35・30周年記念誌

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UMIN 35周年に寄せて:臨床研究データ管理の先駆者から次世代データ活用の担い手へ

順天堂大学健康データサイエンス学部准教授
大津 洋

 UMIN運用開始より35周年、誠におめでとうございます。私は生物統計学を専門とし、臨床研究のデザインや品質管理に関わっております。UMIN INDICEやCDISC標準に関する研究でご一緒する機会が多いことから、生物統計学の観点から見たUMINのサービスの意義と、今後に対する期待を述べさせていただきます。

○EDCサービスの先進性
 UMINがControlled Clinical Trial(1996)に発表した論文は、WebベースのClinical Data Management System(CDMS)の先駆的な実装例として重要な意義を持っています。当時はインターネット黎明期であり、ブラウザやWebサーバーの技術も発展途上でしたが、UMINはこれらを採用し、遠隔地からのデータ入力と即時的なデータ検証を可能にしました。
 CDMSは、Electronic Data Capture (EDC)として認知されています。Web-based EDCは1990年代中頃からInformなどの商用サービスとして展開が始まり、アカデミア領域では2004年にVanderbilt University で「REDCap」の運用が開始され、2006年からサービス提供が開始されました。それぞれ開発の思想や機能の差がありますが、1990年代の中頃という早い段階で、インターネットを活用しながらアカデミアの臨床研究を支援するサービスを展開したという点は非常に大きな意義があったといえます。
 とりわけ、ブラウザベースのユーザーインターフェース、多施設からのデータ収集機能、そしてデータ管理機能および割付機能の実装は、現代のEDCシステムの基本要件となっており、UMINのシステムがいかに先見性を備えていたかを示しています。

○データ構造の標準化への取り組み
 UMINは早くからFDAや米国製薬企業への視察を通じてCDISC標準規格群への理解を深め、2008年よりCDISCに関するセミナーを実施し、CDISC標準を活用した法医学データベースシステムを構築するなど、様々な活動を行ってきました。これは、臨床研究データの国際的な相互運用性を確保するという観点から、非常に重要な取り組みだと考えます。
 特に、Study Data Tabulation Model(SDTM)やOperational Data Model (ODM)への対応は、データの二次利用の可能性を高め、メタアナリシスなどの統合解析を容易にする基盤の一助となったのではないでしょうか。現在は、PMDAがCDISC標準規格群を申請データとして活用するなど、実際の利活用が進んでいますが、それ以前の研究の場でCDISC標準規格群とはなにかを検討して、実装してきたUMINの先駆的な役割は大いに評価すべきだと思います。
 データ標準化の実装では、既存データの変換やマッピングルールの確立、そしてバリデーションプロセスの整備など、多くの技術的課題がありました。こうした経験の蓄積は、現在の臨床研究データ管理においても重要な知見となっています。

○リアルワールドデータの活用とUMINへの期待
 2025年現在、臨床研究は比較試験に加え、リアルワールドデータ(RWD)の利活用へと領域を拡大しています。RWD活用において重要となるデータの品質管理と標準化は、まさにUMINが長年培ってきた強みが発揮できる分野です。
 具体的な課題として、データ形式の統一化、欠測値の取り扱い、データクリーニングの方法論、異種データソースの統合などが挙げられます。これらの課題に対し、UMINの保有するデータ標準化の知見は大きく貢献できると考えられます。従来のEDCで確立されたデータ品質管理手法は、RWDの信頼性確保にも応用が期待されます。
 医療の発展に伴い、標準化されたデータ管理基盤の重要性は一層増大するでしょう。UMINには、これまでの実績を基盤としつつ、AIや機械学習技術の活用、国際研究ネットワークとの連携強化など、新時代の研究ニーズに応える革新的なサービスの展開を期待しています。

引用文献:

  1. Kiuchi T, Konishi M, Bandai Y, Kosuge T, Ohashi Y: A world wide web-based user interface for a data management system for use in multi-institutional clinical trials - development and experimental operation of an automated patient registration and random allocation system. Controlled Clinical Trials 1996;17:476-93.
  2. Kiuchi T: UMIN INDICE and virtual coordinating centers for clinical research. Proceedings of the International Conference on Advances in Infrastructure for Electronic Business, Education, Science, Medicine, and Mobile Technologies on the Internet 2003
  3. Harris PA, Taylor R, et al. Research electronic data capture (REDCap)--a metadata-driven methodology and workflow process for providing translational research informatics support. J Biomed Inform. 2009;42(2):377-81.
  4. UMIN CDISCへの取り組み https://www.umin.ac.jp/cdisc/#cdisc_deta (2025年1月6日閲覧)
  5. 厚生労働省 新医薬品の承認申請について(平成29年3月31日付薬生薬審発0331第1号)https://www.mhlw.go.jp/ (2025年1月6日閲覧)