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看護系学会とUMIN

東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻長
元日本看護科学学会理事長
村嶋 幸代


 本稿では、看護学という新しい学問の体系を例に取り、その発展をUMINが如何に支えてきたかについて、一つの学会へのサポートを中心に示したい。

1.はじめに―看護系大学の増加と看護系学会の発展
 医療の高度化・社会の複雑化によって、看護職にもより高い専門性と高度の知識が求められるようになってきた。このような社会の要請に応じて、看護職の教育機関として4年制大学の重要性が認識され、看護系大学や看護学部・看護学科が、急激に増加している(表1、図1)。特に近年著しいのは、大学院の増加である。2002年(平成14年)に54校だった修士課程が2008年には109校となった。また、博士課程は、16校から46校へと3倍になった。これに伴い、看護学を研究する者の数も急激に増えてきている。
 看護系大学の増加、即ち、看護職の教育が大学で行われるようになり、今までアカデミアの世界から遠くに存在していた看護が、学会という形を通して学術の世界に参画するようになってきた。日本学術会議の登録団体に、看護系学会として初めて日本看護科学学会が登録されたのが1987年。その後、会員を出せない看護学専門委員会、看護学研究連絡委員会の時代が在ったが、初めて2005年に南裕子氏(現、日本看護科学学会理事長)が日本学術会議会員となり、「看護学分科会」が出来るに至って、学術の分野への参画が目に見えやすくなった。


表1. 看護学の修士・博士課程の増加

年度 1974 1986 1997 2002 2006 2007 2008

学士課程 4 11 51 105 144 157 167
修士課程 2 4 13 54 86 101 109
博士課程 1 2 4 16 36 43 46

2.日本看護科学学会(Japan Academy of Nursing Science:JANS)とUMIN
1)日本看護科学学会の概略
 日本看護科学会は、平成20年9月末現在で会員数5,600人、日本における最大級の看護学の総合学会である。設立は、昭和56年7月25日(1981年)。看護系学会の中では最も古い学会の一つであり、歴史的にも看護系学会の牽引役としての役割を果たしてきた。
 昭和62年に、看護系学会としては初めて日本学術会議に登録されると共に、国際看護学術集会の開催(平成4年〜16年、3年毎)や、和文誌および英文誌Japan Journal of Nursing Science の発刊(平成16年、年2回刊行)等、着実に活動してきた。設立時の正会員は185名であったが、会員数は、図3のように着実に増加し、近年は、3年毎にほぼ800-1,000人ずつ会員が増え、2008年9月末現在、5,592件(正会員5,581名、名誉会員6名、賛助会員5団体)である。
 学会の目的は、「看護学の発展を図り、広く知識の交流に努め、もって人々の健康と福祉に貢献する」である。将来的には公益法人になることを目指しているが、公益法人制度改革の影響を受けて、先ずは、「有限責任中間法人 日本看護科学学会」となり(平成19年1月30日)、2008年12月からの制度改正により、「一般社団法人日本看護科学学会」に移行した。

図1.看護系大学数の増加


図2.看護系学会の増加


図3.日本看護科学学会会員数の推移


2)日本看護科学学会とUMIN
 日本看護科学学会は、看護系学会の中では逸早く創設された。そのため、手探りで、様々な事柄に挑戦し、看護学が学術の世界に位置づけられるような道を開拓してきた。その際に、様々な形でUMINのサポートを受けてきた。筆者は、日本看護科学学会に関して1999年から2001年まで副理事長、2002年から2004年まで理事長を務めたが、学会が伸びていく過程で、UMINにはとてもお世話になったと感謝している。
 UMINのサポートで大きかったのは、@ホームページ開設(1999年)、A事務局のメールアドレスの取得(2001年8月)と独立事務所開設(2001年)に当たっての体制サポート、B学会誌のon-line 論文検索(2004年9月)、CUMIN上の演題募集・査読システム(2000年)である。現在は、D学会誌へのon-line投稿も検討中である。

(1)UMIN活用の最初−ホームページの開設とメールアドレスの取得
 日本看護科学学会がUMINにお世話になり始めたのは、学会のホームページをUMIN上に開設する許可を貰った1999年からである。
 ホームページ開設のサイトとしてUMINを選択した一番の理由は、その中立性・公共性、そして、無料であることであった。医療者のために、システマティックに運営されているという信頼があり、ホームページの開設場所としてUMINを選定し、お願いすることになった。更に、2001年8月には、UMINのメールアドレスを、学会事務や学会誌編集用に複数取得した。
 その後、多くの看護系学会もUMINを活用して今日に至っている。

