2 保健医療情報システムの現状に関する認識 2.1 総論 ○ わが国の保健医療情報システムは、保健医療関係者の努力とともに、国としても  昭和40年代から保健医療情報システムの開発普及などに努力した結果、診療所に  おいても情報システムが活用されるなど広い視野を持つに至ると同時に、高い技術  水準の保健医療情報システムが一部の医療機関などで活用される状況にあることは  評価されるべきである。 ○ しかしながら、保健医療情報システムに関する総合的な政策方針が必ずしも明確  でなかったため、情報システム構築のための作業の多くが、関与する個別の企業や  個人の努力に依存してきたきらいがある。その結果、情報システムが相互に連携し  ない形態で普及し、情報の活用に関して無駄や非効率な点がみられる。 ○ わが国の保健医療情報システムの目的は、主として保健医療サービスを提供する  上での効率性の向上に向けられており、保健医療関係者などの意思決定者がデータ  に基づいて客観的意思決定を行う際の情報支援に用いられることは比較的少ない。  また、保健医療サービスの質の向上に役立つ情報システムの構築が十分に発達して  いるとは言いがたい。 ○ わが国では、大規模なデータベースの構築はほとんど行われていない。従って、  データベースの活用が必要とされる医療技術評価、疫学研究などへの情報システム  の貢献は多くはない。 ○ 研究者の層が手薄であるため、わが国で生まれた独創的な情報関連技術はそれ程  おおくはない。また、研究者が参入しない原因の一部は、保健医療情報システムの  主体をなすソフトウェア技術に対して、その価値の認識が不十分であることにある。 ○ 保健医療分野で情報化を推進するリーダーとなりうる実務レベルの専門家が不足  しており、特に中小規模の医療機関での情報化の遅れの原因の一つとなっている。 2.2 各分野における保健医療情報システムの現状 ○ わが国の保健医療分野での情報化の現状について個別に検討すると以下の特徴が  見られる。なお、本報告書の性格上、基礎医学研究に関連した情報システムについ  ては言及していない。 2.2.1 医療機関内における情報システムの活用 ○ 大規模病院では、医師や看護婦などが、コンピュータ端末を操作して直接データ  を入力する総合的な病院情報システムの普及が進もうとしている。一方、診療所の  情報化に関しては、診療報酬請求事務の効率化のために情報システムが利用されて  いる場合が多い。 ○ 診療報酬請求事務に関連した情報システムについては、個別の医療機関において  パーソナルコンピュータを用いたシステムなどが広く活用されている。厚生省で進  めている磁気媒体によって保険請求を行ういわゆる「レセプト電算処理システム」  は、55ヶ所の診療所・小病院で実用化されている。同システムは、今後、中・大  病院にも展開されることとなっている。 2.2.2 地域保健医療情報システム(保健医療機関が連携する情報システムの活 用) ○ 32の都道府県で救急医療情報システムが設置活用されている。また、一部の地  方自治体や地域医師会で多目的の情報システムが活用されている。 ○ 20余りの地域や医療機関内でICカードや光カードなどのパッケージ・メディ  アを用いた情報システムが利用されている。 ○ 腎移植のためのコンピュータ・ネットワークシステムが国立佐倉病院を中心とし  て構築されているが、加えて、臓器移植全般を対象としたネットワークづくりが進  められている。 ○ がんの原発臓器、治療内容などを一元化して登録し、診療や研究に活用すること  を目的とするがん登録システムは、わが国では一部の地域・施設で行われているに  すぎないこと、あるいはその様式が完全には統一できていないことなどのため、情  報の活用が諸外国に比較して不十分となっている。 ○ 映像通信技術を利用した遠隔医療情報システムは、離島などの専門医の少ない僻  地の医療を支援するために、病理組織診断、放射線画像診断、脳外科などの分野で  活用されている。 ○ 医薬品の調剤に関する情報システムは、調剤薬局を連携する情報システムなどが  一部の保険薬局で利用されている。 ○ 医薬品の医療機器の流通のための情報システムは、他の分野に比べて遅れており、  漸くその緒がついたばかりである。 ○ 国際医療協力にも情報システムが利用されようとしており、既に、通信事情が悪  い開発途上国の現状と世界各地を結ぶ通信衛生ネットワークが民間団体によって維  持されている。 2.2.3 保健医療情報を提供する情報システムの活用 ○ 大学などの医学図書館のコンピュータ化が進められており、そのサービスの一部  が大学外の医療機関にも広がろうとしている。 ○ 最新の医療の動向や日々の診療に必要な知識を提供する医療専用の衛生放送が、  一部の医師グループによって全員サービスとして実験されている。 ○ 医薬品の情報提供に関しては、薬剤感受性情報システム、副作用情報システム、  中毒情報システムなどが一部の保健医療機関で利用されている。 ○ 保健医療情報提供の基礎となる医学用語、医学用語シソーラスなど、保健医療に  用いられるコード体系については、ICカード−10(国際疾病分類第10回修正)  の病名ファイルの作成が国によって進められているほか、各関係学会、関係団体、  国際機関などによって標準化への努力が行われている。 ○ 地域の住民に対して保健医療情報を提供する情報システムが一部の地方自治体に  よって運営されている。 注)欧米の状況について   欧米における保健医療情報システムは、内容においてはわが国と大きく異なるこ  とはないが、国としての情報システムに対する基本方針はわが国より明確にされて  いる場合は多い。特に最近では、以下の動向が注目されるべきである。  ・フランス、ドイツなど欧州諸国では、カードを用いた保健医療情報ネットワーク   の実験が大規模に実施されている。  ・米国では、磁気テープを用いた診療報酬請求が普及し、事務の効率化に寄与して   いる。また、がんに関する情報を国民に提供するシステムが国の研究機関によっ   て運営されているなど、国民への情報の提供にも留意されている。  ・米国の国防省によって構築されたネットワークを起源とする世界的なコンピュー   タ通信ネットワーク(Internet)が保健医療情報を流通させる手段としても活用   されるようになってきている。  ・さらに、米国では、産業政策の一環として、高性能コンピュータ技術の開発計画   (HPCC プロジェクト)が国の主導で進められており、その中で保健医療分野は   重要な位置を占めている。