5.1 情報資源の整備 (1)情報資源の基本的認識 情報は,社会経済活動を支える基本的要素の一つである。近年,コンピュータと情 報通信技術の飛躍的な発展は,従来の数値や文字情報のみならず,音声や画像情報を 含む大量かつ高度な情報処理や情報流通ネットワークを実現した。 このような情報技術の高度化は,「情報」を体系的に収集し,加工し,処理し易い ように整備・蓄積することを容易とし,利用価値の高い“資源”と呼ぶにふさわしい 状態にすることができるようになった。 「情報」資源は,「物質」,「エネルギー」などの天然資源と異なり,研究開発の 進展や技術進歩,社会システムの高度化・多様化などにより,その拡大再生産と新た な蓄積を図ることができることに大きな特徴がある。 (2)わが国における情報資源整備の現状 情報技術の進歩により,現在様々な情報が様々なメディアにより容易に資源化でき る環境にある。このような情報資源は,科学技術分野は勿論のこと,産業・経済,文 化・芸術,教育,観光・レジャー,生活関連分野で形成されつつある。 これら情報資源の充実・整備が人間や社会に及ぼすインパクトは,(a)人間の知 識や研究開発・技術開発に及ぼす影響,(b)社会システムの情報資源への依存性の 増加,などに代表される。 研究・技術開発の成果である科学技術情報資源は,新たな研究開発の糧であると同 時に人類共通の知的財産でもある。一方,医療・福祉,防災,環境,行政,教育など の各種社会システムの有効性は,その投入する予算規模や人材と同様,システムの保 有する情報資源の質と量にも依存すると言われ,今後この比重はますます大きくなる と予想される。 わが国の科学技術分野のデータベース化は,米国より約10年遅れ1970年代後半より 本格化し,現在,科学技術以外の分野のデータベースの整備も急速に進んでいる。わ が国で利用可能な国産データベースは,平成3年度のデータベース台帳総覧によると, 文献データベース152(科学技術分野56,その他の分野96),全文データベース342(科 学技術分野33,その他の分野309),ファクトデータベース345(科学技術分野27,その 他の分野318)となっている。しかし,国内で利用できる海外製を含めた全利用可能デー タベースのうち,国際製は,文献で21%(科学技術分野15%),全文で25%(科学技 術分野12%)にすぎない。ファクトデータベースについては,総数では国産製が多い が,科学技術分野では24%となっている。 全文データベースでは,新聞編集工程での副産物としての各種新聞情報が,ファク トデータベースでは,市況,投資,財務などビジネス系を中心に民間企業でコストリ カバリーベースで整備されつつあるが,採算性の悪い基盤的情報資源としての科学技 術情報の整備はまだまだ不十分と言わざるをえない。 (3)わが国における情報資源整備の課題 個々に存在するだけでは利用価値の低い情報を,利用価値を高め,利用に便ならし めるように体系的に収集,加工,整理・蓄積するためには,長年にわたる多くの知的 労働と資金が必要となる。 オリジナルな情報が,ほぼそのままの形で資源化される数値情報や事実情報,一部 の全文データベースはあるものの,情報そのものを圧縮化したり,利用し易い形態に 加工する場合が多く,オリジナルな情報を資源化するための新たな,ある意味では非 生産的な,作業が必要となる。こうした作業は,人的・知的作業が多く,合理化・機 械化が困難あるいは部分的にしか適用できない。 データベース構築上の問題点として,データベース白書 '93版のアンケート結果に よると,(a)のデータの収集,入力などの構築作業にコストがかかる(87.5%), (b)構築後のメンテナンスコストが負担(61.3%),(c)初期投資が大きく回収 困難(45.0%),(d)構築に関しての国の助成がない(22.5%),(e)DBMS など効率的ソフトの不足(22.5%),(f)標準化の検討が不足(17.5%),(g) インデクサ等のデータ作成者の不足(13.8%)・・などとなつており,データベース 構築面での最大の課題が,初期及び運用コストであることを示している。 わが国における今後の情報資源整備の課題として,(a)研究者や研究機関など情 報発信者への,あるいは防災,環境,医療機関など各種情報収集機関への情報資源化 のための財政的,人的,技術的な支援の強化(b)大学や国公立試験研究機関などが 積極的に研究情報を公開できる環境の整備,(c)情報資源化のための情報表現形式 の標準化の推進,(d)わが国の主体性の確保と国際的役割を果たすために基盤とな る情報を整備する公共的な情報資源化専門機関に対する助成の充実,などが考えられ る。また,技術的な課題として,情報そのもの自己組織化による更に高度な情報の創 出メカニズムの研究なども検討に値しよう。