(2)独立事務所開設、学会事務センターに委託した事務の引き取りとUMINの支援
 日本看護科学学会の歴史の中で、独立事務所の開設は、大きな意味を持っていた。学会が、一人前の人格を持ち、ある意味で「社会人として」、看護学の学術を用いて社会に貢献していくことが法人化であるが、その前提として、独立事務所が必要であった。
 日本看護科学学会は、昭和56年の創設時から平成4年まで、11年間も聖路加看護大学に事務所をお願いしてきたが、学会員が1,000名を超え、負担が過重になってきた。このため、会員管理を含む学会事務は、財団法人日本学会事務センターに委託し、その他の庶務業務は、理事長が所属する大学が引き受けることになった。理事長が交代する度に、30箱以上のダンボールを移動し、若手教員が慣れない学会事務を担当してきた。教員の負担は大きく、ロスも大きかった。
 この様な状況下で独立事務所開設の必要性は高まっていたが、なかなか踏み出しができなかった。数ヶ所の学会事務所の状況を調べ、2002年1月に筆者が理事長になると同時に、思い切って独立事務所を開設することに踏み切った。同時に、学会事務センターから、学会誌の販売を除く全ての業務を引き取った。
 独立事務所の開設に際しては、UMINという存在があり、ホームページ、メール等々、基本的なインフラを無料で使えるという安心感があり、大変心強かった。UMINが無ければ、思い切って学会事務センターから離れることが出来たか否かは分からない。
 その後、財団法人学会事務センターは倒産し、多くの学会がその余波を受けた。日本看護科学学会も無傷では無かったが、会員管理業務等を引き取っていたため、軽症で済んだ。損害が軽かった背景には、独立事務所をサポートしてくれたUMINの存在があったと思い、大変感謝している。

(3)学会誌のオンラインジャーナル化・論文検索システムとUMIN
 創設後20年間紙媒体でしか配布されていなかった学会誌を、WEB上で検索し、論文をダウンロードできるようにしたいと考えるようになった。一番の理由は、学会員が毎年200-300名増加するため、印刷部数の予測が難しく、また、過去の雑誌の置き場所に困るようになったことである。このため、創刊号からの学会誌掲載論文を全てpdf化してUMIN上に収載し、会員がダウンロード出来るようにした。また、検索機能も持てるように工夫した。2004年9月のことである。
 これを契機に、全会員にUMINのIDを発行して頂いた。当時の会員数は約4,500名。それより前からUMINのIDを持っていた会員は少なく、UMINユーザーが増えることにも、少しは貢献したと思う。

(4)オンライン演題登録・査読システム
 2000年に開催された第20回日本看護科学学会学術集会(川村佐和子会長)からは、UMINのオンライン演題登録システムを活用し始めた。従来、日本看護科学学会では、学術集会に申し込まれた演題の抄録を、全て査読してきた。看護系では複数回の査読システムをとっている学会が多く、本学会が加わる際に、査読回数の設定を含めてUMIN側から様々なご配慮を頂いた。
 当初、インターネットが使えない環境にいる学会員もおり、郵送申し込みと併用したが、筆者が会長をした第27回学術集会からは、UMIN経由のみに一本化した。

(5)オンライン投稿の検討
 目下、導入を検討しているのは、オンライン論文投稿・査読システムである。学会誌編集委員会が検討を進め、ELBIS論文査読システム導入に向けてテスト中である。これが実現すれば、査読システムを省力化できると期待している。

 以上、一つの学会の成長を、様々な形でUMINがサポートしてきた経緯を見た。この間、看護学が少しずつ形に見えるようになり、看護系学会も多数立ち上がってきた。その中にはUMINのお世話になっている学会も多い。


3. 看護系学会におけるUMINの活用
1)日本看護系学会協議会
 看護系学会は、看護学を基盤とする学会である。看護学の研究者を組織化する取り組みとして、2001年9月に「日本看護系学会協議会」が設立された。この協議会は、看護学の多様な学会の相互交流と連携をはかり、看護学研究の成果を社会に還元する学会活動を支援すること、また、看護学の学術団体の立場から、人々の健康と生活の質の向上のために国・社会に向かって必要な提言を行うことを目的とし、現在、34学会が加入している。看護学の総合学会から専門分野別学会、大学を基盤とした学会など、看護学の主な学会が加入している。
 この協議会は、発足以来日本学術会議と連携し、看護学の発展にむけて活動してきた。特に、平成17年10月以降は、会員選出に伴って設置された看護学分科会と密な連携を図り、検討会、公開シンポジウムやニュースレターの発行等を実施している。

2)看護系学会とUMIN
 この看護系学会の実に多くが、UMINに大変お世話になっている。看護系学会34学会中、ホームページにUMINを活用しているのは19学会(55.9%)、また、学術集会開催時の演題申し込みと査読にUMINを活用しているのが14学会(41.2%)である(表2)。演題申し込みに関しては、最低演題数が150題に設定されているので、中規模以上の学会しか利用ができないが、今後、看護系学会の発展に伴って、更に活用できる学会が広がっていくと考えられる。他にも、学会誌のバックナンバー収載、委員会活動におけるメーリングリストの活用等、枚挙に暇が無い。

