5.社会連帯による支え合い (介護リスクの普遍性) ・ 現在、介護の必要な高齢者は約200万人にのぼっており、これが平成12年( 2000年)には280万人、平成37年(2025年)には520万人に増加することが予測さ れている。また、亡くなる前に4割近くの人が6ヶ月以上床についているとの調 査も報告されている。このように介護の問題は決して特別のことでも、限られた 人の問題でもなく、長寿化に伴って国民誰にでも起こり得るリスクとなってきて いると言える。 しかも、介護が必要な状態となった場合には、その期間や症状はまちまちで、 介護に要する費用の予測も不確実である。なかには介護期間が長期化し、介護費 用も高額にのぼるケースもあるため、各人が自助努力であらかじめ備えることは 一般的には期待できない。 ・ このような普遍的なリスクである介護問題を社会的に解決していくためには、 個人の自立と尊厳を基本にしながら、社会全体で介護リスクを支え合うという 「リスクの共同化」の視点が必要である。 その意味で、本格的な高齢化社会における介護リスクは、社会連帯を基本とし た相互扶助である「社会保険方式」に基礎を置いたシステムによってカバーされ ることが望ましい。このようなシステムを制度化し、その適切な運営を図ってい くことがすなわち公的責任を新たな形で具現化することになるのである。 (社会保険の意義) ・ 社会保険システムにより、高齢者は社会全体によって支えられることとなる。 しかも、その利益を享受するのは、現在の高齢者だけでなく、現役世代も自らの 老親の介護に対する不安が軽減され、安定的な日常生活を営むことが可能となる。 更に、将来高齢期を迎え、介護が必要となった時には直接利益を受けることとな る。 また、企業にとっても、家族介護の必要性から予測し難い時期に従業員が離職 することに伴う損失を防ぐことができるというメリットがある。このように高齢 者介護について社会保険システムを導入することは、国民それぞれにとって、大 きな意義が認められるものである。 (私的保険の役割) ・ 保険システムには、社会保険のほか、個人の自助を基本とした私的保険がある。 私的保険の場合には、年齢に応じた保険料負担の増加といった問題のほか、現在 介護を必要とする高齢者には利用できないという限界がある。 このため、強制加入を基本とする社会保険によって、必要にして適切な水準の 介護サービスを保障することとし、私的保険は、多様なニーズにへの対応として、 社会保険を補完することが期待される。なお、社会保険の導入に伴い要介護認定 等の事務体制が整備されることによって、私的保険においても効率的な事業運営 が可能となり、事業展開のための基盤づくりにつながることが期待できる。