2.2 情報標準化 二つの流れ 情報に関する標準化には,科学技術会議が総理大臣に答申した「科学技術情報流通 に関する基本政策」に従った情報流通技術の標準化(SIST)と,従来展開されて きた日本工業規格(JIS)での情報処理技術の標準化の二つの流れがある。いずれ にもそれぞれの目的に沿って,情報の流通・処理における技術の整合性を高めること に主眼を於いている。この経緯には,科学技術振興における支援活動として早くから 進められてきた前者と,機器の進展に比して産業化の遅れた情報活動に対する後者の 認識の差が認められる。経緯はともあれ,両者とも国際基準への整合を掲げており, その点で共通の基盤をもっているということができる。強いていえば,後者が工業技 術の延長上で「情報」を眺めているのに対し,前者は科学技術が内包する「情報」に 視点を置いているところに相違がある。また,前者が20年の実績をもっているのに対 し,後者は国際標準化機構への国家対応の公式規格であることに,それぞれの特徴を 有している。制度的には,前者が科学技術庁科学技術振興局の発行文書であるに対し, 後者は工業標準化法にもとづく法律の認知を受けている。それだけに憲法が保証する 表現の自由の限界の内にあることの認識が重要である。内容的には前者が書誌情報お よび情報生産を対象としているのに対し,後者は用語・略語・記号・符号などが法律 にその対象として例示されている。両者の境界については微妙なところがないでもな いが,SISTの一部 JIS化も実現しており,この面の発展のため今後の協力が 期待されている。 SIST 現在までに制定されたSIST(科学技術情報流通技術基準)は13にのぼり,大 別すると,抄録作成・参照文献記述・レコードフォーマット形式など書誌情報に関す るものと,学術雑誌構成・学術論文構成・科学技術レポート様式・予稿集様式などの 情報生産に関するものの2種となる。作業部会が作成する基準案を,学協会・大学・ 研究機関・関係省庁からの研究者・情報専門家からなる諮問機関(科学技術情報流通 技術基準検討会)が審議する手順をとっており,適用者が情報作業を実施する際の高 質化,効率化への寄与を図っている。「基準」のそれぞれの特性や適用者の事情が勘 案されて,適用および記述のレベルにバラツキのあるのは発展期においてやむをえな いのであろう。普及については,ハンドブックの発行や説明会の開催などの実績を積 んでいるが,全般的な利用に一層の努力が必要である。 内容では,電算機利用が大きな主眼になって,多くは機械可読情報を対象としてい るが,電算機の使用を前提においているのだから,印刷形式の基準文献を発行するば かりでなく,基準の電子形式の発行,さらに一歩進んで,適用例のパッケージを作成 提供することによって,適用者の便宜を図るなどの基準開発が課題であろう。 JIS ISO/TC 46(情報ドキュメンテーション)の制定した国際規格の中には,日本国内の 規格として必要とみなされていたものが散見されていた。その内のいくつかが,1988 年,jis として制定された。それが, JIS X 0304-1988 国名コード JIS X 0305-1988 ISBN JIX X 0306-1988 ISSN である。その後,これらの規格に加え,用語規格として JIS X 0701 ,0702,0705, 0706のドキュメンテーション用語が出版された。現在は,電子出版やオフィス・ドキュ メンテーション分野で注目されている。 SGML(Standard Generalized Markup Language)のDTD(Document Type Definition),各種情報検索サービス間のコマンドの差異を乗り越えようとするコモ ン・コマンド言語等の新たなJIS原案の作成作業や,JIS 国名コードの改正原案の 作成作業など,情報の標準化に関して,広範囲な活動が継続されている。 ISO(国際標準化情報)への対応 標準化の国際専門活動として,ISO(国際標準化機構)があり,情報学分野に関 連の深い下部組織として,TC 37(ターミノロジー技術委員会)と TC 46(情報ドキュ メンテーション技術委員会)がある。ISOへの日本の対応は工業技術院が窓口であ り,活動全般に対しては日本工業標準調査会(JISC)が事務局を担当し,国際規 格の原案作成から制定までの各段階で,内容の審議を各国内対策委員会を行っている。 ISO・IEC指針が示すように,ISOの各TC(技術委員会)は TC 37が制定 した用語原則に従うよう示唆されており,TC 37 の活動は全標準化作業の基本になる ものであるが,日本では国際活動への寄与へ踏み出したところであり,また,国内で の標準整備が現在の課題となっている。一方,TC 46 分野では,対応のための国内体 制はほぼ整っており,積極的な提案にいたるまでの活発な活動を目指している。