保健医療情報システム検討会 (中間報告) Health Information Strategy 21 −21世紀保健医療情報戦略− 平成6年7月 目次 1 本検討会の目的                            1 2 保健医療情報システムの現状に関する認識                1 2.1   総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.2   各分野における保健医療情報システムの現状・・・・・・・・・・・2 2.2.1 医療機関内における情報システムの活用・・・・・・・・・・・・・2 2.2.2 地域保健医療情報システムの活用・・・・・・・・・・・・・・・・2 2.2.3 保健医療情報を提供する情報システムの活用・・・・・・・・・・・3 3 保健医療情報システムの必要性                     4 3.1   保健医療サービスを効率的に提供すること・・・・・・・・・・・・4 3.2   保健医療サービスの質を確保すること・・・・・・・・・・・・・・4 3.3   保健医療サービスの公平と公正を保証すること・・・・・・・・・・4 3.4   保健医療技術を進歩させること・・・・・・・・・・・・・・・・・5 4 保健医療情報システムを取り巻く技術の動向               4 4.1   保健医療情報システム発展の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・5 4.2   21世紀に向けての情報処理技術の動向・・・・・・・・・・・・・5 4.2.1 情報処理における技術革新の波・・・・・・・・・・・・・・・・・5 4.2.2 情報処理関連産業の構造変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 4.3   21世紀の医療情報システムを支える情報処理関連技術・・・・・・6 5 近未来の保健医療情報システム 5.1   保健医療情報システムの方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・8 5.1.1 国民からの要望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 5.1.2 保健医療関係者からの要望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 5.1.3 情報処理技術の進歩が保健医療サービスにもたらす変化・・・・・・9 5.2   21世紀初頭に求められる保健医療情報システムの具体的イメージ・9 5.2.1 総合保健医療福祉情報システム・・・・・・・・・・・・・・・・・9 5.2.2 保健医療関連のデータベースの構築と活用・・・・・・・・・・・10 6 21世紀初頭に求められる保健医療情報システムを構築するための提言  10 6.1   基本的考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 6.1.1 情報システムに関する国の方針の確立と提示・・・・・・・・・・11 6.1.2 客観的データに基づく合理的意思決定の推進・・・・・・・・・・11 6.1.3 国民への情報の提供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 6.1.4 情報システムの発展のための環境の整備・・・・・・・・・・・・11 6.1.5 プライバシー保護と情報開示の原則の両立・・・・・・・・・・・12 6.1.6 医療官学の役割の原則の明確化・・・・・・・・・・・・・・・・12 6.2   アクション・プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 6.2.1 国のアクション・プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・12 6.2.2 保健医療関係者のアクション・プログラム・・・・・・・・・・・14 6.2.3 保健医療情報分野の研究者のアクション・プログラム・・・・・・14 6.2.4 産業界のアクショ・プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・14 6.2.5 公益法人のアクション・プログラム・・・・・・・・・・・・・・15 7 おわりに                              15 1 本検討会の目的 ○ 本検討会の設置目的は、未曾有の超高齢化社会となる21世紀、中でも高齢化のピークを迎えると考えられているその初頭において、保健医療サービスの効率化かつ効率的な提供に必要な社会基礎として求められる保健医療情報システムについて、第一に基本構想を示し、第二にその達成に必要な方策を検討することである。