1.介護サービスの展開 (1)介護サービス体系 ア.在宅サービス (在宅サービスの整備) ・ 高齢者の生活の質の維持・向上を目指す観点から、高齢者が必要とする介護 サービスを、必要な日に、必要な時間帯に、スムーズに受けられ、一人暮らし や高者のみ世帯の場合であっても、希望に応じ、可能な限り在宅生活が続けら れるような生活支援を行っていく必要がある。特に、重度の障害を持つような 高齢者や一人暮らしで介護が必要な高齢者の場合には、24時間対応を基本とし た在宅サービス体制を整備する必要がある。 (在宅サービスの内容) ・ 在宅ケアに必要とされるサービスは多岐にわたっており、例えば、ホームヘ ルプサービス、デイサービス、デイケア、ショートステイ、配食サービス、訪 問看護・リハビリサービス、医学的管理サービス、福祉用具利用や住宅改造の 援助などの様々なサービスが考えられる。こうした在宅サービスが総合的、一 体的に提供されるシステムを整備する必要がある。 (在宅・地域サービスの新たな展開) ・ 介護の必要な高齢者の増加やそのニーズの多様化を踏まえ、新たな観点に立っ たサービス内容の充実が求められる。 24時間対応の観点から、ホームヘルパー、訪問看護婦等の夜間巡回やナイト ケア、緊急通報システムの拡充が求められるほか、痴呆性高齢者のための小規 模な共同生活の場(グループホーム)や小規模デイサービスなどの整備が望ま れる。 さらに、デイサービスやデイケアといった在宅ケアのみならず、施設入所者 も対象としたリハビリテーションを通じて、地域における在宅と施設、医療と 福祉の連携を推進するような地域リハビリテーションの拠点づくりを進めるべ きである。 (家族介護の評価) ・ 家族による介護に対しては、外部サービスを利用しているケースとの公平性 の観点、介護に伴う支出増などといった経済面を考慮し、一定の現金支給が検 討されるべきである。これは、介護に関する本人や家族の選択の幅を広げると いう観点からも意義がある。 ・ ただし、現金の支給が、実際に家族による適切な介護サービスの提供に結び つくのかどうかという問題があるほか、場合によっては家族介護を固定させた り、高齢者の状態を悪化させかねないといった懸念もあるので、制度の検討は 慎重に行われなければならない。 例えば、1.介護の経験や知識に乏しい家族には研修を受けてもらうとともに 2.専門家がケアプランに基づき全体を管理し、3.必要な場合には直ちに外部サ ービスへの切り換えが行えるようなバックアップ体制がとられていることなど に十分留意する必要がある。また、このような現金支給の対象者は、被保険者 である介護の必要な高齢者本人なのか、それとも家族なのかといった点につい ても、さらに議論を進めていく必要がある。 イ.施設サービス (施設の整備) ・ 施設ケアの充実を図るため、老人保健福祉計画の着実な実施により、地域の 事情に応じた施設整備を進め、少なくとも現在のような入所待機状態を速やか に解消することが求められる。この場合、広域的な視点から適正な施設配置を 推進するとともに、広く医療や福祉の関係者の理解と協力を求め、相互の連携・ 接続のとれた効率的なサービス提供体制の構築を目指すことが重要である。 (施設のあり方) ・ 今後の施設ケアは、高齢者の生活の質の維持・向上を図ることを基本目標に、 高齢者の個別性に配慮し、全人的なニーズを踏まえたケアプランに基づき、質 の高いケアを提供することが求められる。 また、高齢者の生活の継続性の尊重という観点からは、施設における生活は、 できる限り在宅での生活に近いものであることが望まれる。その意味において も、施設ケアにおける快適性(アメニティ)の向上を図っていく必要 がある。 さらに、施設は施設ケアの枠にとどまることなく、在宅ケアを支えていく地 域の拠点としての機能を積極的に果たすとともに、継続的なケアの現実を目指 すことが望まれる。在宅ケアの継続に不安をもつ多くの家族の存在を考えると、 在宅ケアを支援する機能を併せ持つ方向で施設の整備を進めることは、その不 安の解消に大きな役割を果たすものと考えられる。 ・ 介護を必要とする高齢者に対する施設としては、特別擁護老人ホーム、老人 保健施設、療養型病床群、老人病院(入院医療管理病院)が主なものとしてあ げられる。これらの施設については、高齢者ケアを担う施設として機能を強化 する一方、利用手続や利用料における不合理な格差の解消を図るべきである。 特に、それぞれの施設に入っている高齢者が心身の状態に応じたケアを受け られるよう、施設に対する適切な費用支払方式の検討が行われる必 要がある。 ・ 新システムの下で、将来的にはこれらの施設は高齢者ケア施設として一元化 する方向を目指すことが望まれる。ただし、その場合にも、これまでの経緯や 実態、機能面の特性を十分踏まえ、多様性を幅広く認めるとともに、段階的な 移行措置に配慮することが望ましい。 