はじめに 人間は太古より言語,文字を所有し,更に中世に至って紙と活字を発明した。これ らによって,人間は時空の隔たりを越えて,相互に意志や感情を伝達することを可能 にし,原始社会は次第に文明社会へと変貌を遂げてきた。現代に及んで物質とエネル ギー利用の進歩と共に,情報の伝達,保存,変換などの手段は,通信とコンピュータ 技術の出現によって,画期的な発展を遂げつつある。 殊に,現在まさに進行であるパーソコナルコンピューティングと,パソコン相互の 自由な通信は,物質とエネルギー技術を中心に発達してきた産業社会を,次の脱産業 社会へと変化させる原動力であると考えられるにいたった。 コンピュータと通信は,まさに来るべき,情報化社会の基礎をなす技術である。情 報の保存,変換及び伝送を取り扱う通信・情報工学が言わば情報の入れ物を対象とす る学問であるのに対し,中身である情報そのものの性格や構成を究明する情報学の進 歩に対する期待は,今後,複雑化の一途をたどるであろう情報化社会の正しい理解と 方向づけのためにも極めて大きいと言わなければならない。ここに,情報学の確立と 発展が望まれる基本的な意義が存在すると言わなければならない。 本報告書では,未だ十分に確立されるに至っていない情報学の内容と領域を考究し, 少なくとも,現在のところ情報学の中心的な課題と考えられているものの内容を示し, 更に将来の情報化社会において,大きな力を持つようになると考えられる情報技術及 び,それに携わるプロフェッショナルの在りかたなど,新しい社会規範の必要性とそ の中心命題についても論究した。 この報告書が情報学の内容と,その社会とのかかわれについて正しい理解のために 少しでも役立つことを願って,前書きとする次第である。