3 塩酸リトドリン製剤による横紋筋融解症

成分名     塩酸リトドリン
該当商品名 ウテゾール注・錠(日本製薬,ダイト)
            ウテメック錠(大正薬品)
            ウテメナール注・錠(三共エール薬品)
            ウテメリン注・錠(キッセイ薬品工業)
            ウテロトップ注(デンカ製薬)
            ウテロナリン錠(長生堂製薬)
            ウテロン注・錠(龍角散)
            ウルペティック錠(日新製薬)
            ピロスデン注・錠(エムエフ)
            フレムーブ注・錠(白井松新薬)
            リトドリン注・錠「科薬」(科薬)
            リトドール注・錠(日清製油)
            リトメリン錠(大原薬品工業)
            リメトラーク注・錠(富士製薬工業)
            リンドルフ注・錠(マルコ製薬)
            ルテオニン注・錠(帝国臓器製薬)
            レキサビン錠(辰巳化学)
薬効分類等  切迫流・早産治療剤
効能効果    注射剤
             緊急に治療を必要とする切迫流・早産
            錠剤
             切迫流・早産

(1)経緯

 塩酸リトドリンはβ2受容体刺激作用により子宮収縮を抑制する切迫流・早産治療剤
である。
 発売開始以来現在までに,塩酸リトドリン製剤投与との因果関係が否定できない横紋
筋融解症が注射剤で6例,錠剤で3例(うち1例は同一症例)報告されたことから「重
大な副作用」に「横紋筋融解症」を新たに追記した。また,このうち,特に注射剤投与
患者の3例及び錠剤投与患者の3例は筋緊張性ジストロフィーの患者であったことから,
「慎重投与」に筋緊張性ジストロフィーの患者を追記し医療関係者に注意喚起すること
とした。

(2)症例の紹介

 塩酸リトドリンで報告された8例の年齢は24〜34歳であった。横紋筋融解症を起こし
た症例では前述のごとく筋緊張性ジストロフィーの患者に多く認められている。転帰に
ついては,転院により転帰不明の1例を除いて,全例が塩酸リトドリン投与中止により
回復あるいは軽快した。報告された症例の一部を表1に紹介する。

(3)安全対策

 塩酸リトドリン製剤の投与に際しては,横紋筋融解症が発現することがあるため,筋
緊張性ジストロフィー等の筋疾患又はその既往歴のある患者には慎重に投与するととも
に,筋肉痛等の自覚症状及びCPK等の変動に注意し,異常が認められた場合には投与を中
止し,適切な処置を行うよう使用上の注意に記載することとした。

表1症例の概要

No.1
患 者(性・年齢)    女  30代	
使用理由〔合併症〕  切迫早産〔筋緊張性ジストロフィー〕	
1日投与量・投与期間  錠剤15mg 4日間 注射剤72mg 3日間
経過及び処置     妊娠27週,切迫早産に対し塩酸リトドリン錠剤を投与開始。錠
                    剤投与4日目に塩酸リトドリン注射剤に変更し投与開始。注射剤
                    投与2日目に大腿筋痛が出現したが歩行障害等ないため経過観察。
                    注射剤投与3日目では症状は不変であったが血中CPKが10451(IU
                    /L)と上昇していたため,横紋筋融解症をきたしていると考え投
                    薬を中止した。投与中止5日目には回復した。
備    考    企業報告

臨床検査値
                         投与開始   投与4日目   投与3日目      投与中止
                          3日前     (錠剤)    (注射剤)       5日目
GOT              (IU/L)    25	        63          268             30
GPT              (IU/L)    22	        34          107             55
LDH              (IU/L)   255	       278          502            341
CPK              (IU/L)   430	      2306        10451            394
血中ミオグロビン(ng/mL)    −	        −          536             −
Na              (mEq/L)   144	       138          137            144
K               (mEq/L)   4.0	       3.2          3.4            3.7
Cl              (mEq/L)   109	       105          108            110
BUN             (mg/dL)     8	         6            3              7
クレアチニン    (mg/dL)  0.44	      0.46         0.43           0.49

併用薬:クエン酸第一鉄ナトリウム(100mg)

No.2
患 者(性・年齢)    	女	20代
使用理由〔合併症〕   切迫早産
1日投与量・投与期間   注射剤144〜239mg 23日間
経過及び処置        妊娠31週,切迫早産に対し塩酸リトドリン注投与開始。投与
                    20日目,CPK6677(IU/L)に上昇。大腿痛,下腿痛,上腕痛出現。
                    心電図上異常所見なく,胸痛等の心筋梗塞症状なし。白血球上昇
                    等の筋炎所見なし。既往歴,家族歴に神経筋疾患なし。甲状腺機
                    能正常。投与23日目,CPK20746(IU/L)に上昇。塩酸リトドリン
                    67μg/minに減量。投与24日目,尿中ミオグロビン25万(ng/mL)
                    であり,本剤,抗生物質の投与中止。その後CPK徐々に低下し,四
                    肢痛も軽快。投与中止22日目CPK1568(IU/L)。
                    投与中止23日目妊娠37週にて分娩。	
備    考    参考文献 1)

併用薬   セフジニル,塩酸セフォゾプラン,硫酸マグネシウム・ブドウ糖,ニフェジピ
       ン,酸化マグネシウム,コンドロイチン硫酸・鉄コロイド

臨床検査値
                投与開始日     投与       投与    投与中止     投与中止
	                     20日目      23日目    15日目       22日目
GOT  (IU/L)       16         207         580       283          −
GPT  (IU/L)        9          79         296       237          −
CPK  (IU/L)       86        6677       20746      9282        1568
Na  (mEq/L)      135         138         137       140          −
K   (mEq/L)      2.4         3.9         4.4       4.0          −
Cl  (mEq/L)      103         103         103       104          −
BUN (mg/dL)       17           7           5         8          −


                               《使用上の注意》
〈塩酸リトドリン〉
慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
  筋緊張性(強直性)ジストロフィー等の筋疾患又はその既往歴のある患者[横紋筋融
  解症があらわれることがある。]
副作用
重大な副作用
  横紋筋融解症:筋肉痛,脱力感,CPK上昇,血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とす
  る横紋筋融解症があらわれることがあるので,このような場合には直ちに投薬を中止
  し,適切な処置を行うこと。

〈参考文献〉
   1) 小柴寿人他:産科と婦人科,64(7):1034‐1039(1997)