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UMIN利用者からの声
インターネットを用いた医療情報公開と医療教育   

NTT東日本関東病院脳神経外科部長 
森田 明夫


 UMIN20周年おめでとうございます。
 私は米国から1998年に日本に帰国しましたが、この10年間UMINをフルに活用させていただきました。先に桐野先生がまとめられましたUCAS Japanなどの臨床研究では事務局を努めさせていただき、さらに医療情報の公開、また医学生対象のe-Learningシステムの構築等にUMINを活用させていただきました。後者2つに関して私の経験とUMINに期待することをまとめたいと思います。

1:医療情報の公開:Neuroinfo Japanの立ち上げ
 社会は現在インターネットという安価できわめて深い情報を取得する手段を取り入れ、日本全国、情報の地域差はほとんどなくなったといって過言ではないと思います。そんな中で、医療は社会がもっとも情報をほしがっている領域です。現在たとえば「くも膜下出血」と引くと Yahooでは926,000件、Googleでは405,000件の情報がHITします。もう少し特殊な「聴神経腫瘍」でも240,000件、「未破裂脳動脈瘤」は150,000件がHITする。そのほとんどは自分の施設はどれくらい治療していて、どのような成績であったか、その他のセールスポイントを挙げ、また一方では患者さんの体験記なども散見されます。情報の整理が非常に重要であるとおもわれました。足りないのは、我田引水ではない疾患の基本情報であり、疾患に対する情報を整理したものでした。そこで(社)日本脳神経外科学会および日本脳神経外科コングレスの広報委員会が社会への役割の一旦として合同で脳神経外科疾患情報Homepage (Neuroinfo Japan)を立ち上げることになりました。疾患毎に班を形成し、最新の疾患情報と治療法に関する情報を掲載できる場としました。主体は国民が知りたがっている一般の疾患情報を中心とし、脳神経外科の役割なども社会の理解を深めるために掲載させていただきました。医療施設や個人の宣伝的情報は排除し、できるだけ国民が偏りのない疾患の情報を得やすい情報源となるよう努力して担当班に記載してもらいまとめることができました。またなかには少し専門家向けのUp to dateな情報を含め、それを目的に専門家も記事を読み全般の内容をチェックでき、指摘・訂正できるサイクルを構築しました。おかげさまで現在は脳神経外科疾患の用語のなかでのランクはほとんどの分野でTop 10に入っています。この情報をもとにさまざまな施設情報や患者の経験等の紹介ページを読めば、理解はさらに深まると思われます。
 しかし、そういったサイトも自分の病状に悩む患者さんからは、施設情報ページの親玉、医療紹介・医療相談の窓口のように考えられ、質問メールを受けることが数多くありました。
 もちろんそのような情報には答えることができないとご返事してきましたが、このような状況をみると、Neuroinfoのような一般的疾患情報公開以外に、医療施設の情報を客観的に評価でき、アクセスできるシステムをできるだけ早く全国規模で構築しなければならないと考えます。現在多くの医療施設ではクリニカルインジケーターの公開が順次進められていますが、内容には偏りがあり、またそのほとんどは患者さんが求めているような情報ではなく、「予期せぬ再手術数」など、患者さんから見るとすこし抽象的な内容が多くなっています。各疾患の重症度、カテゴリー別の成績の客観的公開が非常に重要になってくるとおもいます。社会からの要望からではなく、医療者側から進んでそのような情報を発信できるシステムを構築しなければ、医療への信頼はさらに揺らいでゆくと考えます。できれば各専門科学会とUMINが協力して公表すべきインジケーターの内容の雛形を示し、ほとんどの疾患について全国施設の診療情報を公開できるようにすることが社会に開かれた医療を構築する道ではないかと思います。

2:医療教育におけるUMINの活用, E-learning
 東京大学の医学部学生は全員がUMINの個人アクセスコードを所有しており、UMINには東大学生限定のE-Learning講座を作ることができます。他の大学でも同様なことは可能であると思います。私は東京大学教務委員であった際に試みとして脳神経外科講座をオンライン上で構築しました。学科の講義内容、ベッドサイド講義やその他の少人数講義の内容をpdfやスライド形式で学生に提示し、予習や復習を可能にしました。さらに自己テスト、重要な疾患の症例テスト、これまでの卒業試験等の問題の公開、代表的手術のビデオ等を公開し、できるだけ生きた教材として使えるようにしました。
 重要なことは、現在医学生が学ぶべき情報は膨大となり、こまかな情報をすべて講義やベッドサイドで教える時間的余裕がないこと。それを克服するために、ただ事実の羅列になってしまう陳腐な授業をさけなければならないということです。講義で教えていた情報はオンラインで得られ、また理解もできる。必要なときに学生はいつでもアクセスできる。一方講師が直接医学生に話す授業では、情報の羅列では教えられない、一例から得られた貴重な体験や診療に対する熱意、医療の奥深さ、面白さを伝えねばならないと思います。
 スライドに出てくる細かい事実の羅列を細かくノートにとる授業ほどおろかな時間のすごさせ方はないと考えます。それは本を読めばすむことで、講師が伝えたい事実をスライドにまとめたものはオンラインで伝えれば、もっと時間は有効に使えると思います。授業時間を短くして患者と直接触れる時間を増やす、実技シミュレーションをさせる、そして我々が症例から学んできた生きた医療を教える時間に替えるべきであると考えます。そのためにもより理解度を向上させるE-Learningシステムを構築する必要があります。いろいろな大学間で切磋琢磨し、知識や経験を共有してゆくことで内容を向上し、また学生にもある程度他大学の授業へのアクセス権・評価権をあたえ、大学によってことなる教育の味を知る機会になればさらに医学に関する興味を持たせる機会になると思います。
 このような面で、UMINは日本のオンライン医科大学の役割の中心となっていけると確信します。オンライン電子教科書・オンライン講義・オンライン自己テストの構築に始まり、バザール的に情報を収集できるシステムを構築し、まず代表的なE-Learningの骨格を形作る。その上で各大学は大学毎の特色をもったE-learning講座を構築できるようにすればよいと思います。将来はNINTENDO DSとかi-Podでみながアクセスしやすい媒体で配信することも考慮しても良いと思います。

おわりに
 医療情報の公開、そして効率的医学教育システムの構築は大学や医療施設だけの個の努力では難しい問題が山積しています。日本を代表する医療情報ネットワークであるUMINこそ今後の日本の医療の根底をささえるシステムとしてますます発展してくださることを期待します。
 これまでさまざまな面でのサポート大変ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。