▲UMIN二十周年記念誌 TOP へ戻る



UMIN活動報告 −現状と今後


東京大学医学部附属病院UMINセンター長・教授
木内 貴弘

1. はじめに

 今、UMINは、20周年の節目を迎えている。20年は、人間でいえば、成人にあたる節目の年である。私は、東京大学医学部附属病院中央医療情報部の大学院生として、UMINの誕生を20年前に見つめていた。その当時、20年後にUMINがどうなっているか等はまったく考えていなかった。この20年の間、多くの人達の努力・協力・支援により、組織・情報システム・予算等に関する様々な変化・紆余曲折を経つつも、そのサービスの種類、利用登録者数、利用件数は一貫して増大を続け、今日に至っている。この20周年の節目に、少し立ち止まって、UMINの運営体制、利用状況、サービスの概況等についての現状報告・分析を行うとともに今後の課題等についても検討して報告をすることにしたい。尚、UMINの歴史については、本記念誌の十年史及び資料編の年表にまとめたので、あわせてご参照いただきたい。


2. UMINの運営体制

2.1大学病院医療情報ネットワーク協議会とその位置づけ
 UMIN運営のための組織としては、大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)協議会が国立大学附属病院長会議常置委員会の下に設置されている(本記念誌「資料編 3.運営組織・役員等」もあわせて参照お願いしたい)。国立大学附属病院長会議常置委員会には、国立大学病院共通の問題を専門的に検討し、解決するために、 医療安全管理協議会、感染対策協議会、UMIN協議会の3つの協議会が設置されている。各々の協議会の事務局機能を果たす施設として、名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部、大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部、東京大学医学部附属病院大学病院医療情報ネットワーク研究センターがある。  UMIN協議会では、必要に応じ、予算・決算・その他の重要事項について、国立大学病院長会議常置委員会に議題、報告事項として提出して、審議を受ける。また国立大学病院長会議常置委員会からの要請で、いくつかの情報システムの開発・運用を行っている。

2.2大学病院医療情報ネットワーク協議会の組織と運営体制
 UMIN協議会は、総会と幹事会からなっている。総会は年に1回、幹事会は年に2回程度開催されている。UMIN協議会総会と幹事会のうちの1回は、大学病院情報マネジメント部門連絡会議と同時に開催されるのが慣習となっている。 UMIN協議会総会は、利用機関代表会員、専門分野代表会員、協力機関会員、専任教員会員の4通りからなっている。利用機関代表会員は、全国立大学病院本院から教員1名、事務員1名が指名される。尚、利用機関代表会員は、採決のときには、1大学病院で1票扱いとなる。専門分野代表会員は、薬剤、看護、検査、臨床研究、教育・研修、医療安全、感染制御、歯科の各分野から1名指名される。協力機関会員は、国立情報学研究所、東京大学情報基盤センターから、各1名指名される。専任教員会員は、センター専任教員の代表1名が指名される。
 UMIN協議会幹事会(「資料編3.運営組織・役員等」を参照)は、UMIN協議会総会の会員から、利用機関代表会員のみを13校(医科系大学病院12、歯科系大学病院1)に限定した会員からなっている。UMIN協議会幹事会の下には、事務、薬剤、看護の3つ小委員会が設置されており、適宜小委員会が開催され、各分野の専門的な課題に取り組んでいる。小委員会は、ワーキンググループ的な性格を持ち、その活動の内容は、随時協議会幹事会で報告が行われている。

