5.将来に向けての提言 医師需給については,医師数の量的なバランスの確保のみならず,国民の健康と生 命を預かる質の高い優れた医師をいかに養成・確保するかという観点からの施策等が 必要である。 この試算からみると,将来医師過剰が起こる可能性は高いと考えられるものの,こ の推計に当たっていくつかの前提を設定しているので,今後医療の「あるべき姿」に 基づき施策が実施されるのか,あるいは患者数等は設定した条件のように推移するの かといった点を見極め,需給バランスについて総合的に判断する必要がある。このた め本検討委員会としては,当面,これらの動向を見守り,若干の期間をおいて推計値 を検証して,必要であるとすればその適正化のための対策をたて,できるだけ速やか に実行することが望ましいと提言する。 いずれにしても,以下に述べる施策を速やかに講ずる必要がある。 1卒前の医学教育の充実 質の高い優れた医師を養成するためには,医学部において少子・高齢社会に対応す る教育,へき地・救急を含めた地域医療及び基礎研究等に従事する医師を確保すると いう視点からの教育等に十分配慮するとともに,教員等の増加によって教育スタッフ の充実に努める必要がある。 2卒後臨床研修等の充実・改善 医師免許取得後の臨床研修は医師の質的向上に大きな役割を果たすものであるが, 研修内容,臨床研修医の処遇,研修指導体制等の改善を図るため,今後,臨床研修を 必修化することや医療法に臨床研修施設を位置付けることも含めて,抜本的な見直し を行うべきである。この際,研修に要する費用について保険財源の活用も含め公的助 成の充実を図ることを検討すべきである。 また,医師の生涯にわたる教育システムについて,より一層の充実強化を期待する とともに,臨床研修施設などの参加が望まれる。 3非臨床系の分野における医師充実 医学部や研究機関等における基礎医学の教育,研究に従事する医師や行政等に従事 する医師の確保対策を進める必要がある。 4要介護老人に対する医療及び救急医療における医師の確保 要介護老人の適切な処遇を進めるためには,開業医を始めとする「かかりつけ医」 による往診等,在宅医療サービスの提供体制の整備が必要である。 また,救急医療を担当する医師の養成を推進するとともに,必要な施設・設備を充 実していく必要がある。 5医師の地域等における適正配置 今後の医師数の増加を,各地域における医師の確保や地域格差の是正などに結び付 けていくためには,医療計画の推進を図るとともに,地域の医師の適正な確保を担う 拠点として臨床研修施設を位置付け,その適切な配置と拡充を図る必要がある。 6健康づくり等の推進 必要医師数の推計においては,将来,外来および入院受療率が低下するとしている が,これらは過去からの推移に基づく予測であり,このためには予防対策や健康増進 などの諸施策をより一層充実させる必要がある。 7かかりつけ医の普及定着等の推進 必要医師数の推計においては,医師と患者の信頼関係をより強固なものとするため, 患者1人当たりの診療時間が延長することとしたが,患者1人当たりの診療時間延長 のためには,「かかりつけ医」の普及定着や紹介制度の推進,施設機能の体系化等の 推進が必要である。