1.初代EPOCシステムの開発の経緯
2004年度から医師臨床研修制度が必修化されたことで、研修の評価や記録保管が義務付けられ、従来の研修手帳などの紙媒体での記録保管は重大な課題となった。これを受けて、臨床研修記録の記録・参照・保管に関して、IT化が議論され、国立大学附属病院長会議臨床研修協議会主導のもと、EPOC運営委員会が仕様を検討し、UMINセンターでの開発がなされ、2004年4月初代EPOC(Evaluation system of Postgraduate Clinical Training)の運用が開始された。
開始初年度は研修医5090名、大学病院プログラム81、一般プログラム306と研修医の2/3が利用する、全国規模の研修評価システムとなった。しかし厚生労働省の求めた当時の253の評価項目の入力が、診療現場で相当の負担を強いる結果となり、徐々に利用者が減少した。この課題を受けて、2010年度より従来のEPOCからデータ入力や機能を最低限に限定した、簡易版EPOC(Minimum EPOC)の開発・運用を開始した。これにより大学病院などではフル機能のStandard EPOCを、また一般病院などでは簡易版のEPOCを利用するといった、施設の規模やニーズに応じた柔軟な運用が可能となった。
2.新しい医師臨床研修制度とEPOC2の開発と役割の進化
医師臨床研修制度は概ね5年ごとに定期的な見直しが行われてきたが、2020年度開始の見直しでは、卒前卒後の一貫した医師養成を目指し、到達目標・方略・評価など大幅な改定がなされた。この見直しに伴い、新たなオンライン臨床教育評価システム「EPOC2(E-Portfolio of Clinical training)」の開発と運用が開始された。
新しいEPOC2の開発は、2018年より田中雄二郎前EPOC運営委員会委員長とUMINセンターの木内教授、高橋誠北海道大学教授らを中心として開始された。2019年12月に利用申請の受付を開始、2020年1月20日にEPOC2全国説明会を実施し、4月より本格的な運用を開始した。新システムでは臨床現場での観察と速やかな評価入力とフィードバックを実現するため、スマートフォンからの入力に対応し、ユーザーインターフェイス(UI)のデザイン性も検討し、ユーザーの利便性を向上させるとともに、経験症例の承認、基本的臨床手技の評価入力、360度評価など多面的な評価を取り入れやすくすることで、研修医の能力評価の精度を高めることを目指した。
特に360度評価依頼の際には、研修医からQRコードを提示して、それを評価者がスマートフォンで読み取ることで、速やかに該当研修医の評価ページを見ることができ、評価もスムーズに入力可能である。これはUMIN-IDを持たない一般の患者・医療者にとっても、研修医を評価できる、実用的かつ効果的な機能といえる。
また指導医の指導実績を抽出する機能も有しており、近年求められている指導医の教育業績を正当に評価するための重要な基盤として活用できる。「医師の働き方改革」で二の次とされがちな教育であるが、この機能により、指導医の教育活動が客観的かつ体系的に記録されて可視化されることで、教育環境全体の質の向上に寄与できると考えられる。
厚生労働省の臨床研修ガイドラインに基づき、その利用促進も進められた結果、現在では全国の使用施設は800を超え、臨床研修医の93%(約8500名/年)が利用する、臨床研修医の悉皆調査としての機能も果たしている。このシステ(ムは、研修医教育のデータベースとして役割を担うだけでなく、世界でも例を見ない先進的な取り組みとして注目を集めている。その独自性と規模から、海外からも関心が寄せられており、国際的なモデルケースとしての役割も期待されている。
3.卒前教育用EPOC(CC-EPOC)の開発・運用開始
2020年度臨床研修の到達目標の一致が図られた結果、卒前の医師教育の基盤となる、平成28年度版モデルコアカリキュラムによるコンピテンシーと、シームレスな医師養成の評価が可能となった。それに合わせて、平成28年度版モデルコアカリキュラムに則した卒前の診療参加型臨床実習の、実習の記録と評価を記録するツールとして、CC-EPOC(Clinical Clerkship -EPOC)の開発が開始され、2022年に運用を開始した(これに合わせて、EPOC2はPG(Post Graduate-EPOC)に改名している)。
卒前教育と卒後教育の同一の評価項目について、統一した基準で一貫して評価することは、教育の連続性、整合性を確保する重要な取り組みである。具体的には、卒前教育で求められる知識と技能、態度の評価基準が、卒後教育においても発展形として適用されることで、学びの継続性が確保される。このため、CC-EPOCにおける評価項目の基準はPG-EPOCと連動する形で策定され、卒業時の臨床実習終了時の評価が、臨床研修開始時につながるように確立されている。さらにこの終了時の評価は、利用者本人から同意を得た後、臨床研修プログラム管理者は参照できるようになっている。
CC-EPOCは開始以来、徐々に利用大学が増加しており、全国の約半数の大学が使用を開始している。大学によって臨床実習の形式や、評価方法は様々であるが、CC-EPOCには独自評価票の作成と登録機能も有しており、各大学での独自運用にも活用されている。また令和4年度版モデルカリキュラムへの対応も可能となっており、最新の教育ニーズに応える形で進化を続けている。
4.専攻医用EPOCの新規開発と将来への展望
CC-EPOCの開発とともに、2022年度には専攻医用オンライン臨床教育評価システム(SP-EPOC)について、専門医制度を有する学会への調査を実施した。この調査結果を基に、臨床教育評価方法を作成するためのガイドラインを策定し、そのガイドラインに基づいて、臨床教育評価方法を作成した場合に、SP-EPOCを活用できるようにシステムを開発する方針が決定された。さらに、SP-EPOCは専門医の認定と更新を、同時に管理するシステムとしても機能させる予定である。
EPOCシステムは医師の生涯にわたるポートフォリオとしての機能を果たし、卒前教育から卒後教育、専門医に至るまで、医師のキャリア全体を一貫して支える重要な基盤として発展している。この一貫性により、医師の能力開発や教育の質の向上を促進する役割を果たしている。
また、EPOCシステムは教員・指導医・研修管理者にとっても、強力な支援ツールである。個々の学習者の進捗を可視化することで、指導方法の改善や教育プログラムの最適化が可能となり、将来的にはAIやデータ解析技術による支援も期待される。EPOCシステムは今後中核的なプラットフォームとして、その重要性はさらに高まると考えられる。
しかし、この期待される役割も、利用者の存在があって初めて成り立つものであり、利便性の向上や安定した運用は不可欠である。これに対し、EPOCシステムでは日々寄せられるフィードバックを元に、UMINセンターのスタッフが継続的にシステムの管理と改善を行なっている。利用者からの貴重な意見を反映し、より利用者のニーズに即したシステムの構築と運営が、今後ますます求められるだろう。