┏━━━━━━━━━┓ ┃平成6年11月2日 ┃ ┃健康政策局医事課 ┃ ┃照会先:牛尾,田中┃ ┃内 線:2538,2542 ┃ ┃直 通:3501-4869 ┃ ┃ 3502-6877 ┃ ┗━━━━━━━━━┛ 医師需給の見直し等に関する検討委員会意見について 1 経 緯 将来の医師過剰への懸念が指摘されるようになったため,厚生省は昭和59年5月に 「将来の医師需給に関する検討委員会」(以下「佐々木委員会」という。)を設置し, 「当面,昭和100(平成37)年を目途として医師の新規参入を最小限10%程度削減す る必要がある」との中間意見を昭和59年11月に,最終意見を昭和61年6月に公表した。 厚生省はこれを受けて,医学部の入学定員の削減を関係各方面に求めてきた。 この最終意見公表以降,医療法改正による諸制度の創設および施行,高齢者保健福 祉推進十か年戦略に基づく介護対策の充実等医師の必要数に影響を及ぼす施策が推進 されており,また医師の供給面をもると人口10万対医師数がまもなく200人を超える ことが予想された。 このような背景を踏まえ,厚生省は,医師需給バランスの将来状況を把握し,今後 取り組むべき課題について検討するため,平成5年8月に本検討委員会を設置した。 2 検討委員会意見の概要(要旨) 1 昭和59年の佐々木委員会中間意見公表後,入学定員数(募集人員を含む。)は7,7 15人(削減率7.7%)となっているが,全体として当初目標の10%に達していない。 2 医師数の現状をみると,平成4年の届出医師数は219,704人(人口10万対176.5人) であり,その96.5%が医療施設の従事者である。 3 すでに医師過剰が問題となっている諸外国では,概ね人口10万対医師数が200人を 超える時点で医学部入学定員の削減等の対策が講じられている。なお,我が国の将 来の医師数は,佐々木委員会最終意見に従い平成7年までに入学定員を10%削減を行 っても,これら諸外国の現状を上回るものと推計される。 4 本検討委員会では,平成37(2025)年までの供給医師数および必要医師数につい てマクロ推計による試算を行った(本文資料参照。5)。 その結果,将来的には医師過剰が起こる可能性は高いと考えられるものの,この 推計に当たっていくつかの前提条件を設置しているので,これらの前提条件の動向 を今後慎重に見極め,若干の期間をおいて再度推計値を検証し必要であればその適 正化のための対策をたて速やかに実行することが望ましい。 5 また,これらの前提条件は将来の医師の量的なバランスの確保のみならず,国民 の健康と生命を預かる質の高い医師を養成・確保することとも関わるものであり, 今後,卒後臨床研修等の充実・改善,非臨床系の分野における医師充実,かかりつ け医の普及・定着等についても速やかに取り組む必要がある。 6 なお,佐々木委員会最終意見で要望し,大学関係者も昭和62年に合意した,医学 部入学定員の10%削減が達成できるよう,公立大学医学部をはじめ大学関係者の最 大限の努力を要望するものである。 平成6年11月2日 医師需給の見直し等に関する検討委員会意見 1.本検討委員会設置までの経緯 (1) 前回の医師需給検討委員会の設置 医師養成については,将来の医師過剰への懸念が指摘されるようになったため,厚 生省は,昭和59年 5月に「将来の医師需給に関する検討委員会」(以下「佐々木委員 会」という。)を設置し,昭和59年11月に中間意見,昭和61年 6月に最終意見を公表 した。その意見は,昭和 100(平成37)年には全医師の1割程度が過剰となるとの将 来推計を踏まえ,「当面,昭和70(平成 7)年を目途として医師の新規参入を最小限 10%程度削減する必要がある。」というものであった。厚生省はこれを受けて,医学 部の入学定員の削減について関係各方面に協力を求めてきた。 (2) 本検討委員会設置の背景・理由 昭和61年の佐々木委員会最終意見公表以降,医療法改正による諸制度の創設及び施 行,高齢者保健福祉推進十か年戦略に基づく介護対策の充実等医師の必要数に影響を 及ぼす施策が推進されてきた。一方,医師の供給面をみると,我が国でもまもなく人 口10万対医師数が 200人を超えることが予想されるが,欧米諸国では人口10万対医師 数が概ね 200人を超える時点で,医師過剰に対する取組等が開始されている。 