第10章 被験者の人権保護

1 被験者の人権保護については、GCP第16条、第17条及び第18条で規定されてい るが、GCPは治験が倫理的な配慮のもとに科学的に適正に実施されることを目的 として作成されたものであり、ヘルシンキ宣言の精神が尊重されている。
2 被験者の選定に当たり配慮すべき事項はGCP第16条によること。
(1) 被験者の同意は自発的な意思を前提としている以上、被験者の選択に当 たっては被験者の同意能力が前提となる。すなわち、被験者が治験の意義を理解 し、自分の利害を勘案して判断し、自分の意思を自由に表明する能力を有するこ とが必要である。このため、同意の能力を欠く患者については、当該治験の目的 上、被験者とすることがやむを得ない場合を除き、原則として被験者としない。
(2) 経済的理由又は従属関係によって同意の任意性が損われるおそれのある 者を対象とする場合には、特に慎重な配慮が必要である。
3 例外的に、同意の能力を欠く患者を被験者とする場合は、GCP第17条第2項に よるものとするが、さらに配慮すべき事項は次のようになる。
(1) 精神障害の治療を目的とする医薬品の治験において、精神障害患者を被 験者にせざるを得ない場合。
 可能な限り被験者に説明し、その同意を得るよう努力することが必要である。
 被験者から治験の遂行に必要な安定した同意が得られる場合には、法定代 理人等被験者に代わって同意を成し得る者(代理人)の同意は必要ない。治験の 遂行に必要な安定した同意が得られない場合には、代理人の同意が必要になる。
(2) 意識障害の治療を目的とする医薬品の治験において、意識障害患者を被 験者にせざるを得ない場合。
 意識障害患者は、原則として精神障害患者の場合と同様に取り扱ってよい。 (3) 小児用の医薬品に関する治験において、未成年者を被験者にせざるを得 ない場合。
 代理人の同意を得る。被験者が説明を理解できる能力を有する場合には、 その範囲で被験者の同意をも得るべきである。
4 GCP第17条第2項の「法定代理人等被験者に代わって同意を成し得る者」とし ては、下記により考慮する。
(1) 法定代理人とは、未成年者については親権者又は後見人、禁治産者につ いては後見人がそれにあたる。 (2) 法定代理人以外には誰が同意しうるか。親権者になっていない親、後見 人になっていない配偶者などのほか、事情によっては子については監護者、精神 障害者については保護義務者またはそれに相当する者なども、可能的範囲にふく まれる。すなわち、被験者の最善の利益をはかりうる人であればよく、かつそう でなければならない。すなわち、この場合の同意者は、抽象的な関係により一律 に劃すべきものではなく、むしろ両者の生活の実質や精神的共同関係からみて、 被験者の最善の利益を測りうる者が適当というべきであろう。
(3) その意味では形式的には法定代理人であっても、当然に代理権をもって いるのでなく、上記(2)のような実質をもつ者に限られるべきであろう。
5 同意を得るに際しては、個々の治験毎に作成されたGCP第18条の内容を含む説 明文書に基づき、治験担当医師が被験者に説明するものとする。説明文書は、予 め治験審査委員会の承認を得ておかなければならない(第3章、第4章及び第6章 参照)。
 治験内容の説明に当たっては、被験者の十分な理解が得られるように平易な 言葉によるものとし、被験者の自由意志による同意(十分説明された上での自発 的同意:Informed Consent)を得るものとする。この際、被験者からの質問に対 しては、十分に答えるものとする。また、被験者に説明文書を渡して説明するこ とがより効果的と考えられる場合には、説明文書を手渡して説明することが望ま しい。
 このようにして同意が得られた場合には、その旨を同意に関する記録(同意 書、症例記録等)に記載するものとする。
 なお、上記4の代理人の同意を得るに際しても同様とする。
6 悪性腫瘍等の治療を目的とする医薬品の治験において、被験者に病名を告知 することが医療上非常に悪い影響を及ぼすと考えられる場合には、病名よりはむ しろ症状を説明し同意を得るよう努める。
7 被験者が治験への参加に同意した場合でも、中止の自由があることを十分に 説明する。被験者が治験の中止を申し出た場合は、理由のいかんにかかわらず当 該被験者に対する治療は中止すべきである。また被験者が治験の続行を希望して も治験担当医師が医学的に判断し、中止が妥当であると思う場合には治験を中止 すべきである。何らかの医学的判断又は被験者の申し出により治験を中止した場 合であっても、治験担当医師は引き続き当該被験者に対し最善の治療を行う。
8 被験者の同意は、原則として文書で得るべきである。特に健常人を対象とし た第1相試験では、治療上の利益は得られないので、常に文書による同意を得る ものとする。
9 同意書には、被験者が署名又は記名、捺印する。やむを得ず口頭により同意 を得た場合、治験担当医師が同意書の様式にその旨を記入し、口頭による同意に 関する記録として使用することができる。
10 被験者の同意を得る際に用いる説明文書に必要事項を追加記載し、被験者が 署名又は記名、捺印し同意書とすることは望ましい方法と考える。
11 同意書の書式・記載内容については、各医療機関の実情に合わせ、適切なも のとすべきである。なお、同意書の保存は医療機関において適切に行う。
12 一つの治験に参加した被験者は、その後適切な期間、他の治験に参加させな いよう配慮する。
(参考)薬事法施行規則第67条第5号
    治験の依頼先に対し、治験の内容等を説明することが医療上好まし くないと担当医師が判断する場合等を除き、治験の内容等を被験者(被験者が同 意の能力を欠く場合はこれに代わつて同意をなし得る者)に説明し、その同意を 得るよう要請すること。

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