なお、高齢社会における保健医療福祉サービスの連携の重要性に鑑み、福祉分野における情報化も視野に入れて議論を行うこととした。 注)本検討会が検討対象とした保健医療情報システムの範囲について  本検討会の検討対象範囲は、保健医療サービスの提供に関連して発生する情報を適切に収集、加工、蓄積、検索、提供することによって、患者を含む国民、保健医療機関、行政機関などが個別又は相互に連携して適切な意思決定や行動を行い得るようにするための情報処理関連組織及びシステムとした。  その関連技術としては、通信技術(コンピュータ・ネットワーク、ケーブル・テレビ、電話、ファクシミリなど)、パッケージ・メディア技術(ICカード、光カード、光磁気ディスクなど)、映像技術などが含まれる。 2 保健医療情報システムの現状に関する認識 2.1 総論 ○ わが国の保健医療情報システムは、保健医療関係者の努力とともに、国としても昭和40年代から保健医療情報システムの開発普及などに努力した結果、診療所においても情報システムが活用されるなど広い視野を持つに至ると同時に、高い技術水準の保健医療情報システムが一部の医療機関などで活用される状況にあることは評価されるべきである。 ○ しかしながら、保健医療情報システムに関する総合的な政策方針が必ずしも明確でなかったため、情報システム構築のための作業の多くが、関与する個別の企業や個人の努力に依存してきたきらいがある。その結果、情報システムが相互に連携しない形態で普及し、情報の活用に関して無駄や非効率な点がみられる。 ○ わが国の保健医療情報システムの目的は、主として保健医療サービスを提供する上での効率性の向上に向けられており、保健医療関係者などの意思決定者がデータに基づいて客観的意思決定を行う際の情報支援に用いられることは比較的少ない。また、保健医療サービスの質の向上に役立つ情報システムの構築が十分に発達しているとは言いがたい。 ○ わが国では、大規模なデータベースの構築はほとんど行われていない。従って、データベースの活用が必要とされる医療技術評価、疫学研究などへの情報システムの貢献は多くはない。 ○ 研究者の層が手薄であるため、わが国で生まれた独創的な情報関連技術はそれ程おおくはない。また、研究者が参入しない原因の一部は、保健医療情報システムの主体をなすソフトウェア技術に対して、その価値の認識が不十分であることにある。 ○ 保健医療分野で情報化を推進するリーダーとなりうる実務レベルの専門家が不足しており、特に中小規模の医療機関での情報化の遅れの原因の一つとなっている。 2.2 各分野における保健医療情報システムの現状 ○ わが国の保健医療分野での情報化の現状について個別に検討すると以下の特徴が見られる。なお、本報告書の性格上、基礎医学研究に関連した情報システムについては言及していない。 2.2.1 医療機関内における情報システムの活用 ○ 大規模病院では、医師や看護婦などが、コンピュータ端末を操作して直接データを入力する総合的な病院情報システムの普及が進もうとしている。一方、診療所の情報化に関しては、診療報酬請求事務の効率化のために情報システムが利用されている場合が多い。 ○ 診療報酬請求事務に関連した情報システムについては、個別の医療機関においてパーソナルコンピュータを用いたシステムなどが広く活用されている。厚生省で進めている磁気媒体によって保険請求を行ういわゆる「レセプト電算処理システム」は、55ヶ所の診療所・小病院で実用化されている。同システムは、今後、中・大病院にも展開されることとなっている。 2.2.2 地域保健医療情報システム(保健医療機関が連携する情報システムの活用) ○ 32の都道府県で救急医療情報システムが設置活用されている。