3)UMINからみた看護学の活動
 UMIN事務局の調べでは、メーリングリストは、現在UMIN開設中の6,692のメーリングリストのうち、246(3.6%)に「看護」という言葉が名称に使われているという。利用数は少ないが、今後、伸びていくであろう。
 研究としてUMINを活用する方策が、無作為化比較臨床試験の登録システムである。現時点における全登録数1,499件中、看護学の研究者が「実施責任組織」になっているのは3件のみ*である。大変少ないと言わざるを得ないが、自由記載語に「看護」を入れると11件ヒットしてくるので、領域的には、今後も拡大できると考えられる。無作為化比較試験を用いれば、強力なエビデンスを提供することができる。2008年8月に日本学術会議看護学分科会では、「看護職の役割拡大が安全と安心の医療を支える」という提言を出した。今後、エビデンスに基づく効果の提示が不可欠であるが、その際に、UMIN臨床試験登録システムも活用し、切磋琢磨していく必要があると思う。先ずは、看護界でこういう登録システムの存在を広め、活用していくことが肝要である。同時に、UMINインターネット医学研究データセンターの積極的活用も考慮すべきであろう。

 *(「在宅虚弱高齢者への予防訪問:老年症候群寝たきり予防閉じこもり予防」「入院患者の精神的ケアニーズと看護ケアの実態」「周産期ドメスティック・バイオレンスのスクリーニング方法の有効性:ランダム化比較試験」)


4. 今後UMINに望みたいこと
 今まで述べてきたように、看護系の学会は、UMINには、大変御世話になってきた。
 UMINには、公共のインフラとして、現在持っている機能を今後も維持し、十分に役割を発揮し続けていただきたいというのが第一の希望である。
 第二の希望は、今まで学会のサポートシステムを色々と開拓してきたように、今後も、時代の変化に伴って必要となる各種の情報サービスを充実していただきたいということである。学会運営は、細かな事務仕事の積み重ねである。そして、学会活動を遂行しようとすると、どうしても若い人に負担がかかってくる。その負担は、極力少なくしなければならない。幸い、IT化が進み、様々な場に居る人がUMIN環境を活用しやすくなった。投票システム等も含めて、オンライン化が進むことを期待している。
 第三の希望は、研究のサポートも、充実して頂きたいということである。本稿では、主に、学会の運営サポートについて述べたが、看護学の分野でも、今後、無作為化比較臨床試験等がより多く行われるようになるだろう。UMINインターネット医学研究データセンターも積極的に活用していきたい。
 一方で、国立大学が法人化され、運営交付金が毎年削られている。UMINの予算状況は分からないが、いずこも厳しい環境にあろう。看護系学会の多くは、UMINの各種のサポートに支えられている。看護系学会の活動、即ち、看護学という学問の発展に、UMINの存在は欠かせない。UMINにサポートされている学問分野は、看護学だけではないであろう。そういう意味では、UMINは、日本の学術にとって、非常に大事なインフラである。UMINによる長年の支援に感謝するとともに、今後の発展と安定的な運営を、心から願っている。



表2 看護系学会とUMIN利用状況

  学会名 演題募集 HP利用 ホームページURL
1 高知女子大学看護学会 - - http://www.kochi-wu.ac.jp/~nsgakkai/
2 聖路加看護学会 - http://slnr.umin.jp/
3 千葉看護学会 - http://cans.umin.jp
4 日本家族看護学会 - http://square.umin.ac.jp/jarfn/
5 日本看護管理学会 http://janap.umin.ac.jp/
6 日本看護科学学会 http://jans.umin.ac.jp/
7 日本看護技術学会 - http://www.jsnas.jp
8 日本看護学教育学会 - http://www.jane-ns.org/
9 日本看護教育学学会 http://jasne.umin.jp
10 日本看護研究学会 - http://www.jsnr.jp/
11 日本看護診断学会 - http://jsnd.umin.jp/
12 日本看護福祉学会 - - http://kangofukushi.sakura.ne.jp
13 日本看護歴史学会 - http://plaza.umin.ac.jp/~jahsn/
14 日本がん看護学会 http://jscn.umin.jp/
15 日本救急看護学会 http://jaen.umin.ac.jp/
16 日本クリティカルケア看護学会 http://jaccn.umin.jp/
17 日本災害看護学会 - - http://www.jsdn.gr.jp
18 日本在宅ケア学会 - http://jahhc.umin.jp/
19 日本手術看護学会 - - http://www.jona.gr.jp
20 日本循環器看護学会 - - http://www.jacn.jp/
21 日本小児看護学会 http://jschn.umin.ac.jp/
22 日本助産学会 - http://square.umin.ac.jp/jam/
23 日本新生児看護学会 http://square.umin.ac.jp/~shinseij/
24 日本腎不全看護学会 - http://www11.ocn.ne.jp/~jann1/
25 日本精神保健看護学会 - - http://www.japmhn.jp/
26 日本赤十字看護学会 - http://jrcsns.umin.ne.jp/
27 日本地域看護学会 - http://jachn.umin.jp/
28 日本糖尿病教育・看護学会 - http://jaden1996.com/
29 日本難病看護学会 - http://square.umin.ac.jp/intrac/
30 日本生殖看護学会 - http://jsin.umin.jp/
31 日本母性看護学会 - - http://www.mcn.ac.jp/bosei/
32 日本慢性看護学会 - http://jscicn.com
33 日本老年看護学会 - - http://www.rounenkango.com
34 日本ルーラルナーシング学会 - - http://www.jasrun.org/
合計 14学会 19学会