ご挨拶

運営委員長
北海道大学医学部附属病院医療情報部教授

櫻井恒太郎

大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)は発足以来10年を迎えることができました。速く過ぎ去った10年ではありましたがその間の変化を考えますと20年以上が過ぎたようにさえ感じます。このような進歩の途上にあるUMINの運営に携わり、ご挨拶を申し上げることができますのは大変な幸運であると存じております。
UMINには発足の時に掲げられた5つの目的があります。それは、最新の医学・医療情報の提供、大学病院間の作業の共同化、医学・医療上の交流の支援、医学研究の支援、データの標準化と諸統計の整備です。開設当時は全国の大学病院にメーカーの違う汎用計算機と専用端末のシステムが導入されてまだ日も浅いころであり、ネットワークは専門家の研究の段階でありましたので、このような目的をネットワークを通じて実現することは大変困難と思われました。しかしながら、この10年の間に通信技術の進歩と普及は想像以上の速さで進み、現在ではこれらの目的を実現するハードウエア・ソフトウエアがUMINに当然の機能として組みこまれ、全国の大学から日常的に利用されるようになっております。
10周年を機会に振り返ってみますと、このUMINの構想を起案された諸先輩の先見の明に改めて敬服するとともに、揺籃期にあったUMINにご理解とご支援をいただいた文部省をはじめとする関係者の方々に心より感謝を申し上げる次第です。
 UMINの提供する機能や情報は大学病院の枠を越えて医学・医療の関係者に広く使われるようになったばかりでなく、このネットワークを通じて大学病院の教職員の交流も大変活発になりました。 教官や医療情報処理部門の担当者だけでなく、多くの中央診療部門がUMINのネットワークでの交流や共同作業を通じて交流を深めております。このようにUMINが全国の大学病院を結ぶ協力組織としての重要な機能を担っていることを大変嬉しく思います。
 大学病院や医療を取り巻く社会の変革もますます速くなっていくことと思われます。また、情報技術の進歩はこれからも止まるところを知らず、より速くより大量のデータ通信を可能にするメデイアが次々と普及することでしょう。UMINもこれらの時代の要請に応えて医学・医療の進歩のために引き続いて先進的な役割を果たすことが使命であると考えております。UMINの関係者を代表して、次の10年に向けての努力をお約束すると共に、皆様の更なるご支援をお願い申し上げる次第です。

10周年のご挨拶

東京大学医学部附属病院長

武谷 雄二

本院中央医療情報部でお世話させていただいておりました大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が本年度で10周年を迎えることができました。この間、登録利用者数は2万名以上になり、文書の利用件数は毎月200万件を超える等、大きな発展を遂げていると聞いております。これも国立大学病院を中心とした医学・医療関係者の皆様のご支援・ご協力の賜物と感謝しております。
海外の研究仲間から電子メールで連絡がとりたいといわれる機会が増え、私も最近やっと電子メールを利用するようになりました。本年4月から病院長に就任いたしましたが、各国立大学病院長にはUMINの官職指定アドレスというものが配布されており、文部省その他からの連絡が既に電子メールで行われているということを知って驚きました。各種の公文書や事務連絡等も、UMINの文部省文書広報システムを利用してオンラインで行われていること、各種の大学病院関係の統計資料も各大学病院からオンラインで入力され、リアルタイムに集計されているということを知り、身近なところでここまで情報化は進んでいたのかと感じいった次第です。ネットワークを利用した情報交流は、今後益々盛んになると思われ、その中心的な機関としてUMINが今後一層医学・医療関係者のお役に立てれば幸いと考えております。
昨今の行政改革の動きの中で、国立大学病院は運営の改善を迫られております。UMINで提供されている各種の情報システム、データベースは、全国立大学病院が全国で共同利用できるものであり、各大学病院毎にシステム開発、データベース開発を行うよりも低コストで運用が可能となっています。今まで国立大学病院は共同して事業を行う機会はあまり多くはありませんでした。今後は予算の増加が望みにくい中で情報サービスを充実させていく必要が出てきます。このためには、UMINを利用した情報システムの共同利用の拡大が国立大学病院にとって重要な課題になると考えております。情報システムについて、大学病院が共同・協力していくことには大きなメリットがありますが、これを円滑に進めるためには各大学病院、利用者からのご意見・ご要望を幅広く集めて、集約していく体制の維持が一層重要となります。今後も本院としてUMINの活動については最大限のバックアップを行う所存でおりますので、関係各位からの尚一層のご支援・ご協力をいただけますようお願いいたします。

