6.介護基盤の整備 (介護基盤の重要性) ・ 高齢者によるサービスの自己決定も、選択し得るだけの量のサービスが確保さ れて始めて可能となる。必要な介護サービスを支える人材や施設の確保は、あら ゆる施策の基盤をなすものである。しかし、現状では、在宅サービス・施設サー ビス双方ともに、サービスの絶対量が不足しているほか、市町村間では大きな格 差があり、さらに、都市部では施設整備の立ち遅れ、過疎地では専門的な人材の 不足等の問題がみられる。 平成2年から「高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略(ゴールドプラン)」に基づき 在宅及び施設における介護基盤の整備が進められているが、市町村における老人 保健福祉計画の策定や新規事業の実施など、その後の動向を踏まえ、なお一層の 基盤整備に取り組むことが強く望まれる。 また、社会保険方式に基礎を置いた新介護システムの実現により、サービス提 供体制の急速な進展が図られ、全ての高齢者にとってサービス利用の公平性が確 保されるようになることが期待される。 (社会資本としての介護基盤) ・ 社会資本とは、私的な動機(利潤の追求や私生活の向上)による投資のみに委 ねているときには、国民経済社会の必要性から見て、その存在量が著しく不足す るが、著しく不均衡になるなどの好ましくない状況に置かれると考えられる性質 を有する資本とされている。道路や港湾、下水道整備、治山治水などといった公 共事業分野は、社会資本整備の観点から、従来から長期計画に基づき総事業量を 明示しつつ、計画的な整備が進められている。 ・ これに対し、老人福祉施設などは社会資本の範疇にはふくまれてはいるが、上 記のような事業分野に比べ、これまでの投資配分は必ずしも十分であったとは言 い難い。介護施設の整備や、介護の重要な基盤である人材確保、住宅対策とまち づくりは、高齢者を含めた全ての人々が地域や家庭の中で共に自立した生活を送 ることができる社会の基本的要素、言わば「福祉インフラストラクチュア」とし て位置づけられるべきものであり、介護基盤の整備が社会全体の介護コストを最 適化するという意味において、国民経済的にも大きな意義を有するものである。 新たな公共投資基本計画においても、生活・福祉分野への投資配分の拡充が提 示されているところであり、本格的な高齢社会に向け、社会資本整備という観点 からも、総合的な介護基盤の整備に積極的に取り組むことが強く望まれる。 (人材の確保) ・ 介護基盤整備の上で最も重要となるのが、介護サービスを担う人材確保の問題 である。若年労働人口の減少が予測される中で、介護サービスの中核を担う看護・ 介護・リハビリテーションなどの人材確保は最重要課題である。 このため、これら専門職員の養成体制の強化を図るとともに、勤務条件の改善 や魅力ある職場づくり、社会的評価の向上を積極的に進めていくことが求められ る。また、民間セクターへの業務委託についても、介護の現場で働く従事者の勤 務条件に対する十分な配慮がのぞまれる。 (資質と能力の向上) ・ 量的な確保だけでなく、良質なサービスを得るため、介護サービスを担う専門 職としての資質と能力の向上に力を入れなければならない。 高齢者のニーズを総合的に把握する能力、適切なサービス提供を裏づけるケア 技術、多様な社会資源の活用を可能とする幅広い知識、そして、介護サービスの 基本であるところの「やさしさ」と「高い倫理観」を兼ね備えた人材の育成に努 めていくことが求められる。特に、ケアマネジメントを支える人材の養成やチー ムによるケアの提供のための実践的な教育・研修を重視する必要がある。 こうした人材の養成・確保については、新介護システムにおいてしっかりとし た財政面のバックアップを行うべきである。 (幅広い参加) ・ 高齢者介護を進めるには、こうした専門職だけでなく、地域住民やボランティ アがお互いの役割を分担し合いながら、積極的に参加していくことが望まれる。 また、高齢社会においては、高齢者自らが様々なボランティア活動等を通じて自 己実現を図りつつ、虚弱な高齢者を心身両面にわたって支援していくことなどが ますます重要となる。 このため、各種ボランティア活動を支援していくとともに、家庭で介護に当た る家族や住民が、男女を問わず積極的に介護方法等に関する研修や交流の機会を 持てるようにすることが重要である。既に多くの主婦等がホームヘルパーの研修 に参加している状況にあるが、こうした機会は一層増やしていくべきである。介 護のレベルアップにつながるとともに、家族の孤立化を防ぐ効果も期待できる。 さらに、家庭介護を経験した人が、その知識と経験を活かし、介護サービスに参 加できるシステムづくりも検討すべきである。 (関連技術の開発と活用) ・ 車椅子や入浴補助具、ベットなどの福祉用具の開発普及は、介護を必要とする 高齢者が自立した生活を送り、社会参加する上でも、また、介護者の身体的・精 神的負担を軽減する上でも有用である。このため、関連分野における技術革新を 活かし、利用者の特性やその置かれた環境等を踏まえた福祉用具の研究開発を進 めるとともに、福祉用具の展示・普及の地域における拠点づくりや適切な流通市 場の整備により、その普及を積極的に図ることが望まれる。 また、介護は、性格上労働集約的な面が強いとされるが、機械化・情報化等に より業務効率を向上させ、介護サービスを効率的に提供する体制を目指すことが 重要である。 (住宅対策とまちづくり) ・ 我が国の住宅は、高齢者が在宅生活を行う上で、段差が多い、トイレが使いに くい、廊下が狭く車椅子では通れないなど、安全性や利便性等について問題が指 摘されている。また、介護を必要とする高齢者の在宅ケアを進める上で、段差等 の障害のないバリアフリーの住宅等の方が介護コストの軽減につながるとの報告 もある。こうしたことから、高齢者が住み慣れた地や家庭で生活を続けていくた めの基盤として、住宅、住環境の整備を進めていく必要がある。 ・ このため、バリアフリーの住宅やヘルプステーション、デイサービス・デイケ アセンター等の生活支援機能が付与されたケアハウスやシルバーハウジングなど の整備を進めることが重要である。このような観点から、既存住宅の改造を推進 するとともに、高齢者に配慮した公的住宅の整備、融資制度や税制を通じた民間 住宅の整備促進等により、高齢者への対応を視野に入れた住宅ストックを形成し ていく必要がある。 ・ また、建築物、交通ターミナル、道路、公共交通機関等における物理的障害の 除去など、高齢者を取り巻く生活環境の改善を進め、高齢者が自立し、スムーズ に社会参加ができるような「まちづくり」を行うべきである。さらに、利便のよ い場所に高齢者関連施設を設置するなど都市計画の観点からの取り組みも望まれ る。一部の地方自治体では、高齢者や障害者が暮らしやすいまちづくりを目指し た条例の制定などが行われているが、今後更にこうした積極的な取り組みが推進 されることが期待される。