2.3東京大学医学部附属病院大学病院医療情報ネットワーク研究センターの組織と運営体制
 東京大学医学部附属病院大学病院医療情報ネットワーク研究センターは、UMINの執行機関として、企画の立案・実行、協議会や各小委員会とのやりとり、コンピュータシステムの管理・保守、ソフトの開発・運用、データベースの更新、利用者の管理等の業務を行っている。名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部と大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部が、自院内の関連業務を実施しつつ、各協議会の事務局機能を担っているのに対して、東京大学医学部附属病院大学病院医療情報ネットワーク研究センターは、東京大学医学部附属病院向けに特化した業務はない。
 東京大学医学部附属病院の職員は、教員2名(教授1、准教授ポストを下方流用した助教1)、事務補佐員1名からなっている。その他の人員は、運用請負のエンジニア(7名)、派遣事務員(2名)からなっている。また随時、ソフトウエア開発やシステム稼動維持支援のために、担当のシステムエンジニアが作業を行っている。東京大学医学部附属病院の職員の数が少なく、外部からの人員に運用を依存しており、今後改善が望まれている。

2.4 各大学病院UMIN担当者
 国立大学病院と一部の公私立大学病院には、UMINの連絡担当者がおり、該当大学病院でのUMIN IDの発行やUMINの使い方の指導等を実施している。


3. UMINの利用状況

 利用登録者は、現在、約30万名以上に達している。これは、10年前にUMIN10周年記念行事が行われたときの10倍以上になる。階段状に会員登録が増えている部分は、大きな学会等の団体の一括登録によるものである(本記念誌「資料編4.主要利用統計」の「4.1 登録利用者数」を参照)。学会単位の一括登録は、UMIN事務局または各大学で個別に一人ずつ登録する場合と比較して、登録作業の大幅な省力化(学会から登録に必要な情報をファイルでもらうため入力作業が要らない)、低コスト化(登録通知文書を学会からの郵便物に同封するため郵便代がかからない)につながっている。
 月間Webアクセス件数も、ある程度の増減の波はあるものの、全体として、増加傾向が続いており、月間5千万件程度に達している(本記念誌「資料編4.主要利用統計」の「4.2 月間Webアクセス件数」を参照)。これは、10年前にUMIN10周年記念行事が実施された時と比較すると、約20倍にあたる。インターネットの利用者数がほぼ頭打ちの状況の中で、インターネットで提供される情報は増えつづけている。UMINの利用が増加しているのは相対的に価値のある情報が提供できているからだと考えている。しかしながら、過去10年間に起こったほどの急激な利用の増加は次の10年間には起こらないと予想している。個別の主要サービスの利用状況については、個別システムの説明のところで言及する。


4. UMINサービスの概況

 UMINでは、医学・医療関係者向けに多くの情報サービスの提供を行っている。既に既存のプログラムが膨大なものになっているためにプログラムの保守に経費がかかってしまい、新規プログラムの開発は研究費等の外部資金によらざるをえないのが現状である。一方、オープンソースのフリーウエアが量・質とも充実しつつあり、今後は自らプログラム開発を行うよりもフリーウエアを積極的に活用していく必要もあると考えている。講演やUMINの説明の機会には、ごく一部の主要サービスのみの説明を行うのが通例であるが、ここでは普段解説されることの少ないサービスまで踏み込んで記述してみたい。大きく分けて、UMINのサービスは、A.研究、B.教育・研修、C.診療、D.大学院業務、E.総合と区分することができる。「E.総合」とは、ホームページサービス、メーリングリスト開設サービス等のどのような分野でも使うことができる一般的なサービスを指す。

A.研究
1) 学会情報(umin.AC、 http://www.umin.ac.jp/ac/)
 日本で最初に作られ、最も網羅率の高いインターネット上の医学系学会・学術集会データベースである。このデータベースに学会、学術集会を登録しないと、オンライン演題登録を利用できない仕様になっており、このため、データの網羅率・更新頻度が高くなっている。

2) 医療・生物学系電子図書館(ELBIS、http://endai.umin.ac.jp/endai/fulltext/)  本システムは、大きく分けて、(1)学術集会演題抄録のオンライン登録・査読(オンライン演題登録)、(2)学術雑誌論文のオンライン投稿・査読、(3)学術集会抄録、学術雑誌論文のオンライン検索の機能を持っている。この中で、(1)学術集会演題抄録のオンライン登録・査読(オンライン演題登録)が最も有名でよく使われている。