このような背景を踏まえて,厚生省は今後も増加し続ける医師数に対し,需給バラ ンスの将来状況を把握し,何らかの措置を講じる必要性につき検討するため,平成5 年8月に本検討委員会を設置した。 2.医師養成の動向 (1) 医師養成の経緯 医学部(防衛医科大学校を含む。)の入学定員は,昭和59年の佐々木委員会中間意 見公表後,平成 6年までに,医学部80校のうち39校が入学定員(募集人員を含む。) の削減を行い,定員数は 7,715人(削減率7.7%)となっているが,その削減は全体と して当初目標とした10%に達していない。この内訳をみると,国立大学医学部(防衛 医科大学校を含む。)の削減率は 10.6%,私立大学医学部は5.1%であるが,公立大学 医学部では未だ削減がなされていない。 (2) 医師数の現状 平成 4年の医師・歯科医師・薬剤師調査による届出医師数は 219,704人(人口10万 対 176.5人)である。女性の占める割合は 11.9%で,年々増加傾向にある。 業務の種別にみると,届出医師の 96.5%が医療施設の従事者であり,基礎研究や公 衆衛生など医療施設以外の分野の従事者は 2.8%である。診療所の開設者の平均年齢 は60歳を越えており,また,近年の医師数の増加はほとんど,医学部附属病院や一般 病院などの勤務医として吸収されている。 (3) 諸外国の状況 欧米諸国においても,すでに医師過剰が問題となっている国では,入学定員の削減, 外国人医師の新規参入等の対策が講じられている。なお,わが国の将来の医師数は, 平成7年までに入学定員の10%削減を行ったとしても,これらの諸外国の現状を上回 るものと推計される。 3.医師養成を取り巻く諸課題 (1) 医師養成に影響を及ぼすと考えられる要因とそれに関連する課題 医師養成の在り方の検討に当たっては,人口の高齢化とともに増加する要介護老人 の処遇,入院看者や病床数の動向,外来患者の動向(在宅医療の充実を含む。),医 療法改正による医療施設機能の体系化,救急医療及びへき地医療の確保,卒前の医学 教育及び卒後臨床研修の充実,高齢医師・女性医師の医師としての活動性等に十分配 慮することが必要である。 (2) 医師数と医療費の関係等 国民医療費増加の要因の一つとして医師数の増加が指摘されている。医師数と医療 費,医師所得と医師の質の確保との関係等につき,別途,検討する必要がある。 4.将来の医師需給バランス 本検討委員会においては,平成4年度厚生科学研究費補助金による「新たな医師需 給の予測に関する研究報告(主任研究者 東京大学教授 開原成允)」(参考資料参 照。以下「開原研究班報告」という。)を参考としつつ,上記の医師養成を取り巻く 諸課題のうち実現すべきと考えられる施策や実現可能と思われる変化を踏まえて,推 計に当たっての条件を設定した。これをもとに平成37(2025)年までの供給医師数及 び必要医師数についてマクロ推計を行うこととした。 1供給医師数推計の前提 ある年次の医師数に新規参入医師数(推計値)を加え,死亡医師数(推計値)を減 じることにより,供給医師数を推計した。推計にあたっては,医学部の入学定員は平 成7年以降 7,520人(10%削減達成),入学定員に対する医師国家試験合格者の比を 0.978とし,また,女性医師の活動性は男性医師と同等とした。 以上に基づき,次の3種の推計を行い総医師数を求めた。 上位推計(S1)においては,上記の方法による推計値をそのまま採用した。 下位推計(S2)においては,上記の方法による推計値から,将来,老後を楽しむ ライフスタイルの普及等により,70歳以上の医師については活動性を0とみなせると し,これを除いた。 中位推計(S3)においては,平成 2(1990)年には上位推計値であって,以後次 第に下位推計に近接し,平成37(2025)年に下位推計値に移行するものとした。 2必要医師数推計の前提 受療率の変化に伴え患者数の推移をもとに臨床に必要な医師数を算定し,それに非 臨床系医師等を加えて推計を行った。 上位(D1)においては,医療の「あるべき姿」に向けて,一定の施策が実現され た状態を設定した。すなわち, ・外来受療率については,平均診療間隔の伸びに応じて低下するとして,外来患者 数を算出した。 ・入院受療率については,65歳未満の者に関しては過去のトレンド等から,65歳以 上の者に関しては長期入院患者の多くが在宅や老人保健施設で処遇されることが可 能となるものとみなし,低下するとして,入院患者数を算出した。 ・医師1人当たり1日患者数は,外来患者については,患者1人当たり診療時間が インフォームド・コンセントの十分な実践等のために平均10分間程度は必要とし, これに伴い医師1人当たり1日外来患者数を42人に設定した。 入院患者については,一般病床と療養型病床群に入院する者に区分し,これらの 施設に勤務する医師数は医療法の標準定員を1割程度上回る数になると見込み,こ れに伴い医師1人当たり1日入院患者数はそれぞれ17人と44人とした。 ・要介護老人数は,平成12(200)年に 140万人,平成37(2025)年に 270万人と 予測されている。老人保健施設等では,要介護老人 100人当たり医師1人が必要と し ,在宅要介護老人に対しては,医療機関で一般の外来患者が受けるサービスと ほぼ 同等の頻度と内容を持ったサービスを提供するのに必要な医師が確保される ものとし,23,000人の医師の配置を見込むこととした。 ・救急医療専従医師を2次医療圏それぞれに新たに15人を配置するとし,平成37( 2025)年に全国で,5,000人の配置を見込むこととした。 ・医学部附属病院の医師につては,診療従事医師から除外した上で,現在の約1割 増の30,000人を見込むこととした。 ・臨床研修医15,000人を研修に専従とすることとして診療従事医師から除外した。 また,臨床研修指導医も診療従事医師から除外し,研修医5人につき1人配置する こととした。 ・医師の資格をもつ基礎医学教員・研究職・行政職は年間 100人増加するとし,ま た,健診医は平成37(2025)年に 2,000人を見込み,平成37(2025)年にこれらの 合計が12,000人になるとみなした。 下位推計(D2)においては,基本的には,これまでの医療の提供状況等が将来続 くものとした。すなわち, ・患者数については上位推計と同様とした。 ・医師1人当たり1日患者数は,病院については医療法の標準定員を満たした場合 の値を用い,診療所については,平成 2(1990)年実績のまま推移するとした。な お,病院と診療所の外来患者数の比率は,平成 2(1990)年の値で推移するものと した。 ・寝たきり老人,痴呆性老人の増加に比例して老人保健施設に常勤する医師が増加 するとした。 ・在宅要介護老人のために必要な医師,救急医療専従医師,臨床研修医等について は,診療従事医師数の中に含まれるものとした。 ・医学部附属病院の医師については,現状程度の患者数は診療するものとした上で, 30,000人を見込むこととした。 ・医師の資格を持つ基礎医学教員・研究職・行政職は,過去のトレンドから年間50 人増加するとした。 さらに,中位推計(D3)においては,平成 2(1990)年には下位推計値であって, 以後次第に上位推計に近接し,平成37(2025)年に上位推計値に移行するものとした。 3試算の結果 中位推計S3,D3の比較では,平成10(1998)年頃から供給医師数が必要医師数を 上回り,平成27(2015)年には約23,000人の医師が過剰となり,平成37(2025)年に は約26,000人の医師が過剰となるとの試算となった。 また,供給医師数の下位推計S2と,必要医師数の上位推計D1の比較では,供給医 師数が必要医師数を上回るのは平成27(2015)年頃からで,平成37(2025)年には約 26,000人の医師が過剰となるとの試算となった。 さらに,供給医師数の中位推計S3と必要医師数の上位推計D1の比較では,供給 医師数が必要医師数を上回るのは平成22(2010)年頃からで,平成27(2015)年には 約10,000人の医師が過剰となるとの試算となった(表1,表2,表3及び図1参照。)。 因みに,開原研究班報告では,平成12(2000)年には約15,000人,平成27(2015) 年には約19,000人の医師が過剰となり,平成37(2025)年の医師過剰は約27,000人と なる。 