35・30周年記念誌

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UMIN 35周年のお祝いと更なる将来への期待

北海道大学大学院医学研究院
医学教育・国際交流推進センター教授
橋 誠

 UMINが35周年を迎えられたとのこと、おめでとうございます。
 私は、平成21年(2009年)にEPOC運営委員会委員を拝命し、以来15年間にわたって、木内貴弘先生をはじめUMINの皆様と共にEPOCの開発と運用を行ってきました。このたび35周年の記念に寄稿する機会をいただきましたので、ここ15年間のEPOCの変遷を書かせていただこうと思います。
 EPOC(Evaluation system of postgraduate clinical training、オンライン卒後臨床研修評価システム)は、平成16年度(2004年度)に開始された“新”医師臨床研修制度において、臨床研修医の評価を記録するツールとして、EPOC運営委員会とUMINが共同開発したシステムです。インターネット閲覧ソフト(ブラウザ)で動作し、インターネットに接続された端末があれば、EPOC利用者として登録されたUMIN IDを用いて、いつどこからでもアクセスして評価を登録・閲覧できる画期的なシステムで、運用開始当初は全国の約7割の研修医に利用されていました。
 当時、私は東京医科歯科大学(現東京科学大学)や関連病院で整形外科指導医として研修医を指導する立場にあり、選択科研修で整形外科を選択した2年目研修医の評価を記録するためEPOCを利用していましたが、周辺からは、入力が面倒、自分の科と関係ない項目がある、入力する意味が分からないなど、不満や疑問の声も聞こえていました。私が平成21年(2009年)に医学教育に転身した頃には、EPOC利用研修医数が6割を割り込む状況となっていました。評価項目が多数あることが、研修医や指導医の入力操作が煩雑となる原因の1つでしたが、評価項目は法令に準拠していて変えることができないことから、せめて評価済みの項目を再入力しなくても済むように、目標を達成した評価項目は入力画面から除外できるようにし、さらに、各研修施設のプログラム管理部門が研修医を診療科や指導医に割り当てる事務作業量の多さが、EPOC導入の障壁になっていたことから、時系列にしたがった研修記録機能を省き、「臨床研修の到達目標」の達成度管理に特化した簡易型EPOCを開発し、平成23年度(2011年度)よりMinimum EPOC(ミニマムエポック)として供用しました。新規利用とそれまでのフルスペックのStandard EPOC(スタンダードエポック)からの乗り換えで、全国の60を超える施設でMinimum EPOCが利用されるようになり、利用研修医数の減少に歯止めがかかりました。
 医師臨床研修制度は平成16年度(2004年度)に必修化された後、5年毎に見直しがされており、EPOCもそれに対応するよう改修が行われました。平成22年度(2010年度)の研修プログラムの弾力化(7科必修から3科必修+2科選択必修へ)では、救急当番など研修期間の重複への対応を行いました。平成27年度(2015年度)は大きな制度変更はありませんでしたが、令和2年度(2020年度)に臨床研修の到達目標、方略及び評価が大幅に見直されることとなり、平成29年(2017年)にEPOC運営委員会内に新EPOC開発ワーキンググループが立ち上がりました。当時はまだ珍しかったオンライン会議を導入することにし、当時UMINが提供していた国立大学病院インターネット会議システムUMICS(FreshVoice)を活用して、全国各地に所在する委員が議論を重ねました。システムの主要要件として、1)簡便性(簡便な登録/閲覧/利用が可能)、2)真正性(登録者/登録日時の記録、経験症例と診療録の紐付けが可能)、3)動機付け(研修履歴の管理、専門医申請への活用が可能)、4)機密性(患者個人情報を要求しない、アクセス権限の適切な制限が可能)、5)一貫性(卒前教育・生涯教育の評価/履歴管理に拡張が可能)を定め、UMINと共に1年半という短期間でEPOC2(現在のPG-EPOC)の試用版を開発することができました。EPOC2は、令和2年度(2020年度)の医師臨床研修制度の見直しに対応するとともに、ポートフォリオ機能を搭載し、卒前・卒後のシームレスな臨床教育での活用を企図していたことから、頭字語では旧EPOCと同じですが、スペルアウトするとe-Portfolio of clinical training、日本語ではオンライン臨床教育評価システムと名称を変えました。令和2年度(2020年度)に医師臨床研修制度の見直しに合わせて供用を開始したEPOC2は、全国の9割以上の研修医が利用する研修評価ツールのスタンダードとなっています。
 令和3年度(2021年度)には、EPOC2を卒前の臨床実習で利用できるよう、医学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠してチューンナップしたCC-EPOC(Clinical clerkship EPOC、卒前臨床実習生用EPOC)の供用を開始しました。また、CC-EPOCの普及に伴い、令和4年度(2023年度)にEPOC2をPG-EPOC(EPOC for Postgraduates、卒後臨床研修医用EPOC)へ名称変更し、現在に至っています。
 CC-EPOC/PG-EPOCは、臨床現場での医師養成を卒前・卒後を通してシームレスに実施するための基盤となる重要なシステムとして現在稼働中です。これらのシステム開発・運用はUMINがなければ成し得なかったものであり、改めて深謝いたします。また、さらに専門医教育、生涯教育に資するEPOCシステムの開発が今後計画されています。EPOCシステムの開発・維持・運営を通じて、本邦の医学教育の発展にUMINが今後さらに貢献されることを期待しています。