5.3 情報流通の整備 流通すべき情報として,灰色文献(Grey Literature)と呼ばれるカテゴリの文献が クローズアップされつつある。灰色文献とは通常の出版・流通の経路で扱われていな く,またそれについての検索手段が整備されていないので,入手が困難な文献を指す。 これにはテクニカルレポート,会議資料,学位論文,大学出版物,官公庁資料などが 含まれる。正規の流通経路にある学術雑誌は研究成果が得られてから出版するまでに 時間がかかり,現場の研究者にとってはテクニカルレポート,会議資料などがより重 要となる。また官公庁資料は民間の企業活動にとって貴重であるがなかなか入手でき ない。灰色文献の収集と蓄積,検索,配布については,従来,英国のBL(British Library),欧州のEAGLE(European Association for Grey Literature Exploitaion),米国のNTIS(National Technical Information Service),わが国 のJICST(日本科学技術情報センター)などがその事業の一貫としてそれに努め ている。灰色文献の二次情報をオンライン情報検索システムやCD−ROMで提供し, ものによってはその一次資料のコピーを郵送あるいはFAXで配布している。しかし ながら,対象とする文献は限られたもので,またその事業の採算性に難点があり,こ のままでの体制では問題の解決にほど遠い。 最近になって,問題の解決を求めた動きが活発になってきた。1993年9月には 米国NASAの主催によるワークショップ「外国灰色文献へのアクセスの改善」が開 催され,また同年12月にはEAGL主催(JICST,NTIS共催)による「第 1回灰色文献国際会議」が開催されている。いずれの会議においても,国際学術情報 ネットワークを介した全文データベース(一次資料)の相互共有,所在情報サービス, 一般利用者への文献本文(一次資料)の提供の必要性が強調されている。つまり,2. 6で述べたWAISやWWWなどの形態が門だの直接的な解決の糸口となるというの である。「第1回灰色文献国際会議」では,INGLA(International Network for Grey Literature Association)の設立を目指して,会議参加者にアンケート調査 を行っている。 あるべき一つの姿として,国際学術情報ネットワークを設置し,灰色文献の生産者 となる組織が加入する。各組織は自身が生産する文献を格納する全文データベースを 維持し,ネットワークからのアクセスに応じる。望むらくは,各国の産官学のすべて がそのような組織として加入する。このネットワークにはもちろん一般の利用者がア クセスでき,文献本文が電子的に入手できる。 この方式を進めるにあたって解決すべき点がいくつかある。 (1)文献データの国際標準化 (2)マルチメディア情報 (3)所在情報,検索手法の開発と整備 (4)著作権使用料 (5)一般利用者からの料金徴収方法 (6)データベース提供者への利益還元方法 (7)ネットワーク運営・財政の管理 特に,わが国としては日本語の問題をかかえているので,欧米に対し積極的に働き すける必要がある。