祝辞

文部省高等教育局医学教育課長

木谷 雅人

 本日ここに、大学病院医療情報ネットワーク十周年記念式典が挙行されるに当たり、心からお祝い申し上げます。
大学病院医療情報ネットワークは、昭和六十一年度に全国立大学の病院業務がコンピュータ化されたことにともない、大学病院間の医療、教育、学術及び業務上の改善・協力の促進を図るために、平成元年度に東京大学を拠点として、大阪大学など八大学での運用が開始されたことがはじまりであります。
 略称をUMINとし、順次加入大学数が増加し、着実な発展を遂げられ、平成六年度には全国立大学病院で運用されることとなりました。また、その一部を公私立大学病院の利用に供しております。現在では、国公私立大学病院関係者の二万人を超える利用登録者があり、様々な活動に利用されるに至りましたことは、誠に慶ばしい限りであります。 さらに、最新の医学・医療情報の提供、医学・医療上の交流の支援という観点から、広く一般の医学・医療関係者にも情報を提供し、その医療・教育・学術・研修活動を支援するなど、我が国の医学・医療の発展に大きく貢献するとともに、情報技術応用分野でも先進的な役割を果たしてこられました。
 大学病院医療情報ネットワークが、今日このように発展し、各方面から高い評価を得ておられますことは、運営委員会及びこれを支える関係者の皆様のたゆみない御努力のたまものであり、深く敬意を表する次第であります。
これからの我が国にとって、医療及び学術情報の高度化はますます重要になっております。大学病院医療情報ネットワークが、すべての医療関係者が共通に必要としている最新情報や知識を提供し、医学・医療上の交流を積極的に支援していくことは、日本の医療のみならず、世界の医療の向上に一層貢献するものであり、医療関係者のみならず、各方面が注目するものであり、その期待は大きいものがあると存じます。
 本日の栄えある式典を契機に大学病院医療情報ネットワークが、今後益々の充実発展を遂げられることを心から祈念いたしまして、お祝いの言葉といたします。

祝辞 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)10周年をお祝いして

東京大学総長

蓮實 重彦

本学でお世話させていただいている大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が創立10周年を迎えられたことに心から祝意を捧げます。UMINは、全国の国立大学病院の作る共同組織であり、各大学病院間の情報交流の促進、多施設医学研究の支援、最新の医学・医療情報の提供、大学病院間の作業の共同化による業務の合理化、データの標準化と諸統計の整備等を目的として設立されました。本学医学部附属病院内に事務局と計算機センターが設置され、各大学病院からのご意見・ご要望をいただいて、各種のプログラム開発、データベース開発を行ってきました。多くの有用なプログラム、データベースがUMINの活動によって開発され、医学・医療分野における情報システムの発展に指導的な役割を果たして参りましたことは周知の事実であります。このような役割を果たすことが可能であったのは、文部省関係者の予算面でのご配慮と国立大学病院を中心とする関係者の努力の賜物であり、この機会に関係者に謝意を表したいと思います。
大学病院及び文部省高等教育局医学教育課においては、各種の文書配布・事務連絡や各種統計資料収集はUMINを活用してオンラインで行われることが既に当たり前になっているということをお聞きして驚きました。国立大学関連では最も業務の情報化・合理化が進んでいる部門と思われ、UMINの先進性については敬意を表します。またこのような情報化のためには、関係者の理解や協力を得ることが重要ですが、このために長年に渡る組織づくり、広報活動等の努力がUMIN関係者によりなされたとお聞きしております。コンピュータや通信回線は予算があればつくることができますが、このような人の組織づくりがシステムを活用するために地味ですが非常に重要な仕事だと思います。
行政改革の流れの中で、診療・研究・教育のための情報サービスを更に発展させるためには、情報サービスの効率化が必要となってきています。UMINは、国立大学病院全体のために情報システムの運用・開発を行っており、こうした集約化は各大学病院毎にプログラム運用・開発、データベース開発を行うよりは非常に効率的です。今後は、UMINの果たすべき役割が益々増大していくと思われます。これは既に研究・実験的な段階を過ぎた情報システムを集約化するということであり、必ずしも各大学病院での個性的かつ実験的な情報サービスの提供と矛盾するものではありません。
UMINのこの10年間の功績に大きな敬意を表するとともに、今後の更なる発展のために、関係者各位が一体となって尽力されるよう祈ってやみません。

