1 医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)制定の経緯について
医薬品開発は、化学物質の検索からスタートし、物理化学的研究、薬理作用、
毒性研究などを経て、最終的には臨床試験により、その医学的・薬学的評価が行
われる。そして、これらが申請資料としてまとめられ、厚生省に医薬品製造(輸
入)承認申請が行われる。この一連の研究開発過程は、いずれも治験薬の性質を
明らかにする上で欠くことのできないものであるが、なかでも臨床試験は、ヒト
を対象とする研究であることから、倫理的、科学的に高い水準により実施するこ
とが求められている。わが国において、医薬品研究開発が盛んになるにつれて、
このような医薬品研究開発に携わる者全てが拠り所とすることができる臨床試験
のための倫理的・科学的基準の制定が求められることとなったことは、ある程度
自然の動きといえよう。
これを踏まえ、厚生省では昭和58年に「新薬の臨床試験の実施に関する専門家
会議(座長 熊谷 洋 東大名誉教授)」を設置し、わが国でのGCP実施の方策
について検討を開始した。同委員会では、諸外国のGCPやわが国での治験の経験、
医療環境などを考慮し、昭和60年12月、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準
(案)」(いわゆるGCP案)を公表するにいたった。このGCPの案は、被験者の人
権保護、治験契約実施、治験審査委員会の設置、治験担当医師や治験依頼者を初
めとする治験関係者の役割の策定など、多面的で広い範囲の問題を取扱っており、
画期的なものであった。GCPは、わが国では比較的新しい考え方であったことな
どから、案によりGCPの考え方の周知が図られるとともに、わが国に最も相応し
い内容のGCPとするため、この案に対する関係各方面の意見の収集が行われた。
このような働きかけに対し、各方面から積極的な意見が提出されたが、GCP案
の考え方については基本的に受入れられるとする者が多かった。さらに、昭和62
年1月には治験実施について中心的役割を果たしていると考えられる352の研修指
定病院を中心とする医療機関に対し、GCPの理解と実施準備状況についてのアン
ケート調査が行われた。これによれば、72%の施設が治験審査委員会を設置して
いることなどが明らかにされ、案の発表後の受入れ体制の進展が認められた。
このような準備を経て、ようやく我が国においてもGCP実施が可能との判断に
立ち、「新薬の臨床試験の実施に関する専門家会議」においてGCP案に対する意
見を改めて検討し、若干の内容の改訂を行って、平成元年10月2日「医薬品の臨
床試験の実施に関する基準」(GCP)として通知されるにいたったものである。
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