(1)序 情報学とは,「情報の本質に関する理論や知識を体型化すること,さらにそれらの 応用として思考活動の質と向上を図ること」つまり,「情報とは何か」,「情報をど う使うか」を追求することであるとする。 先ず人間の脳における活動について考える。優れた思考機能を持つ頭脳の表現とし て博識という言葉がある。これは物理的に言えば情報の量が多いということに相当す る。また頭脳明晰であるとか頭の回転が速いということも重要な機能であり,これは 応答の速度が早く,しかもその結果の精度が高いということになる。これらは一応定 量化ができる機能であるが,これだけでは高度な知的活動に対応しているという感じ がしない。発想,創造などというレベルになると本当の意味で価値を生じる機能とい える。 それにはどのような処理が対応しているかというと,情報を収集し,解析し,検索, 数値計算,演繹推論のみならず,帰納推論,類推,仮説推論,連想や評価をすること, さらにその延長上に問題解決,意志決定,創造,評価などがある。 歴史的にみて「思考支援の方式」としてこれまでどのような手段をもっていたのか ということを考えると,簡単なそろばんや計算の手助けになる道具は人間の歴史と同 じくらい長い歴史があり,基本は加算であるけれども,四則演算ができる道具として 各種の形のものがある。そのことを計算機ではスイッチングの機能で行わせる。四則 演算が基本であることは同じであるが,高速大量の処理ができることで,論理演算も 可能となっている。最近コネクションマシン,ニューロ計算機といったようなもので 分類や学習が有る程度できるようになった。 さらに高度な数値や符号の処理だけでは済まなくなる。もしこういうことがてきれ ば機能として人工頭脳ができることになる。ところが意味の理解や処理は,現在まで の理論や技術では極めて限定された範囲を除けば未解決の問題であり,とくに情報の 記述,表現を含め情報の諸性質を把握することが必要とされている。 つまり情報を有効に活用するためには,情報や知識がどういうものであるかを知る 必要がある。それが情報の学問であるから,情報学の目的は情報の特性と理論の体型 化,情報に関する技術,手法の開発及びそれを具体的に各分野の情報,思考活動への 応用することになる。 情報学でまず問題になるのは,情報,知識,データなどの定義である。情報とは最 も広義では「認知とか思考の対象となる実態についての認識内容」であり,普通の意 味で言われる情報は全てこれに入る。次に知識とは一般的には情報と同じに使われる こともあるし,情報処理,特に人工知能の分野では一定の形式化された知識を指すの で,具体的にはプロダクションルールとか1階述語論理で表現されたもの,またはそ の延長上にあるものということになる。ここでは最広義と最狭義との中間になる, 「体型化された情報」という意味で使うことにする。次に情報はいろいろな形で記述 され,表現されるがそれの「最少単位」をデータという。またその「集合」もデータ という。以下はこれらの定義に従うことにする。 情報が持っている特徴と,それらに関連する課題の例を次に示す。情報は数えられ るものとして扱われることが多いが,本来可算数集合ではないということが第一の特 徴であり,識別子の設定や管理上の問題となる。次に計算機では2値論理が処理し易 いが,計算機から見ても論理的に見ても厄介な多値論理が情報の本質である。つまり 多数の同意語のあるのが用語の基本的な特徴である。また表現されたものに多義牲が あつて曖昧性を生ずる。例えば英和辞書を引くと,一つの英語に対して日本語が一つ だけ対応しているという言葉は殆ど無い。通常非常に沢山の種類の訳語が書いてある。 さらに意味の表現の他に表現の意味解釈の問題があり,それは計算機では情報そのも のを扱っているのではなく,媒体上に記述表現されているものを対象としているとい うことから生じている。これを情報の媒体依存性という。 このような情報の特徴と課題についてこれまで多くの研究がなされているが,未解 決の問題も山積みしていて,学問としてはまだ緒についたばかりである。