また、一部の地方自治体や地域医師会で多目的の情報システムが活用されている。 ○ 20余りの地域や医療機関内でICカードや光カードなどのパッケージ・メディアを用いた情報システムが利用されている。 ○ 腎移植のためのコンピュータ・ネットワークシステムが国立佐倉病院を中心として構築されているが、加えて、臓器移植全般を対象としたネットワークづくりが進められている。 ○ がんの原発臓器、治療内容などを一元化して登録し、診療や研究に活用することを目的とするがん登録システムは、わが国では一部の地域・施設で行われているにすぎないこと、あるいはその様式が完全には統一できていないことなどのため、情報の活用が諸外国に比較して不十分となっている。 ○ 映像通信技術を利用した遠隔医療情報システムは、離島などの専門医の少ない僻地の医療を支援するために、病理組織診断、放射線画像診断、脳外科などの分野で活用されている。 ○ 医薬品の調剤に関する情報システムは、調剤薬局を連携する情報システムなどが一部の保険薬局で利用されている。 ○ 医薬品の医療機器の流通のための情報システムは、他の分野に比べて遅れており、漸くその緒がついたばかりである。 ○ 国際医療協力にも情報システムが利用されようとしており、既に、通信事情が悪い開発途上国の現状と世界各地を結ぶ通信衛生ネットワークが民間団体によって維持されている。 2.2.3 保健医療情報を提供する情報システムの活用 ○ 大学などの医学図書館のコンピュータ化が進められており、そのサービスの一部が大学外の医療機関にも広がろうとしている。 ○ 最新の医療の動向や日々の診療に必要な知識を提供する医療専用の衛生放送が、一部の医師グループによって全員サービスとして実験されている。 ○ 医薬品の情報提供に関しては、薬剤感受性情報システム、副作用情報システム、中毒情報システムなどが一部の保健医療機関で利用されている。 ○ 保健医療情報提供の基礎となる医学用語、医学用語シソーラスなど、保健医療に用いられるコード体系については、ICカード−10(国際疾病分類第10回修正)の病名ファイルの作成が国によって進められているほか、各関係学会、関係団体、国際機関などによって標準化への努力が行われている。 ○ 地域の住民に対して保健医療情報を提供する情報システムが一部の地方自治体によって運営されている。 注)欧米の状況について  欧米における保健医療情報システムは、内容においてはわが国と大きく異なることはないが、国としての情報システムに対する基本方針はわが国より明確にされている場合は多い。特に最近では、以下の動向が注目されるべきである。 ・フランス、ドイツなど欧州諸国では、カードを用いた保健医療情報ネットワークの実験が大規模に実施されている。 ・米国では、磁気テープを用いた診療報酬請求が普及し、事務の効率化に寄与している。また、がんに関する情報を国民に提供するシステムが国の研究機関によって運営されているなど、国民への情報の提供にも留意されている。 ・米国の国防省によって構築されたネットワークを起源とする世界的なコンピュータ通信ネットワーク(Internet)が保健医療情報を流通させる手段としても活用されるようになってきている。 ・さらに、米国では、産業政策の一環として、高性能コンピュータ技術の開発計画(HPCC プロジェクト)が国の主導で進められており、その中で保健医療分野は重要な位置を占めている。 3 保健医療情報システムの必要性 ○ 保健医療情報システムの必要性は次の4点に集約される。 3.1 保健医療サービスを効率的に提供すること。 ○ 情報を正確かつ迅速に処理し、必要な部署に伝達することによって、保健医療サービスを効率化することに役立つ。 3.2 保健医療サービスの質を確保すること。 ○ 保健医療サービスの提供に必要な最新の医学知識や保健医療情報を保健医療関係者に迅速に提供することによって、保健医療サービスの質を高める。 ○ 保健医療サービスの客観的評価を通じて、保健医療サービスの質を確保する。 3.3 保健医療サービスの公平と公正を保証すること。 ○ 正確な情報を適切に保健医療関係者に提示することにより、公平かつ公正な保健医療サービスの提供への意思決定を支援する。 ○ 時間や距離に関係なく情報の伝達ができることを特徴とする情報システムにより、保健医療資源の地域的偏在が緩和される。 3.4 保健医療技術を進歩させること。 ○ 医学・医療技術の革新のために必要な情報を提供することにより、保健医療分野における研究開発を支援する。 4 保健医療情報システムを取り巻く技術の動向 ○ ここでは、保健医療情報システムに関連した最近の技術動向を簡略に記す。 4.1 保健医療情報システム発展の歴史(図1) (1)第1世代保健医療情報システム  保健医療分野の現場におけるコンピュータ利用の開始は1950年代から60年代に遡る。診療報酬請求に伴う膨大な事務作業の効率化を目的として導入された経緯があり、この世代の情報システムは一般に診療行為、会計情報、患者基本情報、来院情報、病名情報など窓口業務に関連した情報の処理に用いられてきた。  また、心電図自動解析システムなど、医療へのコンピュータの利用が開始された。 (2)第2世代保健医療情報システム  医師や看護婦などの発生源入力に基づくオーダエントリーシステムの導入によって、病院総合情報システムとして病棟、診察室、臨床検査部、放射線部などの情報化が開始された。また、救急医療や地域医療の場での情報化の取り組みも始められた。 4.2 21世紀に向けての情報処理技術の動向(図2) ○ 情報処理技術の進歩は極めて急速であり、情報処理関連分野の産業構造も大きく変化しつつある。保健医療分野における情報化という観点から情報処理技術の動向をまとめると、技術革新や産業構造の変化によって、製造者主導による保健医療施設内の事務処理効率化のための情報システムから、利用者を中心とした保健医療福祉の連携に基づく総合的な情報システムへと変化していく状況にあることが理解される。 4.2.1 情報処理における技術革新の波 ○ 21世紀に求められる保健医療情報システムの構築に関連した情報処理技術の中で、以下の各項目が重要である。 (1)ネットワーク化  従来、情報システムは部局内に限定された形での運用が前提となっていたが、ネットワーク技術の向上によって、情報の分散処理、共通利用を図ることが容易になってきた。保健医療分野の基礎的技術として、オンライン・システムにおける標準化とプライバシーの保護を含むセキュリティー対策が重要な課題となっている。 (2)オープン化  製造者の異なるハードウェア及びソフトウェアを組み合わせて、データの共通利用を図るシステム構築が進められている。 (3)ダウンサイジング化(小型化)  コンピュータの価格の低下や高性能化に伴い、予算別及び目的別計画に対応した段階的なシステム整備が可能となるとともに、データ処理・管理の分散化が一層推進されている。 (4)マルチメディア化(文字、画像、音声の利用)  多様な媒体を用いてより密度の高い情報を効果的に活用するため、文字・画像・音声などを総合的に取り扱えるマルチメディアに大きな期待が寄せられている。 4.2.2 情報処理関連産業の構造変化 ○ 情報処理技術の進歩によって、以下のような産業構造の変化が起きている。 (1)ソフトウェアの重視  利用者側の目的意識が最優先事項となり、目的達成のためにはいかなるソフトウェアを開発する必要があるかという姿勢が問われている。ハードウェアはソフトウェアを問題なく稼働させるための道具であるとの認識が広まりつつある。 (2)シングルベンダからマルチベンダ(システムインテグレータ、ソフトウェア)へ  保健医療機関がそれぞれ独自のシステムを導入している現状においては、利用者は半永久的に固有の製造者に依存せざるを得ない。今後は市場原理に基づく技術革新を妨げない程度において、各製造者が標準仕様に則ったシステム開発を行い、同一のフォーマット上でデータベースを共通利用しようという動きがある。 (3)製造者間の合従連衡  近年、各製造者間の技術連携が盛んに行われている。各々の特意分野を活かし、新たな技術を開発しようという姿勢が見られる。 4.3 21世紀の医療情報システムを支える情報処理関連技術 ○ 以下の情報処理関連技術が保健医療分野における情報化を支援することが予想される。 (1)高度情報通信インフラ(高度ネットワークシステム)  光ファイバーなどを用いた高速・大容量通信網の整備が行われ、保健医療機関、研究機関、行政機関やデータベース、さらには家庭をも連結することによって、情報の共通利用が実現可能となる。 (2)携帯型複合情報端末(マルチメディア端末)、高性能パソコン  小型化・低価格化した情報端末を各保健医療関係者や住民などが所有・使用することにより、膨大なデータの分散処理・分散保有が可能となり、情報へのアクセスも容易となる。