祝辞 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)の設立10周年に当って

文部省学術情報センター所長

猪瀬 博

 最新の医学・医療情報を全国的に提供することによって、医学・医療の発展に寄与すると共に、大学病院の業務の効率化を支援するなどの高い理念を揚げて発足した大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が、設立10周年を迎えられたことに、心からのお祝いを申し上げます。
 学術情報センターの設立は昭和61年(1986)でありますが、その後間もなく開原成允先生を中心としてUMINの構想が生まれ、平成元年(1989)には学術情報センターのネットワークに接続して運用が開始されました。当時はN-1プロトコルによるパケット交換ネットワークを全国的に展開中でしたが、医療情報のもつプライバシーを保護する立場から、初めてクローズド・ユーザ・グループ方式、すなわちUMINの登録者のみがアクセスできる方式を採用しました。
学術情報ネットワークはその後発展を続け、平成4年(1992)からはインターネット・バックボーン(SINET)の運用を開始し、米国、英国などへも乗り入れ、回線速度も最高150メガビット/秒に高速化されました。この間UMINも目覚ましい発展を遂げられ、平成5年(1993)にはインターネットによるサービスが始まり、平成8年(1996)にはWWWによるサービスが本格化するなど躍進を続けておられるのは、御同慶の至りであります。学術情報ネットワークはいわばUMINと肩を並べながら発展してきたわけで、UMINのインフラストラクチャとしての役割を果たすことができ、喜ばしく思っております。UMINは今後も益々発展されることと思いますが、学術情報ネットワークもその負託に耐え得るよう、高度化に努める所存であります。
UMINは今日、全国の40を超える大学を相互に接続し、1万5千名を超える利用登録者をもつ大きなシステムとなり、大学病院業務の支援はもとより、広く医学・医療に関する研究・教育・研修の発展を支える高度なサービスを提供されています。10年前に構想された高い理念を着々と実現された関係者各位、とりわけ初代の運営委員長としてこの事業を主導された開原成允先生に深甚の敬意を表する次第であります。
昨今の医学・医療の発展はまことに驚異的であり、また情報への依存性も益々高まっているように思われます。UMINが設立10周年を機として、一層の発展を遂げられ、引続き学問の進歩に貢献されるとともに、多様化する社会の要請に応えられることを期待して、お祝いの言葉とさせて頂きます。

祝辞

国立大学医学部附属病院長会議常置委員長
千葉大学医学部附属病院長

山浦 晶

国立大学医学部附属病院には、近年いくつかのすばらしい事業があった。その一つがこのUMINであろう。この度10周年をむかえ、ますます利用者がふえ、機能も広がっていることはよろこびにたえない。この機会に、UMIN誕生から今日の姿まで育てられた方々に厚く御礼を申し上げたい。また、このプロジェクトに格別の御理解と御支援をたまわった文部省にも感謝申し上げる。
日進月歩の高度医療にあって、われわれ国立大学の医療人がup-to-dateであるために、今やUMINはなくてはならない存在といえよう。UMINは、最新情報と知識の提供、共通の作業、医療上の交流、共同研究、統計の整備と大学病院の運営向上をその目的としている。病院長として、また国立大学病院長会議常置委員長として、今日最も重大な関心をもっているのは、病院に関する諸統計の処理・分析と運営改善におけるUMINの位置付けである。多くの項目についてデータを集め、それぞれの病院が42の国立大学の附属病院の中でどの位置にあるか知ることができる。均質かつ最新のデータは病院運営上きわめて重要である。
今後、「医療の質の評価」、「医療における教育や研究の評価」、ひいては「臨床医の評価」につながるデータが提供されたらすばらしいと思う。臨床医は単なるimpact factorの合計点のみで評価されるものでなく、医療の質や教育・研究に関する多くの項目に対する評価の積み重ねによるべきであろう。さらに、大学病院における「教育」や「研究」が将来へのベニフィットも含め、経済的指標に換算したらどの位になるのだろうか。この誰もしたことのない評価をUMINを用いてできないものだろうか。その評価は、tax payerが必ず納得してくれる値に達しているものと私は信じているのだが。 UMIN10周年のお祝いの言葉を考えていたら、いつも間にか、院長の夢の中に迷い込んでしまった。UMINの10周年にあたり心よりお祝いを申し上げると同時に、ますますの発展を祈ってやまない。