    (1)学術集会演題抄録のオンライン登録・査読(オンライン演題登録)
     オンラインで学術集会の演題登録・査読を行うシステムである。1997年度より運用が始まったサービスであり、運用開始時の状況は、本記念誌収載の矢崎義雄先生の記念講演論文で垣間見ることができる。カスタマイザビリティが非常に高いこと、信頼性・安定性に優れていること、無料で利用できること等の特長を持ち、年間500以上の学術集会が活用し、14万件程度の演題抄録の収集を行っている。
     学術集会運営者側が本システムを使う理由は、学術集会運営の効率化にあると思われるが、UMINとしては、演題抄録データベースの作成、演題抄録データ電子化仕様の標準化が重要な目的と考えている。諸外国でもオンラインによる演題抄録収集は一般化しているが、1国の1学問分野で、1つのシステムがこれだけ寡占化している例はない。海外では、日本と異なり、演題抄録データはバラバラなフォーマットで作成され、演題抄録データベースは人手を使って作成されているのである。
     今後の課題であるが、現在、人手の関係から、予想演題数を150題以上のものに利用を限定している。現在、省力化のために、外部からWebを使って、個別学術集会演題抄録収集システムの設定ができるようにシステムを改造中である。これが実現すると、演題数の少ない学術集会でも使えるようになる他、UMIN側の省力化にもつなげることができる。ただし、運用法が特殊な学術集会では、従来の人手によるシステム構築が必要となる。

    (2)学術雑誌論文のオンライン投稿・査読
     1学術雑誌が運用を開始しており、10雑誌程度がテスト利用を行っている。オンライン演題登録と比較すると、開発のタイミングが遅れたため、利用がまだ少ないが、今後、利用学術雑誌を広げていきたいと考えている。

    (3)学術集会抄録、学術雑誌論文のオンライン検索
     (1)学術集会演題抄録のオンライン登録・査読(オンライン演題登録)及び(2)学術雑誌論文のオンライン投稿・査読で収集した演題抄録、学術雑誌論文を検索できる他、既に査読の済んだ電子化論文を直接掲載することも可能である。現在、掲載データのほとんどは、(1)学術集会演題抄録のオンライン登録・査読(オンライン演題登録)による収集データである。
3)各種助成等公募システム(FIND、http://www.umin.ac.jp/find/)
 医学・医療関係に特化した研究助成、留学助成等の各種助成の公募情報データベースである。

4)インターネット医学研究データセンター(Indice、http://indice.umin.ac.jp/)
 臨床試験、疫学研究、症例登録用のためのデータ収集用のパッケージソフトウエアであり、各研究プロジェクトの内容に合わせてカスタマイズして提供している。著者が、生物統計学の教室で助手をした経験があること、及びインターネットを使った臨床研究のデータ収集で学位を受けた経緯もあり、臨床研究(臨床試験、疫学研究、症例登録)と情報システムの両方の知識、経験を持っていたことから、各種運用面、技術面の課題は比較的簡単に解決できた。現在、100プロジェクト以上の運用実績があり、収集症例数は累積50万例を超えている。特に最近は、症例登録に使われる場合が増えて、1研究プロジェクトあたりの症例件数が増えているため、毎月2万例から3万例程度の症例が登録されている。  現状では、研究グループとの打ち合わせを行い、個別システムをカスタマイズして、提供を行っているが、平均して月に2つくらいしか新規プロジェクトを稼動開始できていない。今後、介入のない疫学研究、症例登録、及び介入のある場合でも単群試験、二群比較試験等の単純なデザインの研究に限定して、外部からデータ収集システムの構築ができるように検討を進めている。これが実現すれば、UMIN事務局の人手を介することなく、新規プロジェクトの稼動が可能となり、運用できる研究プロジェクト数が大幅に増えると思われる。