これらの情報端末には画像、波形(心電図、脳波など)、文字、音(心音、肺音)を総合的に取り扱う媒体としてマルチメディアが有効である。 (3)高性能ワークステーション  高性能ワークステーションの活用により、マルチメディアなどの実現が可能となる。 (4)オブジェクト指向データベース  蓄積された膨大なデータを効率的に処理し、利用者側の意思決定(治験方針や政策決定など)の補助となるようなデータベース構築を目指した基盤技術開発が進められる。 (5)グループウェアシステム  異なる施設の所有するハードウェア及びソフトウェア両面での共通利用を図るため、いわゆる業界標準を用いて構築されたオープンシステムが普及する。 (6)バーチャル・リアリティーシステム  治験のシュミレーションや患者のリハビリテーションなどに高性能のコンピュータにより開発されたバーチャル・リアリティーの技術を活用する。 5 近未来の保健医療情報システム ○ 情報処理技術の活用を通じて保健医療サービスをより望ましいものとするため、情報化社会における保健医療の姿を念頭に置きつつ、保健医療情報システムの展開を考えることとした。ここでは21世紀初頭における保健医療情報システムに関するビジョンを描く。  なお、保健医療情報システムが保健医療サービスの提供を支援するものであることは論を待たないが、他の技術と同様、結果として情報システムが保健医療サービス提供形態に影響を与えることも予想される。 5.1 保健医療情報システムの方向性 ○ 今後の保健医療システムの発展の方向性を、国民(患者を含む)からの要望、保健医療関係者からの要望、技術環境の変化の三方向から考える。 5.1.1 国民からの要望 (1)専門的高度保健医療サービスへの志向  全人的、包括的な保健医療サービスとともに、専門的で高度な保健医療サービスを受けることができる体制を要望する国民の声はますます強くなるものと予想される。従って、保健医療機関間の連携の強化がより求められる。 (2)在宅医療への志向  自宅にいながら保健医療サービスを受けられる在宅医療への指向はさらに強くなり、保健医療機関と家庭との連携が求められるようになる。 (3)保健医療情報への関心の高まり  保健医療に関する情報を求める国民の要望がますます高まることが予想され、そのための情報システムが必要となる。 5.1.2 保健医療関係者からの要望 (1)医学知識のデータベースの構築と活用  保健医療関係者の間で、新しい医療知識の必要性が高まり、そのためのデータベースが必要となる。 (2)研究者支援情報システム  複数の施設による共同研究に必要な情報を研究参加者に提供する情報システムが医学研究に活用されるようになるとともに、その研究成果が速やかに臨床医に還元される情報システムへの要望が高まる。 (3)政策決定のためのデータベースの構築と活用  意思決定者の客観的意思決定を客観的データに基づいて支援する必要が高まり、そのためのデータベースが求められる。 (4)患者情報の形態の変化  疾病の予防や治験をより充実させるとともに、健康状態の動的な予測を行うため、個人の健康情報を時系列に従って包括的に整理される必要性が高まり、新しい形態の病歴データの蓄積方法への期待要望が高まる。 5.1.3 情報処理技術の進歩が保健医療サービスにもたらす変化 (1)情報環境の変化  保健医療現場での情報利用環境は大幅に改善され、特に操作性の改善などによって患者情報の電子化が進展することが予想される。その結果、21世紀初頭には臨床医の過半数が情報機器を診療に用いるようになるなど情報が保健医療の現場で広く用いられるようになる。 (2)ベッドサイド端末機の普及  入院患者や在宅患者がベッドサイドで情報機器を利用して医療情報を入手するようになることが予想される。 (3)広帯域伝送路の確保  保健医療情報活用のためのインフラストラクチャーとして、情報の広帯域伝送路が整備されることが予想される。 (4)高度医療情報処理  情報の高度利用が進み、画像処理や人工知能などに基づく診断(Computer Aided Diagnosis: CAD)や治験が行われるようになる。 5.2 21世紀初頭に求められる保健医療情報システムの具体的イメージ ○ 5.1における各項目事項をもとに、21世紀初頭に求められる保健医療情報システムの具体的イメージを描くと以下の通りになる。 