祝辞 UMIN10周年記念に寄せて

日本循環器学会理事長
国立国際医療センター病院長

矢崎 義雄

大学病院医療情報ネットワーク設立十周年を迎え、心よりお祝い申し上げます。当初はその機能や情報ネットワークにおける位置づけなどの理解が必ずしも十分ではなかったかと心配しておりましたが、今日では大学病院関連ばかりでなく、広く医療関係者がその持つパワフルな機能を実感され、注目される存在になったことと存じお喜びをを申し上げます。さらには衛星通信を利用したMINCSとも連携されて、その機能はさらにパワーアップされ21世紀に向けて医療情報の発信、受信には欠かせない大変重要な役割を担われるものと存じております。今後ますますのご発展とご活躍をお祈り申し上げます。 私個人にとりましても、大学病院医療情報ネットワークがお持ちになっている機能をフルに利用させていただき厚く感謝申し上げております。とくに外国とのE-mailでの情報交換には欠かせない存在であったばかりでなく、学会の在り方、学術集会の在り方に大きな変革を行うことができました。この機会に御礼を申し上げますとともに、少し説明させていただきたく存じます。
昨年(平成10年)4月に、東京国際フォーラムで開催しました日本循環器学会学術集会の際にお願いし、従来の方式を抜本的に改革させていただきました。この学術集会は2万人の会員を対象に演題を募集し発表をお願い申し上げますが、課題は4000件を越す応募演題をどのように整理し、的確に2000題に絞り込み、プログラムを作成するかで、例年そのために莫大な費用と時間、労力が費やされていました。そこで、東大の医療情報部にお願いしてホームページを開いていただき、応募者にはインターネットを通して直接抄録を打ち込んでいただきました。検索つきの、しかもプライバシーを保つための膨大なソフトの作成には木内貴弘助教授をはじめとするスタッフのお力添えをいただきました。このような大規模な学会でのインターネット方式は、わが国はもとより、世界でもはじめての試みであったことから、従来の抄録用紙による応募方法も併行して採用しました。ところが、4200題の応募で従来の用紙を用いたものはわずかに13通で、わが国における情報化社会の進展は、われわれが想像するよりもはやい速度ですすんでいることがわかりました。おかげ様にて、費用は3分の1以下に節減され、例年ですと学会直前にならないとプログラムの全貌がわからないのですが、3ヶ月前に会員に学術集会全ての情報をお伝えすることができ、会員へのサービス向上に尽くすことにもなりました。演題が検索つきですので、あらかじめ自分の興味ある演題を的確に選択することが可能となり、効率的に知識を得ることに役立ったと多くの会員よりご好評をいただきました。ホームページが専門的な学会であるにもかかわらず、7万回以上もアクセスがあったことも大変利用価値の高かった情報源になっていたことを示しています。
学会員の情報も、UMINを用いることにより、常に新しく改訂されるシステムの採用が可能となりました。学会活動の基盤となるデータを効率よく活用することにより、学会そのものの活性化にも中心的な役割を果たされるものと期待されます。
私が個人的に大変お世話になったばかりでなく、医療情報とは少し異なる分野、今述べました学会などへの活用など、多方面にわたる活躍がいただける可能性があります。今後とも、幅広く医療関係者に呼びかけられ、広い領域でますますご活躍されますことを祈願しまして、お祝いと御礼のことばとさせていただきます。

