6 21世紀初頭に求められる保健医療情報システムを構築するための提言 ○ ここでは、上記の情報システムが健全に育成されるための方策として、現在実行  すべきものについて述べる。 6.1 基本的考え方 6.1.1 情報システムに関する国の方針の確立と提示 ○ 上記の保健医療情報システムの開発と普及には、所属や立場の異なる多くの関係  者の統合した協力が不可欠である。そのためには、国が基本方針を示し、関係者の  努力に一定の方向性を与える必要があり、保健医療情報政策を定期的に検討する常  設の場を設けることが求められる。 6.1.2 客観的データに基づく合理的意思決定の推進 ○ 保健医療サービスの質の確保のためには、保健医療サービスの提供に際して、客  観的な評価データに基づく合理的な意思決定がなされる必要がある。そのための基  盤として情報システムは不可欠であり、国は、行政の各場面で情報の活用を図り、  保健医療分野全般での情報化の推進役として規範を示すべきである。 6.1.3 国民への情報の提供 ○ 国民に保健医療に関する情報を提供することは、良質な保健医療サービスの確保  のために今後さらに重要になるものと考えられるため、国民への保健医療情報提供  のための原則として検討し、国民及び保健医療関係者の合意を形成することが求め  られる。 6.1.4 情報システムの発展のための環境の整備 ○ 情報システムが広く国民に活用されるようになるためには、技術面、経済面、制  度面、人材面での諸問題を解決する必要がある。 (1)技術的環境   システムの各要素の標準化を推進し、情報システムの構築や情報の活用を容易に  するとともに、システムの一層の信頼性を確保することが必要である。 (2)経済的環境   保健医療情報システムの健全な発展のためには、情報に対する対価の提供などの  経済的インセンティブを設定し、情報利用による直接的間接的メリットを明確にす  ることが重要である。経済的インセンティブには、情報活用に対する報酬などの正  の経済的インセンティブが有効な場合もあれば、活用しない場合の費用負担増など  の負の経済的インセンティブが有効な場合もある。 (3)制度   法令や各種の制度などの規則によって情報システムの発展が妨げられることがな  いよう、規制緩和などの措置及び積極的に情報化を推進するための制度を検討する  必要がある。 (4)人材   保健医療情報システムを担う人的資源の確保を図り、情報の利用や質の向上を推  進する必要がある。 6.1.5 プライバシー保護と情報開示の原則の両立 ○ 情報の活用を図ることは極めて重要であるが、その一方で保健医療に関する情報  はその多くが病状など個人の固有の状態に由来しており、プライバシーの保護を最  優先に考慮しつつ情報の活用を図らなければならない。 ○ そのためには、情報の利用などに関する原則を確立する必要がある。例えばデー  タが共有されるデータベースに個人情報が入れられる際には、情報システムの目的  や利用される情報などについての詳細な説明を行った上で、本人の同意を求めるな  ど、プライバシー保護については万全の配慮を行う必要がある。 ○ また、情報技術の観点からは、情報に対するアクセス権(参照及び利用権)の設  定を行うなどのプライバシー保護のための対策を情報システムに盛り込む必要があ  る。 6.1.6 医産官学の役割の原則と明確化 ○ データベースやネットワークなど、情報活用のためのインフラストラクチァーの  整備を公的に進める必要がある。また、信頼できる情報システムを構築していくた  めには情報システムの利用者の役割も重要である。今後、保健医療情報システムを  発展させるためには、保健医療関係者、企業、国、研究機関などいわゆる医産官学  の役割分担を明確にし、それぞれが最大限の力を発揮できる体制を作るべきである。 6.2 アクション・プログラム ○ ここでは、6.1で述べた原則に従い、具体的な提言を行う。 6.2.1 国のアクション・プログラム ○ 国は以下に代表される施策を推進すべきであり、必要に応じて法制面での整備を  図るべきである。 (1)保健医療情報の活用に関する基本方針の提示   国は、保健医療ニーズを的確に把握し、サービスの向上、効率化、公平・公正の  確保に有用な情報システムを構築していくための基本方針を提示すべきであり、そ  れを検討するための常設の場を設置すべきである。 (2)システム開発に対する支援及び基盤的研究の実施   国は、情報システム開発に必要な新しい基盤的技術に関する研究を自ら実施する  とともに、民間における研究開発を支援すべきである。 (3)保健医療情報システムの標準化の推進   情報が保健医療機関の間で相互に交換できるように、医学用語、各種保健医療統  計の様式、ソフトウェア、保健医療データの通信手順など、全ての保健医療情報の  基礎となる技術に関して、国は、標準化を推進すべきである。 (4)プライバシーの保護のための施策   保健医療情報が一般の個人情報と異なることを認識し、国は、保健医療情報に関  わる総合的なプライバシーの保護の施策を実施すべきである。