました。様々な検討の結果、団体や大学病院の業務で利用するメールは残し、個人利用のメールサービスは閉じることとしました。メールサービスを閉じるに際し、UMINアドレス宛のメールを転送する設定をするなど、できるだけ影響がでないよう計画を立てました。私が協議会長を辞める前にその方針を決定しましたが、実際に閉じたのはその後です。特に大きな問題はなく、無事個人向けメールサービスを閉じることができたと聞きました。
 事業は、新たに始める時には苦労がありますが、続けてきたサービスを終了させる時にも苦労が多いことを思い知りました。限られた予算の中で、UMINとして実施すべきサービス内容を選別し、適切にサービスを提供し続けてこられたことに対し、心から賞賛を送りたいと思います。