3.2 判例データベース (1)判例検索は乾草の山の中から1本の針を探すのにも似た大変な作業である。判 例法を主要法源とするアメリカの判例集には,今世紀半ばすでに 225万件が登載され ていた。年々連邦や諸州その他の法域の最高裁以下の諸裁判所からおびただしい数の 判例が流出し,それが今でも加速されて続いている。 大きな訴訟となると,弁護士団が組織されるが,legal research関東のチームが決 まる。それは法の本質を問う抽象的思弁ではなく,具体的な関連判例や法条を捜し出 すことだが,もとは手作業で,しかも期限との闘いだった。チームは3班に分けられ, 3交代で24時間働いた。彼らは判例集,法規集,判例要録,引用手引き書 (citations),目次,索引,文献目録,法律辞典,法律百科,論著と格闘する。商業 出版者は競ってこの労を省く工夫をし,それを出版物の特徴とする。法規集には各条 ごとに立法経過,参照条文,関連判例を豊富に盛った注を加える。判例集には冒頭に 要約をつけて無関係なしかも冗長な判例を読む手間を省き,さらに法律点(point of law) を拾い出してその要旨を頭注として列記する。おかげで,本文や関係部分だけ を読めばよい。West Pub'g Co.は,法律点にそれぞれ番号をつけ同社の他の出版物に もその番号を共通に用いるから,交互参照と芋蔓式発掘を可能にする。これが同社の 誇る Key Number Systemである。引用手引書の中で特に有名なのが Shepard's Citationsである。それはすべての判例について,それを引用したその後の判例を残 らず掲載して,それらが原判例をどう扱ったかを ★ 一部略 ★ 入力の面での競争は,まず判例や制定法の coverage のサイズと内容に見られる。 最近ではことに国際化で争っている。LEXISが,ECはじめ英仏,カナダ,オー ストラリア,ニュー・ジーランド,中国等の資料をある程度収めるや,WESTLA WもEC,中国を少し加えた上,EUROLEXと提携してそれとの相互乗り入れで 対抗した。 LEXISはNEXISを別に開発し,非法律情報たる主要新聞や雑誌の全文デー タベースを加えると(別料金の関連システムとして),WESTLAWはDIALO Gと提携した。 このほか,両者が鍋を削っているものに,特殊ライブラリー,個人ライブラリー, 特殊サービスなどがある。特殊ライブラリーとは,例えば,WESTLAWの専門家 証人(鑑定人)の名簿のようなものである。 なお,詳しくは両システムの比較表参照(高石 47-8,松浦 42-293 参照)。 (3)次に出力の方だが,バッチ方式は敗退してランダム・アクセスのオンライン方 式が普通になった。 出力に関する最大の問題は検索方法である。LEXISもWESTLAWもKWIC (Key Words in Combination)方式を採用する。これはピッツバーグ大学 Health Law Center の John F. Horty教授が医事法規の全文データベースからの検出用に創 案したものである。key words といっても,データにそれを指定して入力するのでは なく,全文の中の前置詞,接続詞,冠詞,人称代名詞などを除いたすべての key words である。検索方法は若干の訓練を要するものの,容易である。もっとも,当初は1つ の語に変化語尾や接尾語のついた形は別語扱いだったから面倒だった。しかし何と言っ ても,まだ見たこともない判例の中の語を正確に当てなければ絶対出て来ないのであ る。そのため思いつく限りの様々の同義語,類語,上位語,下位語,関連語で試みる ことになる。その一助として thesaurusを用いて自動的に各 key word を拡張して検 索して検索することになる。それでも 100%まで完全に検索し尽くせるとは断言でき ないだろう。 LEXISもWESTLAWも法律辞典を内蔵しているから,検索の途中いつでも 必要な箇所をスクリーンに映し出せる。また引用手引書をも具えているから,検出さ れた判例が現在でもそのまま有効かどうかをすぐチェックできる。中でも Shepard's Citations, Inc.はそのデータをコンピュータ化しているから,両システムともそれ と提携して,検索しながらの Shepardizing を可能にしている。