5)教職員・学生公募システム(Rocols、https://center6.umin.ac.jp/rocols-open/)
 医学・医療関係に特化した教職員・学生公募システムである。

6) 臨床試験登録システム(CTR、http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)
 臨床試験の研究計画の概要を事前登録・公開するシステムである。平成21年4月から、厚生労働省の臨床研究の倫理指針により、原則として、介入を伴う臨床試験については事前登録が義務付けされた。このため、臨床試験の登録数が急増している。

B.教育・研修
1)オンライン卒後臨床研修評価システム(EPOC、http://epoc.umin.ac.jp/)
 本システムの特徴は、指導医が研修医を評価するだけではなく、研修医も指導医、臨床研修施設、臨床研修プログラムを評価する点にある。またパラメディカルによる評価機能も実装されている。毎年機能が拡張されて、利便性や情報可視性が増している。現在、臨床研修医の半分以上が本システムを利用している。

2)オンライン歯科臨床研修評価システム(Debut、http://debut.umin.ac.jp/)
 オンライン卒後臨床研修評価システム(EPOC)の歯科版であり、基本的にEPOCの機能を継承しているが、個別患者に関する研修データまで収集するようになっている点が大きく異なる。

3) オンライン教育評価システム(Web-QME、http://www.umin.ac.jp/web-qme/)
 学生が教員を評価するシステムである。学生の匿名化、自動集計、グラフ化機能等がある。

C.診療
1) 中毒データベース検索システム (https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/hanyou/lookup/search.cgi?parm=POISON)
 山口大学病院薬剤部が、院内向けに提供していたデータベースを、UMINで検索システムを開発して、全国に提供しているものである。データ内容は、すべて山口大学薬剤部で作成を行っている。

2) 医療材料データベース(http://www.umin.ac.jp/buppin/)
 国立大学病院で一括購入している医療材料のデータベースである。

3) 薬剤情報提供データ(https://center6.umin.ac.jp/yakuzai/)
 北海道大学病院薬剤部が、院内での利用のために作成した患者用医薬品情報資料(製剤の画像付)を、UMINを介して、全国で使えるようにしているものである。

D.大学病院業務
1) 文部科学省文書広報システム
 文部科学省からの国公私立大学病院への通知文書の掲載・メール連絡を行っている。

2) 役職・業務指定メーリングリスト
 全国の大学病院の役職・業務指定メーリングリストの管理を行っている。

3) 役職・業務指定会員制ホームページ
 全国の大学病院の役職・業務指定会員制ホームページの管理・保守を行っている。

4) 各種統計データ等の収集
 全国大学病院の統計データの収集を行っている。

E.総合
1)電子メール(http://www.umin.ac.jp/email/)
 個人への電子メールサービスの他、団体代表向けの電子メールアドレス発行も行っている。

2)メーリングリスト開設(http://www.umin.ac.jp/million/)
 個人・団体向けにメーリングリスト開設サービスを実施しており、総開設件数は5,000以上に達している。

3)一般公開ホームページサービス(http://www.umin.ac.jp/square/)
 個人・団体向けに一般公開のホームページサービスを提供しており、5,000以上のホームページが開設されている。

4)会員制ホームページサービス(https://center6.umin.ac.jp/islet.cgi)
 団体等が会員だけにアクセスを制限できるホームページを提供している。通常のHTMLの他、各種のUMINのアプリケーションを会員専用に使えるようになっており、会員全員を一括登録して、会員専用情報サービスに活用されている。

5) インターネット会議システム(http://www.umin.ac.jp/umics/)
 インターネット会議サーバを提供しており、国立大学病院が1つでも参加していれば、一般医療機関、企業等も一緒に使うことができる。

6) ファイル交換システム(http://www.umin.ac.jp/upload/)
 Webベースでファイルのアップロードとダウンロードが可能である。アップロード時には、ダウンロード権限を持つ人にメールで連絡する機能が付いている。安全なファイル交換に用いることができる。

