4.将来の医師需給バランス 本検討委員会においては,平成4年度厚生科学研究費補助金による「新たな医師需 給の予測に関する研究報告(主任研究者 東京大学教授 開原成允)」(参考資料参 照。以下「開原研究班報告」という。)を参考としつつ,上記の医師養成を取り巻く 諸課題のうち実現すべきと考えられる施策や実現可能と思われる変化を踏まえて,推 計に当たっての条件を設定した。これをもとに平成37(2025)年までの供給医師数及 び必要医師数についてマクロ推計を行うこととした。 1供給医師数推計の前提 ある年次の医師数に新規参入医師数(推計値)を加え,死亡医師数(推計値)を減 じることにより,供給医師数を推計した。推計にあたっては,医学部の入学定員は平 成7年以降 7,520人(10%削減達成),入学定員に対する医師国家試験合格者の比を 0.978とし,また,女性医師の活動性は男性医師と同等とした。 以上に基づき,次の3種の推計を行い総医師数を求めた。 上位推計(S1)においては,上記の方法による推計値をそのまま採用した。 下位推計(S2)においては,上記の方法による推計値から,将来,老後を楽しむ ライフスタイルの普及等により,70歳以上の医師については活動性を0とみなせると し,これを除いた。 中位推計(S3)においては,平成 2(1990)年には上位推計値であって,以後次 第に下位推計に近接し,平成37(2025)年に下位推計値に移行するものとした。 2必要医師数推計の前提 受療率の変化に伴え患者数の推移をもとに臨床に必要な医師数を算定し,それに非 臨床系医師等を加えて推計を行った。 上位(D1)においては,医療の「あるべき姿」に向けて,一定の施策が実現され た状態を設定した。すなわち, ・外来受療率については,平均診療間隔の伸びに応じて低下するとして,外来患者 数を算出した。 ・入院受療率については,65歳未満の者に関しては過去のトレンド等から,65歳以 上の者に関しては長期入院患者の多くが在宅や老人保健施設で処遇されることが可 能となるものとみなし,低下するとして,入院患者数を算出した。 ・医師1人当たり1日患者数は,外来患者については,患者1人当たり診療時間が インフォームド・コンセントの十分な実践等のために平均10分間程度は必要とし, これに伴い医師1人当たり1日外来患者数を42人に設定した。 入院患者については,一般病床と療養型病床群に入院する者に区分し,これらの 施設に勤務する医師数は医療法の標準定員を1割程度上回る数になると見込み,こ れに伴い医師1人当たり1日入院患者数はそれぞれ17人と44人とした。 ・要介護老人数は,平成12(200)年に 140万人,平成37(2025)年に 270万人と 予測されている。老人保健施設等では,要介護老人 100人当たり医師1人が必要と し ,在宅要介護老人に対しては,医療機関で一般の外来患者が受けるサービスと ほぼ 同等の頻度と内容を持ったサービスを提供するのに必要な医師が確保される ものとし,23,000人の医師の配置を見込むこととした。 ・救急医療専従医師を2次医療圏それぞれに新たに15人を配置するとし,平成37( 2025)年に全国で,5,000人の配置を見込むこととした。 ・医学部附属病院の医師につては,診療従事医師から除外した上で,現在の約1割 増の30,000人を見込むこととした。 ・臨床研修医15,000人を研修に専従とすることとして診療従事医師から除外した。 また,臨床研修指導医も診療従事医師から除外し,研修医5人につき1人配置する こととした。 ・医師の資格をもつ基礎医学教員・研究職・行政職は年間 100人増加するとし,ま た,健診医は平成37(2025)年に 2,000人を見込み,平成37(2025)年にこれらの 合計が12,000人になるとみなした。 下位推計(D2)においては,基本的には,これまでの医療の提供状況等が将来続 くものとした。すなわち, ・患者数については上位推計と同様とした。 ・医師1人当たり1日患者数は,病院については医療法の標準定員を満たした場合 の値を用い,診療所については,平成 2(1990)年実績のまま推移するとした。な お,病院と診療所の外来患者数の比率は,平成 2(1990)年の値で推移するものと した。 ・寝たきり老人,痴呆性老人の増加に比例して老人保健施設に常勤する医師が増加 するとした。 ・在宅要介護老人のために必要な医師,救急医療専従医師,臨床研修医等について は,診療従事医師数の中に含まれるものとした。 ・医学部附属病院の医師については,現状程度の患者数は診療するものとした上で, 30,000人を見込むこととした。 ・医師の資格を持つ基礎医学教員・研究職・行政職は,過去のトレンドから年間50 人増加するとした。 さらに,中位推計(D3)においては,平成 2(1990)年には下位推計値であって, 以後次第に上位推計に近接し,平成37(2025)年に上位推計値に移行するものとした。 3試算の結果 中位推計S3,D3の比較では,平成10(1998)年頃から供給医師数が必要医師数を 上回り,平成27(2015)年には約23,000人の医師が過剰となり,平成37(2025)年に は約26,000人の医師が過剰となるとの試算となった。 また,供給医師数の下位推計S2と,必要医師数の上位推計D1の比較では,供給医 師数が必要医師数を上回るのは平成27(2015)年頃からで,平成37(2025)年には約 26,000人の医師が過剰となるとの試算となった。 さらに,供給医師数の中位推計S3と必要医師数の上位推計D1の比較では,供給 医師数が必要医師数を上回るのは平成22(2010)年頃からで,平成27(2015)年には 約10,000人の医師が過剰となるとの試算となった(表1,表2,表3及び図1参照。)。 因みに,開原研究班報告では,平成12(2000)年には約15,000人,平成27(2015) 年には約19,000人の医師が過剰となり,平成37(2025)年の医師過剰は約27,000人と なる。 なお,これらの結果はいずれも平成7年(1995)年には医学部入学定員が10%削減 されたと仮定して得られたものである。