概要
UMIN症例データシェアリングシステムは、研究者が自身の実施した臨床研究症例の匿名化したオリジナルのデータセットを、研究者自身でUMINサーバに保管し、UMINがその内容を第三者に担保するものです。
これにより、 欧米で注目を浴びている臨床試験症例データのデータシェアリングが可能になります。データシェアリングには、1)個別症例データのメタアナリシスへの活用、2)新たなデータ解析による新しい知見の発見、3)統計解析のし直しによるチェック等が可能となります。UMIN症例データシェアリングシステム(旧名称:UMIN症例データレポジトリ)は、当初、研究不正の防止を念頭において開発されましたが、近年、積極的なデータの利活用を重視する気運が欧米で出てきています。
本システムは、すべての臨床試験が対象で、すべての研究者が利用できます。
UMIN臨床試験登録システムへ臨床試験登録した臨床試験とUMIN以外の臨床試験登録サイトの臨床試験登録した場合で、ご利用の方法が異なりますので、ご注意ください。
本システムの特徴は下記です。
- 症例データのシェアリングのために、すべての研究者が活用できる症例データシェアリングシステムを提供します。
- バックアップやセキュリティ体制が整っているUMINを利用する為、将来に向けてデータが散逸することがなく、長期保存が可能です。
- データのダウンロードは、研究者側が許可したUMIN ID所有者(特定のUMIN IDまたは、全UMIN ID所有者を設定)のみに限定されます。一般への公開はされません。アクセスを許可した方には、海外の方でもUMIN IDを発行します。
背景
症例データの利活用をはかることの重要性の認識の高まり
臨床試験の症例データは、被験者の協力のもと、コストや手間をかけて収集されたものです。
このため、これらの貴重なデータの最大限に利活用することは、被験者に対する義務だと考えられます。
症例データの再解析やメタアナリシスにより、新しい知見の発見できる可能性があります。
また症例データ利活用により、不必要な臨床試験の繰り返しを避けることができる場合もあります。
臨床研究における不正事件等
臨床研究において、データ捏造・改竄、統計解析方法や解析結果の開示などについてのいくつかの不正事件が、日本国内及び海外で明るみに出て大きな社会的な問題となっています。
このため多くの国民が不安を感じており、臨床研究の不正を防止するための対策の強化が求められてきました。
また、海外からみて日本で実施される臨床研究の信頼性が疑われ日本から投稿した臨床研究の論文が、査読で不利になりかねない事態となっています。
これらの状況から、国立大学附属病院長会議は「臨床研究の信頼性確保と利益相反の管理に関する緊急対策」を厚生労働省の高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討会は「高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた対応及び再発防止策について(中間とりまとめ案)」のとりまとめを行っています。後者では、今回の事案が起こった背景、原因と問題点のひとつとして「データの信憑性に関して検証を行なおうとしても多くの関連資料がすでに廃棄されていた」ということが挙げられ、再発防止策として「臨床研究関連資料の保管義務」を提案されています。
臨床試験登録は、臨床研究の不正の防止のために一定の役割を果たしてきました。
その一方で、臨床研究データそのものが改竄・捏造されてしまった場合や研究者(研究資金提供者も含む)側に不利な統計解析結果(特に主要評価項目以外の評価結果)が公表されない等の場合には、臨床試験登録だけでは不正を防止することができていませんでした。これは、第三者が症例オリジナルのデータセットにアクセスするための公的なしくみがなかったことによります。
UMIN症例データシャリングシステム設立時には、海外には、米国医薬食品局(FDA=Food and Drug Administration)が製薬会社の治験に対して構築した症例データレポジトリや米国NIH(National Institutes of Health)が研究費を出している臨床研究に対して構築した症例データレポジトリの例はありますが、世界のすべての研究者が活用できる症例データシェアリングシステムの提供は、我々が把握しているかぎり、世界には存在していませんでした。
UMIN症例データシェアリングシステムは、臨床試験登録だけではなしえなかった以下の臨床研究不正の予防の役割を担うものです。
- 相互チェック・査察のためのデータの正本の内容を第三者が担保すること
- 論文で公表された以外の統計解析を行うことができること
- 症例データの品質について、最低限度の確認ができること
ただ、臨床試験登録システムと症例データシェアリングシステムだけでは、臨床試験データの品質保証になるわけではなく、これらだけで完全に臨床研究の不正を防ぐことはできないことに注意する必要があります。医療機関の相互チェック・査察等により実際の電子カルテデータとの照合を実施する必要があります。