7) ビデオ・オン・デマンド(http://www.umin.ac.jp/vod/)
 ビデオ映像をメディア等で受けとり、ビデオ・オン・デマンドの形式に変換して提供している。

8) オンライン投票システム(http://www.umin.ac.jp/vote/)
 オンラインで、事物、人等の候補(者)を設定して、投票・自動集計を行うことができるシステムである。


5. UMINの意義と役割

 UMINは、現在名実とも日本における医学・医療分野における最も有力なネットワーク組織に成長したと考えている。これは、アクティビティの高い国立大学病院という組織が大きな背景として存在していることの他に、日本の医学・医療関係者や関係団体等による積極的な支援があったお陰であると考えている。


 UMINは、設立当初、N1と呼ばれる日本で開発された低機能だが異機種のコンピュータへの接続性のよい通信規約を用いた、専用通信回線による閉域ネットワークであった。当時はコンピュータがネットワークで接続されて利用できるだけで大変な希少価値があった。日本におけるインターネットの本格的普及が始まった頃(丁度、著者がUMINの担当となった1996年頃が該当する)には、UMIN不要論を唱える人が何人もいた。インターネットでは、WWW、電子メール等を利用して誰でも自由に情報の提供、交換が可能である。大学等のインターネット接続環境のあるところでは、パソコン1台あれば、OSも含めフリーウエアだけでWWW、電子メールのサーバ環境の構築が可能である。筆者自身もかつてはパソコン上でフリーウエアのオペレーティングシステムをインストールしてそのようにして情報サービスを行ってきた。個人の判断で自由に世界中に情報サービスができ、個人の創意や工夫を生かすことができることは、インターネットの大きなメリットである。UMIN設立の頃は、インターネットは日本では一部の研究者により使われていただけであり、情報の伝達は出版、放送、郵便、電話、専用回線等の手段に限定され、不特定多数の人に対してメッセージを伝達するためには多額の費用がかかるため、個人の力では困難であった。つまり「情報提供・交流のためのインフラストラクチャー」そのものがそれ自体で大きな価値があったのである。インターネット普及の初期の段階では、医学・医療関係者の中にはUMINの意義・役割について疑う人が何人もいた。実は、私もその一人だった。インターネットの時代では、「情報提供・交流のためのインフラストラクチャー」は簡単に誰でも安価に手にはいってしまう。リソースの分散処理・管理も可能であり、UMINのようなインターネット情報サービスセンターは不要であると考える人もいた。しかし、事態はまったく逆の方向に進展した。UMINが独自の閉域ネットワークとしての希少価値を有しており、その意味での相対的な価値の高かったはずのN1の時代よりも、誰でもインターネットという情報インフラストラクチャーが簡単に手にはいる今日の方がむしろ遥かにUMINの役割、存在意義が増している。インターネットというインフラストラクチャーが整備され、利用者が増えることによって、端末(パソコン)の設置や接続のためのコストが大幅に下がり、ユーザインターフェイスも洗練されたものが利用できるようになった。インターネットによりUMINをより安価にたくさんの人が使えるようになったのである。今や国立大学病院関係者以外の人も、勤務先や自宅から簡単にUMINを利用することができる。N1の時代には、使える端末の数が国立大学病院内で数十台に限られ、ユーザインターフェイスも悪かったため思うように利用が伸びなかった。これがインターネットの普及で劇的に改善した。
UMINの意義や役割が一部の人の予想に反してこのように高まった理由は、「公的な組織」が「業務」としてサービスを行うネットワーク組織の「本質」が何であり、インターネットで行われている多くの「個人レベルの情報発信」と本質的に何が異なるかを考察すれば自ずから明らかになる。その本質が「実質的な価値」を有しているのである。

