2.介護費用の保障 (1)社会保険方式の意義 ・ 介護に要する費用は、現在でもかなりの規模に達しているが、今後介護を必 要とする高齢者の増加や介護サービスの整備のため、さらに増大することが見 込まれる。このため、介護費用を将来にわたって安定的に確保し、高齢者や家 族の適切なサービス利用を保障していく必要がある。 ・ そのための方策としては、租税を基礎とした公費方式、現行の医療保険制度 や老人保健制度などを活用した方式、新たな独立した社会保険方式など多様な 考え方探り得るが、第2章で述べたように、介護サービスの利用と費用負担と いう両面で、次けたシステムが最も適切であると考えられる。 なお、社会保険方式をとった場合においても、介護サービス保障についての 公的責任や高齢者介護に関わる現行施策との関連等からも、制度上一定の公費 (国、都道府県、市町村)の組み入れが検討される必要がある。 ア.介護サービス利用の面 (高齢者による選択) ・ まず、サービス利用の面でみると、社会保険方式は、高齢者自身によるサー ビスの選択に資するものであると言える。 公費(措置)方式の場合は、行政処分として、ニーズや所得等の審査に基づ き行政機関がサービス利用を決定する。これに対し、社会保険方式では、サー ビス利用は利用者とサービス提供機関の間の契約に基盤が置かれるため、高齢 者の選択という観点からみてよりふさわしいシステムであると言える。 ・ なお、サービス利用を当事者間の契約に委ねる結果、弱い立場にある利用者 側が不利益に扱われるケースも生ずるのではないかとの不安もある。こうした 懸念を解消するため、サービスの利用手続等について公的なルールづくり援体 制の充実や緊急的 (サービス受給の権利性) ・ また、社会保険方式は、措置制度と比べると、保険料負担の見返りとしてサ ービス受給が位置づけられているため、利用者の権利的正確が強く、利用にあ たっての心理的な抵抗が少ない。このため、マクロ的には、ニーズに応じてサ ービス供給を拡大させる方向に機能していくことが期待される。 一方、こうした権利的な正確は、保険給付に関して保険者の裁量の余地が少 ないこと等から、過剰・不当利用(モラルハザード)を招くことも懸念される ので、専門家による適切な関与や制度の適正な運営が重要となる。 イ.費用負担の面 (保険料負担とサービスの対応関係) ・ 租税財源の配分という形になる公費方式に比べ、社会保険方式では、保険料 の使途が介護費用に限定されているため、保険料負担とサービス受益の権利の 対応関係が明確である。このため、介護サービスの拡充に伴う負担の増加につ いても、保険料という形をとっていることにより、国民の理解を得とことにつ ながりやすいと考えられる。 ・ なお、現行制度の下でも介護に要する費用のかなりの部分が医療保険料で賄 われている事実を踏まえると、介護サービスとして一元化された上での保険料 の負担は、必ずしもすべてが新たな追加的負担ではないということにも留意す る必要がある。 (利用者負担のあり方) ・ 利用者負担の面については、公費方式では現行の措置制度にみられるように 所得に応じた負担(応能負担型の費用徴収システム)であるのに対し、社会保 険方式では受益に見合っ他負担(応益負担)となる。高齢者は自らの意思に基 づき多様なサービスを選択することとなるので、応益負担の観点から、その利 用したサービスの費用の一定率又は一定額を負担することが適当と考えられる。 ・ 応益負担とすることにより、サービスの利用者および提供者の両者がサービ スの内容により一層関心を払うようになることが期待される。 さらに、年金の成熟に伴い高齢者に所得水準が向上していく状況からみて、 中間所得層にとって過重な負担になるおそれがある応能負担よりは、サービス の受益に応じた応益負担を基本とすることが適当である。 また、利用者負担を応益負担に統一することによって、現在のように施設や サービスの種別によって負担が異なるという、制度間の不整合の問題が解消さ れることの意義は大きい。 ・ なお、応益負担の場合には、低所得者に対して配慮する必要があることは言 うまでもない。この場合、公平の観点から、減免した利用者負担相当額につい てはいったん市町村が肩代わりし、本人の遺産に対して優先的にその支払を求 めることができることとする、といった仕組みについても検討されるべきであ ろう。また、利用料の徴収については、その確実性、利用者の利便等も考慮し、 年金給付からの徴収等の方法についても検討する必要がある。 (2)社会保険に関する主な論点 ・ 社会保険方式を検討する場合の主な論点としては、1.保険者、2.被保険者・ 受給者、3.費用負担、4.保険給付、5.利用料のあり方があげられる。 これらの論点は、新介護システムにおける重要事項であるので、前途したよ うな基本的な考え方に沿って、総合的な検討を進めていくことが求められる。 ア.保険者 ・ どのような主体を保険者とするかは、新介護システムとしての社会保険の全 体像にも関わる。介護サービスの地域性等を考慮すると、市町村を保険者とす る「地域保険」としての構成が考えられるが、一方、保険財政の安定性等の観 点からは、より規模の大きな主体が保険者となることも考えられる。 ・ 仮に市町村を保険者にした場合には、財政基盤や事務処理体制に問題を有す る小規模な市町村が多くみられること、広域的な保健・医療・福祉の圏域との 整合性といった観点から、広域的な調整や事務体制などの面にも配慮する必要 がある。 ・ また、1.市町村は、住民の身近な地方公共団体として、介護サービスに関す る面を主に担い、2.都道府県は、広域的な見地からの支援と調整を、3.国は、 制度の設計・運営の観点から基本的な枠組みづくり等を行う、というように機 能分担をして保険運営を行う仕組みとすることも考えられる。 ・ こうしたシステムが実現されすと、平成2年の老人福祉法等の改正以来進め られてきた市町村を中心とする老人保健福祉行政の流れに、より明確な財源的 な裏打ちがなされ、その一層の推進が図られることになるものとおもわれる。 イ.被保険者・受給者 ・ 費用の負担と給付の関係が明確な社会保険方式では、誰が保険料を負担する 被保険者や保険給付の受給者となるのか、システム全体の費用負担の姿がどう なるかが重要な問題となるが、これらについても今後の具体的な検討が求めら れる。 介護のリスクが高まる65歳以上の高齢者を被保険者かつ受給者とすることが 基本と考えられるが、現役世代についても、世代間連帯や将来における受給者 になるための資格取得要件として、被保険者として位置付けることも考えてい る。 ・ なお、高齢者以外の障害者については、障害者基本法の趣旨に沿って、障害 の態様に応じた、教育、授産、就労、更生援助、住宅などの総合的な障害者施 策を計画的に推進し、適切に対応していくことが望まれるところであるが、そ の中で介護サービスを取り出して社会保険の対象にすることが適当かどうか、 慎重な検討が必要である。 ウ.費用負担 ・ 社会保険における費用負担については、国民全てが公平に高齢者介護費用を 負担し合うという観点から、次のような点に留意し十分な検討を行う必要があ る。 1. 高齢者自身の生活を支える費用として、年金給付の意義をどのように考 えるべきか。年金給付から、その一部を高齢者の保険料として支払うこと を検討すべきではないか。 2. 現行制度の下で介護に要する費用の一部を負担している医療保険の保険 者、「世代間連帯」を基本に高齢者に年金給付を行っている年金保険者に ついて、どのような役割を期待するか。 3. 公費(国、都道府県、市町村)による負担については、 (ア)現行の高齢者福祉制度や医療保険制度(老人保健制度)においても、 高率の公費負担が組み込まれていること、 (イ)公的主体は各々の立場から国民の介護サービス保障について責任と役 割を有しており、新介護システムは社会連帯を基本とした国民の相互扶 助システムであると同時に、介護サービス保障に対する公的主体の責任 の具現化でもあること、 等を考え合わせれば、保健料等と並んで、公費負担を制度的に組み込むことを 基本に考えるべきである。 エ.保健給付 ・ サービス利用希望者が適切なサービスを受けられるようにするためには、要 介護状態の判定やケアマネジメントが適切に行われる必要がある。この給付プ ロセスについては今後さらに具体的な検討を進める必要がある、この場合、リ ハビリテーションの重要性を考えると、様々なサービスの利用に先立って、あ るいはサービス利用と並行して、リハビリテーションの受療が適切に行われる よう十分配慮する必要がある。 また、要介護状態の判定に際しては、高齢者の心身の状態を客観的に評価 (アセスメント)することが求められるが、このような判定は、利用者の身近 で専門的な観点から行われるとともに、ケアプランの策定にも結びつくような ものであることが望ましい。なお、判定基準については、外国における事例な ど各種の方法があるが、わが国の事情を踏まえ、専門的な観点からそのあり方 を検討していくことが望まれる。 ・ 保健給付は、利用者の利便等からみて、事後的な償還払いによる方式ではな く、サービスそのもが提供され、利用者は利用料のみを支払う仕組みを基本と することが考えられる。しかし、緊急時における利用など一定の場合にサービ ス利用にかかった費用を事後的に償還する途も残すことが適当である。 また、それぞれのサービスに対する保健給付の額は、基本的には高齢者の要 介護度と受けたサービス内容に応じて、段階別に設定することが考えられる。 オ.利用料 ・ 利用者は、サービスを選択して受ける人と受けない人との公平、コスト意識 の喚起、サービスの質の向上、施設入所と在宅の負担の公平等の観点から、受 けたサービスの内容に応じて一定率又は定額の利用料の支払いを行うことが適 当である。その水準等については、次のような点に留意して検討する必要があ る。 (ア)選択されたサービスの提供に必要とされるコスト (イ)施設入所者については、在宅サービス利用者であれば自ら負担している 食費や光熱費など日常的な生活費にあたる部分の位置付け (ウ)在宅サービス利用者については、利用するサービスの種類と利用量、日 常生活費を踏まえた公平な負担 (エ)高齢者自身の生活を支える年金給付の現在および将来の水準 (オ)低所得者に対する適切な配慮