祝辞 UMIN十周年を祝って

日本脳神経外科学会会長
東京大学医学部長

桐野 高明

大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が本年で創立十周年を迎えることになりました。UMINの発展により多大な恩恵を受けている一人として、心よりお祝いを申し上げるとともに、今後もますます隆盛に向かうことを祈りたいと思います。すでに多くの方がこのネットワークを利用しておいでになると思います。ネットワークを介した情報の転送はごく日常的におこなわれるようになりましたが、この間の進歩には目を見張るべきものがあります。もはやe-mailやインターネットへの接続ができない状況は考えられません。
本年の10月に私どもの東大脳神経外科教室は東京国際フォーラムにおいて第58回日本脳神経外科学会総会を開催させて頂きます。この学会の演題登録に脳神経外科関係の学会としては初めてインターネットによる演題登録をおこなうことになりました。この仕事にはUMINの全面的なご支援を頂くことになっています。すでにインターネット演題登録のシステムは矢崎義雄先生が会長をされた平成10年開催の第62回日本循環器学会において実績があります。循環器学会は参加者1万人以上、演題応募が4000題以上という、脳神経外科学会のほぼ倍の規模でおこなわれるものですが、演題の90%以上がインターネットで問題なく登録され、ほとんどトラブルなしで開催にこぎつけたというお話を伺い、大いに力を得ました。この方法は単に目新しいというものではなく、矢崎先生が会長ごあいさつでも指摘されているように、会員への情報還元、プログラム編成において時間的にきわめて効率が高いのみならず、大幅な経費の節減に貢献するという意味で一挙両得の方法であることは明かです。この試みがこの規模で開始されたことは、世界的に見ても先駆的であり、UMINの貢献はきわめて大きいと思います。日本の経済状況の悪化から、学会運営も効率化と経費の節減が必須となってきました。これは当然のことでありますが、いかに学会の重要な部分を省略せずに経費を減らしていくかという観点からは、本質的な解決の一つの方向ではないかと考えております。UMINのご支援により、循環器学会と同じように第58回日本脳神経外科学会の演題募集がスムーズに進むことを祈っています。
私は1980年から2年間米国のNIHに留学をしておりまして、論文をまとめるのにWangという名前のコンピュータ(今で言う所のワープロ)が大変便利であることに感激しました。日本に帰って来て、ああいう機械が欲しいと思いましたが、高価でとても手に入れることはできませんでした。ちょうどその頃NECのPC9801というパーソナルコンピュータの一号機が発売され、その機械にワードスターというワープロソフトが使えるということを聞きつけ、かなりの費用をはたいてそのシステムを購入したことを記憶しています。その頃のパソコンはメモリが128キロバイト(メガバイトではありません)でも大容量の記憶装置と称していました。単純に比較すると記憶容量は今この文章を入力しているごく普通のパソコンでも約1000倍になっています。ということは、今から20年ほど前に比較すると、私たちは約1000倍の情報量を個人のレベルで扱えることになったことを意味します。これは文字を中心とする情報量の処理能力としては、もう十分な段階に達したと言えるのかも知れません。更にこれからの20年で再び1000倍の情報処理量の拡大が起きれば、今から20年前の一文字の情報転送が今から20年後には一画像の転送に相当する程度まで進むのかも知れません。そうなった時に、どのような情報交換が日常的に行われるようになるのかは想像もできません。このような新しい時代に向かって、UMINが更に発展していくことを祈るとともに、UMINの設立から維持に努力を惜しまれなかった諸先生方に心より御礼を申し上げたいと思います。