ウ・サービス提供主体 ・ 高齢者や家族に対しニーズに応じた多様で良質な介護サービスが十分に提供 されるよう、多様な事業主体の参加を求め、市場における適切な競争を通じて、 サービスの供給量の拡大と質の向上が図られる必要がある。特に、現状におい てサービス量が絶対的に不足している都市部は、その必要性が高い。配食サー ビスやホームヘルプサービスなどの介護サービスに関しては、質の確保や利用 者保護が十分なされている限り、営利法人についても、サービス提供主体とし て一層の活用を検討すべきである。 ・ 医療機関を運営する主体として医療法人が、また、社会福祉事業を運営する 主体として社会福祉法人が制度化されているが、介護サービスの面での事業内 容は同質化しつつある。したがって、介護サービスについては、相互の垣根は できる限り低くし、同じサービス分野を担うものとして、それぞれの特色を生 かしながら連携しつつ共に努力していくことが期待される。将来的には、介護 サービスを担う新たな法人制度の創設の検討が望まれる。また、現在はサービ ス提供主体の事業規模がおおむね小さくであるが、今後は適切な規模の事業を 多面的に展開し得るように配慮すべきで ある。なお、制度の見直しに当たっ ては、従来から運営されてきた施設においてサービス提供に支障が生ずること のないよう、十分配慮すべきことは言うまでもない。 エ.サービス内容と質 ・ 介護サービスを提供する機関は、そのサービス体制や施設設備などについて、 組織の内容と外部の双方から、定期的にテェックを受ける必要がある。特に、 自らが提供するサービス内容についての自主的な評価とともに、第三者的な機 関による客観的な評価の活用が望まれる。 (2)サービスの利用システム ア.サービスの利用形態 (契約方式の原則) ・ 高齢者に対する介護サービスは、その特製からみて、高齢者自らの選択に基 づいて提供される必要がある。このため、介護サービスの提供は、高齢者とサ ービス提供機関の間の契約によることが適当である。 ・ このような契約によるサービス利用については、利用者保護の観点から、サ ービス提供機関から利用者への適切かつ分かりやすい情報の提供、高齢者や家 族に対する専門的な立場からの支援体制の整備、ニーズの発見とそれをサービ スに結びつける仕組み、利用者から申し込みがあった場合の速やかなサービス の提供開始が求められる。 (緊急的な保護措置) ・ また、家族による介護放棄や虐待、本人の利用拒絶などのケースにおいて、 本人の福祉のためにサービス利用の必要性が明確な場合には、契約帆牛久を補 充するものとして、行政機関の責任による緊急入所などが考えられるべきであ る。 イ.ケアマネジメント (ケアマネジメントの機能) ・ 新たな介護システムにおいては、高齢者や家族を専門的な観点から支援する 仕組みである「ケアマネジメント」が、次のような機能を果たすことが期待さ れる。 1. サービス利用に際して、高齢者や家族の相談に応じ専門的な立場から助 言すること 2. 介護の必要な高齢者や家族のニーズを把握し、そのニーズや介護の必要 度に応じ、関係者が一緒になってケアの基本方針とケア内容を定めたケア プランを作成すること 3. そのケアプランを踏まえ、実際のサービス利用に結びつけること 4. 高齢者のニーズやサービス提供状況を把握しながら、適切なサービス利 用を継続的に確保すること (ケアマネジメント体制のあり方) ・ このようなケアケアマネジメントは、介護に関し専門的知識と経験を有する 保健、医療、福祉関係者をメンバーとする「ケアチーム」によって進められる ことが適切である。その場合、高齢者の心身の状態についての医師の専門的な 判断は十分尊重される必要がある。 高齢者に対し総合的かつ継続的なサービスを提供する観点からみて、このよ うに関係者が一体となって、高齢者介護に取り組むことの意義は大きい。 (ア) ケアマネジメントにおいては、地域のサービス提供機関と十分な連携を 確保することが求められる、したがって、ケアマネジメントを担当する機関 (ケアマネジメント機関)は、地域に開かれたものであることが望まれる。 また、利用者が複数のケアマネジメント機関の中から選択できるようなもの であることが適当である。 (イ) また、ケアマネジメント機関は、サービスの即応性や「ケアチーム」の 設定、効率的な体制という観点から、ヘルパーステーションや訪問看護ステ ーション、デイサービス・デイケアなどのサービス供給機能を併せ持つこと も重要である。 (ウ) ケアマネジメント体制のあり方は、地域によって異なってくる。各地域 において、その特性や実情を踏まえた上で、最も適切な体制を確立すること が可能となるような柔軟性のある取組みが重要である。