また、情報の暗号化  技術の開発など技術面からの支援を行うとともに、個人を同定する方法について検  討すべきである。 (5)大規模データベースの構築とネットワークの活用のための施策   国は、公共性の高い情報については大規模データベースを構築し、ネットワーク  を通じた利用などを推進する一方、民間におけるデータベースの構築や利用を支援  するべきである。 (6)情報システムの発展のための経済的基盤の確立   国は、保健医療関係者が保健医療情報を取り扱うことに対して診療報酬上の対応  をするなど、情報の活用に関して何らかの対価が提供されるメカニズムを設定し、  情報化へのインセンティブとすべきである。 (7)技術評価の実施   利用しやすく有用な保健医療情報システムの普及を図るために、国は、技術評価  の方法論を確立するとともに、それに基づく評価を実施すべきである。 (8)情報活用のための人材の養成及び確保   国は、保健医療の現場で情報の活用を推進するための人材を養成及び確保する施  策を実施すべきである。 (9)行政への情報の活用   国は、情報システムから得られた客観的なデータを行政施策の実施の際に活用す  べきである。 (10)保健医療システムの実態把握   国は、保健医療情報システムの生産動向、利用状況などを把握し、安全な情報シ  ステムの提供及び使用に資するべきである。 (11)国の情報化担当部門の体制強化   医産官学の協調と協力を得て上記の事業を実施し、保健医療分野の情報化を一層  推進していくため、国は、その情報化担当部門について体制を強化すべきである。 (12)情報システムの発展を推進するための公益法人の育成   保健医療情報システムの一層の発展と普及を図るため、国は、財団法人 医療情  報システム開発センターが上記各項に関連する活動を担うことができるよう、その  活用を図るべきである。 6.2.2 保健医療関係者のアクション・プログラム ○ 保健医療関係者は、情報システムの特性を理解し、これを最大限に活用して質の  高い保健医療サービスの提供に努力すべきである。 ○ 保健医療情報システムの構築は、保健医療関係者のイニシアティブがあって初め  て可能になるものであり、自ら積極的に情報システムの構築を図るべきである。 6.2.3 保健医療情報分野の研究者のアクション・プログラム ○ 情報技術は日々進歩発展するものであり、保健医療情報分野の研究者は新規の情  報技術の開発に努めるとともに、その保健医療への応用に積極的に関わるべきであ  る。 ○ 保健医療情報システムの研究に従事する人材の養成と確保に努めるべきである。 6.2.4 産業界のアクション・プログラム ○ 産業界は、研究開発の推進、標準規格に基づく良質で操作性に優れた製品の製造、  利用者に対する説明などに努め、もって保健医療分野における安全かつ有効な情報  の活用に資するべきである。また、保健医療現場において情報化を推進する人材の  養成に寄与すべきである。 6.2.5 財団法人 医療情報システム開発センターのアクション・プログラム ○ 財団法人 医療情報システム開発センターは、保健医療分野での情報化を推進す  るため、保健医療福祉の連携に重要性や国際化の進展など保健医療を取り巻く変化  に対応しつつ、国の施策に基づいて諸事業を推進すべきであるが、特に以下の事業  を重点的に実施すべきである。 (1)情報システムの標準化の推進   情報の共通利用などを推進するため、国などの支援のもとに、保健医療関係者、  業界団体などと協力してその基盤的技術となるソフトウェアなどの開発を一層行う  べきである。 (2)先端情報システムの開発   国、産業界などと協力して、最先端の情報処理技術を利用した保健医療情報シス  テムの開発を行い、情報化の推進に努めるべきである。 (3)知識の普及とコンサルティングの充実   保健医療の現場における情報化を推進するため、関係者に対する知識の普及に努  めるとともに、地方自治体、民間医療機関などにおける保健医療情報システム構築  に関するコンサルティング業務を充実すべきである。 (4)人材の養成   リサーチ・レジデント制度の導入などを通じて、業界団体などと協力して、大学、  地方自治体、保健医療機関などにおいて保健医療情報に関わる人材の養成に努める  べきである。 (5)国民に対する保健医療情報の提供   良質な保健医療サービスの提供を推進するため、国民が容易に必要な保健医療情  報を入手できるよう、国、保健医療関係団体などと協力して、情報提供体制を整備  すべきである。 (6)プライバシー保護と品質の確保   プライバシーの保護、保健医療情報の安全性・再現性・共通利用などの要件を確  保するため、保健医療関係者・業界団体などと協力して保健医療情報システムの品  質などに関する各種の技術基準を策定するとともに、技術基準が策定された情報シ  ステムについては、当該システムを製造する企業にによる届出制度などを導入し、  普及の推進に図るべきである。