なお,これらの結果はいずれも平成7年(1995)年には医学部入学定員が10%削減 されたと仮定して得られたものである。 5.将来に向けての提言 医師需給については,医師数の量的なバランスの確保のみならず,国民の健康と生 命を預かる質の高い優れた医師をいかに養成・確保するかという観点からの施策等が 必要である。 この試算からみると,将来医師過剰が起こる可能性は高いと考えられるものの,こ の推計に当たっていくつかの前提を設定しているので,今後医療の「あるべき姿」に 基づき施策が実施されるのか,あるいは患者数等は設定した条件のように推移するの かといった点を見極め,需給バランスについて総合的に判断する必要がある。このた め本検討委員会としては,当面,これらの動向を見守り,若干の期間をおいて推計値 を検証して,必要であるとすればその適正化のための対策をたて,できるだけ速やか に実行することが望ましいと提言する。 いずれにしても,以下に述べる施策を速やかに講ずる必要がある。 1卒前の医学教育の充実 質の高い優れた医師を養成するためには,医学部において少子・高齢社会に対応す る教育,へき地・救急を含めた地域医療及び基礎研究等に従事する医師を確保すると いう視点からの教育等に十分配慮するとともに,教員等の増加によって教育スタッフ の充実に努める必要がある。 2卒後臨床研修等の充実・改善 医師免許取得後の臨床研修は医師の質的向上に大きな役割を果たすものであるが, 研修内容,臨床研修医の処遇,研修指導体制等の改善を図るため,今後,臨床研修を 必修化することや医療法に臨床研修施設を位置付けることも含めて,抜本的な見直し を行うべきである。この際,研修に要する費用について保険財源の活用も含め公的助 成の充実を図ることを検討すべきである。 また,医師の生涯にわたる教育システムについて,より一層の充実強化を期待する とともに,臨床研修施設などの参加が望まれる。 3非臨床系の分野における医師充実 医学部や研究機関等における基礎医学の教育,研究に従事する医師や行政等に従事 する医師の確保対策を進める必要がある。 4要介護老人に対する医療及び救急医療における医師の確保 要介護老人の適切な処遇を進めるためには,開業医を始めとする「かかりつけ医」 による往診等,在宅医療サービスの提供体制の整備が必要である。 また,救急医療を担当する医師の養成を推進するとともに,必要な施設・設備を充 実していく必要がある。 5医師の地域等における適正配置 今後の医師数の増加を,各地域における医師の確保や地域格差の是正などに結び付 けていくためには,医療計画の推進を図るとともに,地域の医師の適正な確保を担う 拠点として臨床研修施設を位置付け,その適切な配置と拡充を図る必要がある。 6健康づくり等の推進 必要医師数の推計においては,将来,外来および入院受療率が低下するとしている が,これらは過去からの推移に基づく予測であり,このためには予防対策や健康増進 などの諸施策をより一層充実させる必要がある。 7かかりつけ医の普及定着等の推進 必要医師数の推計においては,医師と患者の信頼関係をより強固なものとするため, 患者1人当たりの診療時間が延長することとしたが,患者1人当たりの診療時間延長 のためには,「かかりつけ医」の普及定着や紹介制度の推進,施設機能の体系化等の 推進が必要である。 6.おわりに 本検討委員会は,将来,医師需給ギャップが生ずる可能性について指摘するととも に,新たに参入する医師数と必要医師数とのバランスについて,真剣な検討が継続さ れることを希望するものである。将来,医師過剰が見込まれる際には,速やかに新た な施策を開始することを期待する。 また,推計の検証等に必要な広範な研究及び統計調査等に鋭意努める必要があるこ とを申し添えておく。 なお,この検証がなされるまでの間に,昭和61年に佐々木委員会が最終意見で要望 し,大学関係者も昭和62年に合意した,医学部の入学定員の10%削減が達成できるよ う,公立大学医学部をはじめ大学関係者の最大限の努力を要望する。 表1 医師数(千人) 必要医師数(上位推計) 患者数(万人) 表2 医師数(千人) 必要医師数(下位推計) 患者数(万人) 表3 必要医師数と供給医師数の推移 図1 必要医師数と供給医師数の推移 参考資料 開原研究班報告による試算 2.必要医師数と供給医師数の推移