2.4 マルチメディア 我々の日常はマルチメディアの世界である。文字,画像,音響,などさまざまな情 報メディアに囲まれて生活してる。しかしメディアの多様性ということをほとんど意 識していなかった。ところが1980年代に入ってマルチメディアという言葉が新聞や雑 誌広告などにしばしば見られるようになった。これはコンピュータや通信の世界にお いて単に文字や数値だけではなく,静止画のみならず,動画や音響も扱える様になり つつあることを反映して特に強調されて出てきた表現である。 画像や音響データはそれをデジタル化すると膨大なデータ量になる。一枚の写真も 文庫本10冊分ぐらいの量になる。それを数千枚数万枚を扱うとなると大変な量であ る。従来のコンピュータではシステムが大きくなりすぎた。ましてやパーソナルコンピュー タでは不可能であった。ところが大量のデータを蓄積することが出来る媒体,光ディ スクの出現によって事情が一変した。数百メガバイトのデータを蓄積することができ る光磁気ディスクやCD−ROMをコンピュータに接続することによって従来の計算 機のメディアの世界が飛躍的に広がって,我々の日常的なメディアの世界に近づいて きたのである。 また写真や書類をコピーするような感覚でスキャナーから入力することが出来るよ うになった。更に動画を高速にデジタル化するICの開発,画像データを品質を落と さずに圧縮する技術(JPEG,MPEG)の開発,高品質の画像表示装置,などの 出現が大きな役割を演じている。コンピュータのディスプレイ上でビデオや音も出す ことが出来るようになった。異なる媒体の情報をすべてデジタルにしてコンピュータ・ システムだけで多様なメディアを扱うことが出来るのである。また大量のデータも光 ケーブルや衛星通信を介して高速に伝送することが出来るようになって,コンピュー タとネットワークの接続で利用方法が広がった。 画像や音などがコンピュータで扱える様になると,その応用範囲は急激に広がる。 従来の知的生産の技術ではカードに文字を書いて情報を整理し活用する工夫がなされ ており,それのコンピュータ化はかなり進んでいるが,写真や音はまた別の媒体とし て扱わねばならなかった。それが文字も画像も音も同じレベルで扱うことが出来るよ うになって知的生産の技術が一段と向上したことになる。これは人文学の分野にとっ ても有効な方法を提供することにになる。 このマルチメディア・システムがゲームや家庭内の情報機器として利用され出すと 新しい応用が広がるというので話題になっている。 マルチメディアを扱うシステムの問題点はいかにしてデータの間に関係をつけるか ということである。異なる情報媒体をどのような情報によって結び合わせるかという ことが最も重要である。単純なやり方は関係する対象をあらかじめ指定し,それをリ ンクする情報をデータとして持つ方法である。しかしこれは拡張性がない。新規に追 加した場合またリンクをつけ治すというのでは大変である。それぞれが独立していて しかも関係をつける工夫がいる。 それにはそれぞれのメディア情報に対して自然言語による記述データをつけておき, その自然言語を介してリンクをつけるという方法がある。この時問題になることは自 然言語の持つ表現の多様性である。同じような事柄に対しても異なった表現をする場 合がある。そこで類語集(シソーラス)を用意し,単語の表現を変換して一致を取る ことにすれば柔軟なシステムになる。