祝辞 UMINの10周年によせて

日本医療情報学会会長
千葉大学医学部附属病院医療情報部教授

里村 洋一

情報処理科学における10年は、およそ3世代にも相当する長い期間であります。日本における医療情報学の歴史がほぼ25年ですから、準備の段階を含めれば、その丁度半ばの時期に構想され運用されてきたことになります。これを考えると、文部省と国立大学の医療情報の担当者が如何に時代に先駆けてネットワークの時代に対応したかがわかります。
UMINがスタートした1989年当時は、世間にようやくLANの概念が行き渡り、病院情報システムもLANを利用したオーダーエントリーのアプリケーションがいくつかの病院で稼働し始めていましたが、まだまだ、病院間の通信や外国とのコンピュータによる情報交換などは遠い先の夢と思われていたものです。正直に言って、この構想を開原教授から聞かされたとき、そもそも医事会計用のデータを除けば、これといって役に立つデータを集積してもいない状況で、大学病院間のデータ交換の実用的な意義がどれほどのものであろうかと、眉に唾付ける思いでした。
今日の、インターネットによる情報交換の隆盛を見ると、自分の思慮の浅かったことを反省することしきりです。開原教授が我々の及ばぬ先見の明をもち、しかもそれを具体化する行動力をも持っておられたことに改めて深く敬意を表したいと思います。しかし、発足後のUMINの歩みは、決して快調な日々ばかりではなかったと言えます。発足当時の目標であった「大学病院の関係者が共通に必要とする情報や知識をネットワークを通じて交流する」ということの意義を、当時の大学病院の医療情報部の状況、つまり病院内で情報システムの価値をユーザーに理解してもらうことに忙殺されている中では、誰もが、なかなか実感として理解できなかったのではないでしょうか。本来、自らが情報の提供者でなければならないのに、ほとんどのユーザーは、ただ余所から情報の提供をうけることだけを期待していたようです。そのような環境では、UMINを通じて得られる情報が盛りだくさんになるのはなかなか困難なことです。最初の数年間が苦難の日々だったことがふしぎではありません。その中で医薬品情報や薬価改定情報などの入手とその配布は、この時代にUMINの存在意義を示した価値ある活動でした。 転機は、1994年のUMIN2の導入でしょう。インターネットに接続ができ、当時はまだはしりだったe-mailがUMINを通じて大学病院の誰もが使えるようになったのは大きなインパクトでした。それとともに、これまでは大学病院の間の閉鎖的なネットワークであったものが、対象を個人登録者を含めたオープンなものへと変貌を遂げていきました。この時期の2年間に登録ユーザーがそれまでの千人の単位から一気に万の単位へと膨らんでゆきました。それからの5年は、みなさんのよくご存じの通りです。UMINを活用するための委員会が数多く作られ、それぞれに実用的なプロジェクトが進行し、最近では、文部省の通知文書などがこのルートで電子的に伝達されるようにまでなりました。
UMINは本当の意味での実用期を迎えています。しかし、私は、あえて初心忘れるべからずと言いたいと思っています。今や、インターネットの利用は一般の人々に当たり前のことになってしまいました。そのための便宜の提供はもはやUMINの役割ではありません。今また「大学病院の関係者が共通に必要とする情報や知識をネットワークを通じて交流する」という初期の目的に立ち返る時期に来ているのではないでしょうか。ここでのネットワークはもはや通信路という物理的なものではなく、大学病院や医療関係者が共通に解決すべき問題、特に情報処理につながる問題をともに取り組み解決方法を生み出す、人々のネットワークを意味します。大学病院共通ソフトウエアーの開発などがUMINの場を使って進められるとすれば、まさに発足時の理想の実現と言えましょう。

祝辞 UMIN10周年を迎えられて

大学病院衛星医療情報ネットワーク運営委員長
京都大学医学部附属病院医療情報部教授

高橋 隆

UMINが発足してはや10周年を迎えられましたこと、誠におめでとうございます。衷心よりお祝い申し上げます。
思い出して見ますと、東大名誉教授開原成允先生が10年前に国立大学病院間にコンピュータネットワークを張り、日本の医療情報の推進を図るとの計画をお示しになられた時代は、まだ工学部をはじめ他学部においても、大学間のネットワーク利用はそれほど活発ではなく、一部の先駆的な研究者が個人的な情報交換のツールとして、あるいは文献検索のツールとして細々と利用していた時代であったと思います。それがインターネットの発展と軌を一にして、急速なネットワーク化が進展し、今日の情報ネットワーク社会の実現を見ることになったわけであります。
医療情報分野においては、UMIN計画当初から医療情報の流通あるいは共有の必要性については共通の認識があり、これを既存のネットワークでは医療情報に必要な安全性と秘匿性の確保が困難との判断から、専用のネットワークとしてUMINの開設が実現を見たのであります。その後国立がんセンターや国立循環器病センターによる専用ネットワーク、さらには全国国立病院を接続するHOSPnetなど大型の医療情報ネットワークが設置され、日本における医療情報ネットワークの開花期を迎えることになった次第で、このように見るときUMINの果たした先導的役割はきわめて大きく、それを推進された開原名誉教授の素晴らしい先見性と強力な指導性にあらためて敬意を表する次第です。またUMINがこれまで実施された活動内容については本誌をご覧頂ければ容易に想像のつく通り、ネットワーク維持と充実したデータベースの維持・開発に果たされた事務局の先生・職員方による大変なご尽力の賜物であり、これについてもあらためて心より御礼申し上げます。
さてUMINと同様の医療専用としての映像情報ネットワークにMINCS(大学病院衛星医療情報ネットワーク)があります。これも医療の特殊性が理解されて、一般のSCS(Space Collaboration System)がNTSCによる映像情報ネットワークであるのに対して、先進的なdigital HDTV による映像情報ネットワークであり、平成8年12月に開設以来すでに国立大学の半数以上の30大学病院をネットするまでに到っております。最近では講義の交換や臨床カンファレンスが週1回程度実施されており、医学教育や医療供給の新たな手段を開発するべく多くの大学病院が利用法の開発に日夜努力を傾注しております。この運用についてもUMIN事務局の方々に日ごろより大変お世話になっており、この場をお借りして御礼申し上げます。
UMINがこれからも日本の医療情報発展のための推進役として益々のご発展を念じつつ、10周年のお祝いと御礼を申し述べさせて頂きます。