5.2.1 総合保健医療福祉情報ネットワーク(図3) ○ 民間・行政、サービスの提供側・利用側などの区分に関わらず、保健医療福祉に関係する全ての知識、個人が情報のネットワークによって結ばれるようになり、その間の文字、音声、画像などを含む情報交換の一部がこの情報ネットワークを行われることが予想される。例えば、保健医療間傾斜の間では、他の医療機関への患者紹介、専門医への相談、訪問看護の際の患者情報の報告などについて、また、保健医療関係者と国民との間では、在宅患者の状況把握、救急時の相談などに利用される。 ○ 国際化が進展する中で、医学研究、災害支援、国際協力などの目的に利用できる情報は、国際的なネットワーク上で利用できるようになる。 5.2.2 保健医療関連のデータベースの構築と活用 ○ 上記のネットワークの基盤として各種データベースが構築される。データベースは全国レベルまたは地域レベルで設置されるもの、利用者が国民または保健医療関係者であるもの、データの内容が患者データまたは保健医療サービス支援データであるもの、目的が診療用または管理用であるもの、使用料を要するものまたは不要なものなど、様々な形態が有り得る。国民や保健医療関係者が、このデータベースを介してネットワークを必要に応じて頻繁に利用するようになることが予想される。  以下に、データベースの代表例を列挙する。 ・個人健康情報データベース:  病歴や医薬品使用歴などがICカードをはじめとする標準化された可搬型媒体や保健医療機関の持つデータベースセンターなどに蓄積され、これらが、保健医療サービスに携わる限定された人によって一定のルールに基づいて利用可能となる。 ・保健医療サービス支援のための広域データベース:  画像情報を含め、日常の診療活動で有用な教科書や参照情報を納めたデータベースが構築され、遠隔地からでもこれらの情報を取得できるようになる。 ・国民向け健康相談データベース:  各家庭の電話、ファクシミリ、パソコン通信などを介して、健康相談、在宅ケア、救急医療サービスなどを容易にうけることができるシステムが普及し、これらのシステムの運用も保健医療関係者の重要な責務となる。 ・医学研究用データベース:  複数の医学研究者が参加する医学研究データは、データベースの形で蓄積され、情報ネットワークによって参加医学研究者によって利用されるようになる。 6 21世紀初頭に求められる保健医療情報システムを構築するための提言 ○ ここでは、上記の情報システムが健全に育成されるための方策として、現在実行すべきものについて述べる。 6.1 基本的考え方 6.1.1 情報システムに関する国の方針の確立と提示 ○ 上記の保健医療情報システムの開発と普及には、所属や立場の異なる多くの関係者の統合した協力が不可欠である。そのためには、国が基本方針を示し、関係者の努力に一定の方向性を与える必要があり、保健医療情報政策を定期的に検討する常設の場を設けることが求められる。 6.1.2 客観的データに基づく合理的意思決定の推進 ○ 保健医療サービスの質の確保のためには、保健医療サービスの提供に際して、客観的な評価データに基づく合理的な意思決定がなされる必要がある。そのための基盤として情報システムは不可欠であり、国は、行政の各場面で情報の活用を図り、保健医療分野全般での情報化の推進役として規範を示すべきである。 6.1.3 国民への情報の提供 ○ 国民に保健医療に関する情報を提供することは、良質な保健医療サービスの確保のために今後さらに重要になるものと考えられるため、国民への保健医療情報提供のための原則として検討し、国民及び保健医療関係者の合意を形成することが求められる。 6.1.4 情報システムの発展のための環境の整備 ○ 情報システムが広く国民に活用されるようになるためには、技術面、経済面、制度面、人材面での諸問題を解決する必要がある。 (1)技術的環境  システムの各要素の標準化を推進し、情報システムの構築や情報の活用を容易にするとともに、システムの一層の信頼性を確保することが必要である。 (2)経済的環境  保健医療情報システムの健全な発展のためには、情報に対する対価の提供などの経済的インセンティブを設定し、情報利用による直接的間接的メリットを明確にすることが重要である。