1) 運営のための予算と定員があること
 業務を前提としたコンピュータシステムの運用には、信頼性と継続が要求される。このためには、信頼性の高いコンピュータ、最適な環境を提供するマシン室、データのバックアップシステム、セキュリティの保護体制、専任の教職員・システムエンジニアが必要となる。またデータベースの保守・管理・契約、利用者との対応等の業務にも人手がかかる。通常、個人がインターネットで行っているような情報提供(個人が生活のために「仕事」として行っている場合は例外とする)とは、サービスの質がまったく異なるのである。個人のサービスでは、勿論信頼性も継続性も要求することはできない。業務としてネットワークサービスを行うためには予算と専任の教職員が必要であるが、各大学にセンターを分散するとすると、各大学毎に定員が必要となり、コンピュータシステム及び関連設備もそれぞれに必要になってコストが非常に増大する。42名の定員の純増等(国立大学病院本院の数は42である)まったくの夢物語である。1大学当り100万円配布しても信頼性や継続性のある情報サービスはまったく期待できないばかりか、サービスの整合性や作業分担の調整は非常に困難であり、実際に何も機能しないであろう。年間100万の予算では何もできないが、センターに集約して4,200万円(国立大学は42大学ある)を利用すれば信頼性・継続性の高いサービスが提供できるのである。

2) 公的インフラストラクチャーとしての信頼や信用
 学会・学術集会の情報、研究助成等の各種助成情報は、データの無料提供を関係団体にお願いしている。このようなことが可能なのも、公的な組織としての信頼や信用があるからである。またUMINが公的インフラストラクチャーとしてのその存在を広く知られているために、何か全国レベルでインターネット情報システムを運用するという話が持ち上がると、常にUMINの活用の可能性が関係者の脳裏に浮かぶ。例えば、臨床研修評価システム、臨床試験登録システム、インターネット医学研究センターで運用中の各研究プロジェクト等の多くのサービスが実際にUMIN上で実現することになった。

3) 人のネットワークであること
 業務としての情報サービスは、個人が個人の希望や好みで自由に行うものとは根本的に異なっており、組織の合意が必要である。公式な協議会、小委員会等を通して、アイデアを出してもらうこと、そしてそれに対する合意を取りつけることが重要である。また各専門分野で何が必要とされていて、どのようなシステムとして構築したらよいのか、何を購入してどう提供したらよいかについては、その分野の専門家にしかわかりにくいので、こうした人の組織を作って活性化することが重要である。これらに加えて、一般利用者からの意見・苦情や一部のヘビーユーザからのアドバイスは、サービスの改善に非常に有用であり、積極的に意見を聴くように心がけている。


 上記の意味で、UMINの本質は、「人のネットワーク」といえる。そして、この「人のネットワーク」は、20年かけてやっと作り上げてきた貴重な財産なのである。


6. 今後の課題

 国立大学法人化がなされ、大学への運営費交付金が年間1%ずつ、大学病院診療については毎年2%ずつ削減されている。しかしながら、東京大学医学部附属病院関係者のUMINへのご理解とご配慮、及び同病院の経営状態が今まで順調であったことから、UMINは運営費交付金削減の影響をあまり受けずにきている。東京大学医学部附属病院の経営状況が今後も好調でありつづけるという保証はなく、むしろ運営費交付金の削減が更に続くことに伴い、悪化する可能性も高いと思われる。  UMINは、医学・医療関係者の間での高い知名度と多数の利用者と利用件数を誇っている。UMINでは、年間500以上の学術集会が年間約14万件の演題抄録の収集を行っており、100以上の研究プロジェクトが月間2万から3万例の症例の新規登録を行っている。また各々5,000以上のホームページ、メーリングリストがUMIN上で開設されている。これらの事実は、収益事業を行う上でのUMINの高い潜在力を示している。UMINの運用体制の強化、サービスの稼動維持のために、必要な資金を得るための収益事業について現在検討を行っている。UMINの収益事業の性格として、下記が望ましいと考えている。

1)ローリスク・ローリターン
 UMINの収益事業は、医学界のインフラの安定運用が目的(医学界全体の利益)であり、収益自体は目的でない。UMINが収益を求めるために、その信頼性、安定運用を損ねることがあってはならない。一方で、もし営利企業がUMINと共同事業をすることになれば、リスクをとる代わりに、収益目標を高くおくことには問題ないと考えている。