祝辞 医療資源の有効利用のためにUMINへの期待

国立大学附属病院情報処理部門連絡会議会長
高知医科大学附属医学情報センター長

北添 康弘

UMINのこれまでの経過については、他の方にお任せするとして情報処理部門連絡会議として、UMINの今後の発展に期待することが如何に大きいかを述べさせて頂いて10周年の記念としたい。
国立大学附属病院は、戦後の歴史のなかで今ほどその存在意義を問われているときはないと思われる。高度医療機関としての使命、人材の育成、研究の推進のどれをとっても今抜本的に見直しを図る時期にきており、そのことが将来の我が国の医療発展の重要な要素となろう。
従来、我々は大学自治の名のもとに各大学が独自性を発揮して個々にそれぞれの大学の発展の為に努力してきたし、それが、また日本全体の発展にもつながるものであった。このことは、研究活動の面では今後ともオリジナリテイーのあるユニークな成果を生み出すために重要であるが、他方、国立大学附属病院が全体として所有している強大かつ莫大な医療資源を有効活用するという面では甚だ非効率の感を否めない。国民の立場からみても何処にどうゆう医療資源があるのか分かりづらい。
この非効率な部分の大半は多数の大学間の協力があって取り除かれるものであり、昨今の企業間の合併・連携に似たところがある。医療情報システムに限って言えば、業務的なものは各大学とも殆ど変わらない。システム全体の仕様を共通にするのは時間がかかるとしても、医事会計、給食、病歴などの各サブシステムの仕様を統一化していけばよい。そのノウハウをUMINでmanagementしてもらうと大変ありがたい。現在、病名や処置のマスターを手がけられているのはその方向への第一歩であろう。
上記既存のシステムの標準化の他に、今後の重要な課題の一つとして全大学共通の「退院サマリー」データベースの構築がある。この為には、各大学の既存の病院情報システムのネットワーク上に専用のワークステションを置きそこに共通仕様のデータベースを作成する。このワークステションはUMINを通じて各大学と連携し、UMINセンターでは全国からのデータを収集・管理できるようにしておく。こうすれば、各大学の病院情報システムのデータベースの構造に関係なく共通化が図られる。この意味でワークステションはinterfaceの一種である。この「退院サマリー」データベースの内容については十分議論しつめなければならないが、臨床研究は勿論各種の医療評価ができ、できれば病院経営改善の指針作りに役立つようにしたい。将来ここら辺まで行かないとUMIN設置の本当の値打ちは出てこないであろう。
UMINに期待するもう一つのことは、医学教育用ソフトの利用に関することである。高知医科大学でも、診断・治療シミユレーションシステムを開発し運用しているが、開発には多大の労力を必要としまたシステムの維持・発展の努力も必要である。外国のものも含めこの種のソフトをUMIN上で系統的に管理し多くの大学で相互利用できるようになれば、従来の教科書的教育とは違った教育方法の大いなる改善が図られるであろう。
最後に、UMINの構築を最初に手がけられた開原先生に改めてここに敬意を表すとともに今後の大いなる発展を期待します。