35・30周年記念誌

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オンライン歯科臨床研修評価システム(DEBUT2)について

大阪大学歯学部附属歯学教育開発センター教授
長島 正

1.はじめに
 平成18年度から歯科医師臨床研修が必修化されるのを前に、UMINセンターの協力を得て、オンライン歯科臨床研修評価システム(DEBUT)を開発した。歯科医師臨床研修では、研修歯科医が日々経験した症例数を項目毎に集計できるとともに、厚生労働省が示す臨床研修の到達目標への到達度を評価しなければならない。そこで、DEBUTでは研修実績として経験症例数を蓄積するとともに、それらの総合評価として到達目標への到達度が評価できるシステムとして提供し、平成18年のリリースとともに全国の研修施設にて活用されてきた。しかし、個人情報保護の観点から、患者の氏名、カルテ番号など個人を特定できる情報を扱わない仕様としていたことに加え、研修歯科医と指導歯科医が別々の端末でシステムにログインし、研修歯科医が登録した症例に対して指導歯科医が評価を下す仕様となっていたことから、指導歯科医が評価を下す際に症例の特定に苦慮するなど、当初からその改善点が指摘されていた。
 一方、令和3年3月に卒前・卒後のシームレスな歯科医師養成課程の整備を目標とし、到達目標の大幅な見直しを含む歯科医師臨床研修制度の改正が実施され、DEBUTでは新しい評価方法に対応できなくなったことから、新しい評価システムの開発が喫緊の課題となった。そこで、令和4年度から2年間、厚生労働科学研究の援助を受け、UMINセンターの協力のもと、新オンライン歯科臨床研修評価システム(DEBUT2)の開発を行った。

2.DEBUT2の開発
 令和3年に改訂された歯科医師臨床研修の到達目標はA領域、B領域、C領域に分けて示されているが、このうち、A領域とB領域は先行して到達目標が医師臨床研修の到達目標と共通化されたものとなっている。一方、C領域は歯科特有の日々の研修実績に基づいた評価が中心となっていることから、DEBUT2では、A領域、B領域の評価については卒後臨床研修医用オンライン臨床教育評価システム(PG-EPOC)をベースとして開発し、歯科独自の項目が多いC領域については新たに開発することとした。
 C領域の評価を行う際には、各研修歯科医が日々経験した症例数を根拠資料として、厚生労働省が示している研修目標への到達度を正確に評価する必要がある。この中で日々経験した症例数を正確に蓄積できるシステムとして、全国の多くの歯学部および歯科大学の臨床実習にて電子版臨床実習・臨床研修連携ログブック(e-logbook)が利用されており、多くの学生時代にe-logbookを利用した研修歯科医が一定数存在していること、e-logbookを臨床研修にも活用することで文部科学省および厚生労働省が提唱している臨床実習と臨床研修のシームレスな連携がとりやすくなることを踏まえ、新しい評価システムのC領域における評価ではDEBUT2とe-logbookを機能的に連携させることを検討した。
 すなわち、DEBUT2とe-logbookをシングルサインオンにて連携させることによって、利用者にとっては1つのシステムのように扱えるようにするとともに、e-logbookがもつ学習者の経験症例数を正確かつ簡便に収集できる機能と、DEBUT2がもつ厚生労働省が示した臨床研修の到達目標に対して、評価のガイドラインに則した評価が可能である機能を併せ持つことにより、それまでの研修実績(経験症例数)を根拠としつつ、臨床研修の到達目標に対する評価が行えるシステムとして構築した。

3.まとめ
 開発されたシステムにログイン後、評価票Tを選択すると、図に示したような画面が表示される。この画面はC領域の、(1)基本的診察・検査・診断・治療計画のうち、「@患者の心理的・社会的背景を考慮した上で、適切に医療面接を実施する。」という到達目標に対する評価を入力することができる。この到達目標には、e-logbookでの評価項目のうち、医療面接の病歴聴取および診療録記載が紐づけられており、それに対する症例数の集計結果が、自験、介助、見学に分けて表示される。指導歯科医はこの症例数を根拠とし、研修歯科医の日々の態度など参考として、「認定症例数」を入力し、さらに上部の担当指導歯科医評価欄にこの段階での到達レベルを4段階で評価する。
 本システムの開発、リリースによって、再びDEBUTにて歯科医師臨床研修の評価を、根拠を持って行えるようになった。
 今回の開発では、DEUBT2とe-logbookという2つの異なるシステムの連携を図ったことから、当初は想定されなかったいくつもの課題が生じたが、それでも短期間で開発し、運営できているのはUMINセンターの絶大なご協力に寄るところが大きい。改めて心から感謝申し上げたい。