経済的インセンティブには、情報活用に対する報酬などの正の経済的インセンティブが有効な場合もあれば、活用しない場合の費用負担増などの負の経済的インセンティブが有効な場合もある。 (3)制度  法令や各種の制度などの規則によって情報システムの発展が妨げられることがないよう、規制緩和などの措置及び積極的に情報化を推進するための制度を検討する必要がある。 (4)人材  保健医療情報システムを担う人的資源の確保を図り、情報の利用や質の向上を推進する必要がある。 6.1.5 プライバシー保護と情報開示の原則の両立 ○ 情報の活用を図ることは極めて重要であるが、その一方で保健医療に関する情報はその多くが病状など個人の固有の状態に由来しており、プライバシーの保護を最優先に考慮しつつ情報の活用を図らなければならない。 ○ そのためには、情報の利用などに関する原則を確立する必要がある。例えばデータが共有されるデータベースに個人情報が入れられる際には、情報システムの目的や利用される情報などについての詳細な説明を行った上で、本人の同意を求めるなど、プライバシー保護については万全の配慮を行う必要がある。 ○ また、情報技術の観点からは、情報に対するアクセス権(参照及び利用権)の設定を行うなどのプライバシー保護のための対策を情報システムに盛り込む必要がある。 6.1.6 医産官学の役割の原則と明確化 ○ データベースやネットワークなど、情報活用のためのインフラストラクチァーの整備を公的に進める必要がある。また、信頼できる情報システムを構築していくためには情報システムの利用者の役割も重要である。今後、保健医療情報システムを発展させるためには、保健医療関係者、企業、国、研究機関などいわゆる医産官学の役割分担を明確にし、それぞれが最大限の力を発揮できる体制を作るべきである。 6.2 アクション・プログラム ○ ここでは、6.1で述べた原則に従い、具体的な提言を行う。 6.2.1 国のアクション・プログラム ○ 国は以下に代表される施策を推進すべきであり、必要に応じて法制面での整備を図るべきである。 (1)保健医療情報の活用に関する基本方針の提示  国は、保健医療ニーズを的確に把握し、サービスの向上、効率化、公平・公正の確保に有用な情報システムを構築していくための基本方針を提示すべきであり、それを検討するための常設の場を設置すべきである。 (2)システム開発に対する支援及び基盤的研究の実施  国は、情報システム開発に必要な新しい基盤的技術に関する研究を自ら実施するとともに、民間における研究開発を支援すべきである。 (3)保健医療情報システムの標準化の推進  情報が保健医療機関の間で相互に交換できるように、医学用語、各種保健医療統計の様式、ソフトウェア、保健医療データの通信手順など、全ての保健医療情報の基礎となる技術に関して、国は、標準化を推進すべきである。 (4)プライバシーの保護のための施策  保健医療情報が一般の個人情報と異なることを認識し、国は、保健医療情報に関わる総合的なプライバシーの保護の施策を実施すべきである。また、情報の暗号化技術の開発など技術面からの支援を行うとともに、個人を同定する方法について検討すべきである。 (5)大規模データベースの構築とネットワークの活用のための施策  国は、公共性の高い情報については大規模データベースを構築し、ネットワークを通じた利用などを推進する一方、民間におけるデータベースの構築や利用を支援するべきである。 (6)情報システムの発展のための経済的基盤の確立  国は、保健医療関係者が保健医療情報を取り扱うことに対して診療報酬上の対応をするなど、情報の活用に関して何らかの対価が提供されるメカニズムを設定し、情報化へのインセンティブとすべきである。 (7)技術評価の実施  利用しやすく有用な保健医療情報システムの普及を図るために、国は、技術評価の方法論を確立するとともに、それに基づく評価を実施すべきである。 (8)情報活用のための人材の養成及び確保  国は、保健医療の現場で情報の活用を推進するための人材を養成及び確保する施策を実施すべきである。 (9)行政への情報の活用  国は、情報システムから得られた客観的なデータを行政施策の実施の際に活用すべきである。 (10)保健医療システムの実態把握  国は、保健医療情報システムの生産動向、利用状況などを把握し、安全な情報システムの提供及び使用に資するべきである。 (11)国の情報化担当部門の体制強化  医産官学の協調と協力を得て上記の事業を実施し、保健医療分野の情報化を一層推進していくため、国は、その情報化担当部門について体制を強化すべきである。 (12)情報システムの発展を推進するための公益法人の育成  保健医療情報システムの一層の発展と普及を図るため、国は、財団法人 医療情報システム開発センターが上記各項に関連する活動を担うことができるよう、その活用を図るべきである。 6.2.2 保健医療関係者のアクション・プログラム ○ 保健医療関係者は、情報システムの特性を理解し、これを最大限に活用して質の高い保健医療サービスの提供に努力すべきである。 ○ 保健医療情報システムの構築は、保健医療関係者のイニシアティブがあって初めて可能になるものであり、自ら積極的に情報システムの構築を図るべきである。 6.2.3 保健医療情報分野の研究者のアクション・プログラム ○ 情報技術は日々進歩発展するものであり、保健医療情報分野の研究者は新規の情報技術の開発に努めるとともに、その保健医療への応用に積極的に関わるべきである。 ○ 保健医療情報システムの研究に従事する人材の養成と確保に努めるべきである。 6.2.4 産業界のアクション・プログラム ○ 産業界は、研究開発の推進、標準規格に基づく良質で操作性に優れた製品の製造、利用者に対する説明などに努め、もって保健医療分野における安全かつ有効な情報の活用に資するべきである。また、保健医療現場において情報化を推進する人材の養成に寄与すべきである。 6.2.5 財団法人 医療情報システム開発センターのアクション・プログラム ○ 財団法人 医療情報システム開発センターは、保健医療分野での情報化を推進するため、保健医療福祉の連携に重要性や国際化の進展など保健医療を取り巻く変化に対応しつつ、国の施策に基づいて諸事業を推進すべきであるが、特に以下の事業を重点的に実施すべきである。 (1)情報システムの標準化の推進  情報の共通利用などを推進するため、国などの支援のもとに、保健医療関係者、業界団体などと協力してその基盤的技術となるソフトウェアなどの開発を一層行うべきである。 (2)先端情報システムの開発  国、産業界などと協力して、最先端の情報処理技術を利用した保健医療情報システムの開発を行い、情報化の推進に努めるべきである。 (3)知識の普及とコンサルティングの充実  保健医療の現場における情報化を推進するため、関係者に対する知識の普及に努めるとともに、地方自治体、民間医療機関などにおける保健医療情報システム構築に関するコンサルティング業務を充実すべきである。 (4)人材の養成  リサーチ・レジデント制度の導入などを通じて、業界団体などと協力して、大学、地方自治体、保健医療機関などにおいて保健医療情報に関わる人材の養成に努めるべきである。 (5)国民に対する保健医療情報の提供  良質な保健医療サービスの提供を推進するため、国民が容易に必要な保健医療情報を入手できるよう、国、保健医療関係団体などと協力して、情報提供体制を整備すべきである。 (6)プライバシー保護と品質の確保  プライバシーの保護、保健医療情報の安全性・再現性・共通利用などの要件を確保するため、保健医療関係者・業界団体などと協力して保健医療情報システムの品質などに関する各種の技術基準を策定するとともに、技術基準が策定された情報システムについては、当該システムを製造する企業にによる届出制度などを導入し、普及の推進に図るべきである。 7 おわりに ○ 長寿社会の到来が確実に予想される21世紀にあって、国民の保健医療ニーズは時々刻々変化すると考えられる。従って、保健医療サービスの提供を支援する情報システムも、急速に変化する保健医療ニーズに対応して、その姿を変えていくことが常に求められることはいうまでもない。本中間報告で保健医療情報システムのあり方を検討する常設の場を提案していることもこの反映である。 ○ 一方、保健医療情報システムに利用される情報処理技術もダイナミックな変化を見せている。この報告は、現在考えうる技術の進歩を踏まえて、多くの提言を行っていると自負しているが、予想せざる技術の進歩にこれら提言の見直しを求めることも考えられる。そこに、本報告をあくまでも中間報告として位置づけ、適宜その内容の見直しを行うべきとする根拠が存在する。報告書を終えるにあたり、本報告の見直しが求められる様な技術の進歩を大いに期待するものである。