2)営利企業を対象とした収益事業
 UMINは、医学・医療関係者のためのものである。このため、収益事業の対象として想定しているのは、営利企業である。学会や医療機関を対象として収益事業を行うことは基本的には望ましくないと考えている。

3)収益の医学・医療関係者への還元
 UMINが実施した収益事業で収益があがった場合には、UMINのサービス向上、各種助成等の形で、医学・医療界に還元されなければならないと考えている。またこの点について、医学・医療関係者にきちんと理解されていないと、必要な協力・支援が得られないと思われる。
 UMINの収益事業を検討する上で重要なポイントは3つあると考えている。それは、(1)ビジネスモデル、(2)法制度上の問題の解決、(3)医学・医療関係者、特に国立大学附属病院長会議・東京大学医学部附属病院の合意である。

    (1)ビジネスモデル
     ビジネスモデルとは、どんな人・団体を対象に、どのような仕組みで収益を得るのかというモデルである。例えば、UMINでは、年間約14万件(採択ベースの件数であり、二重登録・リジェクト分を含めると17万件以上)の演題抄録の登録が行われている。民間企業であれば、まずこのシステムに医薬品等の広告を掲載して、各学会の専門医等にみてもらおうとすぐに考えつくであろう。1件の演題抄録を登録するのに、確認作業、修正等を含めると、10画面以上は参照することになる。学術集会は、専門別になっており、非常に対象医師を絞り込んだピンポイントの広告が可能である。このビジネスモデルは、確実に収益が得られそうな感じがする。しかしながら、次の法制度上の問題で実現は難しいと思われる。

    (2)法制度上の問題の解決
     国立大学法人法二十二条には、以下のように国立大学法人の業務の範囲が明記されているが、前記の広告掲載の事業が可能であるとは考えにくい。UMINの収益事業を検討していく上では、法制度上可能であるかという検討が常に必要となる。

    (業務の範囲等)
    第二十二条 国立大学法人は、次の業務を行う。
     一 国立大学を設置し、これを運営すること。
     二 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。
     三 当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと共同して行う研究の実施その他の当該国立大学法人以外の者との連携による教育研究活動を行うこと
     四 公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習の機会を提供すること。
     五 当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること。
     六 当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること。
     七 前各号の業務に附帯する業務を行うこと。
    2 国立大学法人は、前項第六号に掲げる業務を行おうとするときは、文部科学大臣の認可を受けなければならない。
    3 文部科学大臣は、前項の認可をしようとするときは、あらかじめ、評価委員会の意見を聴かなければならない。
    4 国立大学及び次条の規定により国立大学に附属して設置される学校の授業料その他の費用に関し必要な事項は、文部科学省令で定める。

    (3)関係者の合意
     ビジネスモデルを構築し、法制度上の問題の解決が可能と判断されても関係者の合意がないと事業の開始ができない。特に国立大学附属病院長会議・東京大学医学部附属病院の合意は必須である。また医学・医療関係者に国立大学もしくは東京大学だけが利益を得るような仕組みであると誤解されると、今まで受けてきた医学・医療関係者からの支援・協力が得られにくくなる。このため、医学・医療関係者へのUMINの収益事業の内容と意義について、積極的な広報活動が必要であると考える。
     現在、複数の会社とビジネスモデルの試案について、検討を行っているが、前述のような事情で、UMINの収益事業は、その実現までには時間がかかると思われる。独自に新規のビジネスモデルを構築した上で、法制度上の問題を解決し、関係者の合意をとるというプロセスを経ないといけないからである。大学病院の診療のように既存の認知された事業の効率をあげる場合には、短期間で実施できる対策もたくさんあると思われるが、UMINの場合には、そういうわけにはいかないことについて、ご理解をいただきたいと考えている。