2 ワクチン接種による急性血小板減少性紫斑病

成分名     乾燥弱毒生風しんワクチン
            乾燥弱毒生麻しんワクチン
            乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン
            沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン
該当商品名 乾燥弱毒生風しんワクチン
            (化学及血清療法研究所,北里研究所,武田薬品工業,千葉県血清研究所,
             阪大微生物研究所)
            乾燥弱毒生麻しんワクチン
            (北里研究所,武田薬品工業,千葉県血清研究所)
             ビケンCAM(阪大微生物研究所)
            乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン
            (化学及血清療法研究所,北里研究所,武田薬品工業)
            沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン
            (化学及血清療法研究所,北里研究所,武田薬品工業,千葉県血清研究所,
              デンカ生研,阪大微生物研究所)

薬効分類等 生物学的製剤(ワクチン類)
効能効果  (乾燥弱毒生風しんワクチンの場合)風しんの予防
            (乾燥弱毒生麻しんワクチンの場合)麻しんの予防
            (乾燥弱毒生おたふくかぜワクチンの場合)おたふくかぜの予防
            (沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンの場合)百日せき,
              ジフテリア及び破傷風の予防

(1)経緯

 小児期の血小板減少性紫斑病の多くは急性型で,様々な急性感染症に続発することが
知られている。
 今般,乾燥弱毒生風しんワクチン(以下風しんワクチン),乾燥弱毒生麻しんワクチ
ン(以下麻しんワクチン),乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン(以下おたふくかぜワク
チン),沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(以下DPTワクチン)接種後の
急性血小板減少性紫斑病の症例報告がされたことより,「接種上の注意」に急性血小板
減少性紫斑病を記載し,医療関係者への注意を喚起することとした。

(2)症例の紹介

 ワクチン接種後に急性血小板減少性紫斑病を発現した症例が,平成6年以降13例報告
された。
 内訳は風しんワクチン8例,麻しんワクチン3例,おたふくかぜワクチン1例,DPTワ
クチン1例であり,年齢は3ヵ月〜14歳で,性別は男5例,女8例であった。
 患者背景には特記すべき傾向は認められなかった。転帰はいずれも回復または軽快し
た。
 いずれの症例もワクチン接種後数日から3週間程度経過した後に紫斑,鼻出血,口腔
粘膜出血等が出現し,血小板数は5×104/mm3未満であった。
 報告症例のうち,風しんワクチン及び麻しんワクチンの2例を表1に紹介する。

表1‐1症例の概要

No.1
患 者(性・年齢)    男  3
使用理由〔合併症〕  風しんの予防
投与量                0.5mL	
経過及び処置     風しんワクチン接種20日後に39℃の発熱と鼻出血出現,翌日37.
                     8℃に解熱するも鼻出血認めた。この頃より上・下肢に紫斑出現,
                    精査加療目的にて入院(32日間)した。入院時の検査所見は,血
                    小板数が3.4×104/mm3と減少し,白血球分画ではリンパ球が84.
                    5%と増加,風しんウイルスIgM抗体は陽性であった。入院後は,
                    粘膜出血を認めなかったため,不投薬で,経過観察,血小板数も
                    徐々に回復し,第57病日で軽快した。	
備    考    企業報告

臨床検査値
1.末梢血所見
                          第6病日      第8病日	第36病日
                       (接種25日後)	
   白血球数       (/mm3)   7700          5800            3500
   St               (%)    0.5           2.0             3.0             
   Seg              (%)    5.0          14.5	           33.0
   Lymp             (%)   84.5          74.0	           46.5
   Mono             (%)    1.5           7.0	            9.5
   Eos              (%)     −           0.5             4.5
   Baso             (%)    0.5           1.0	            0.5
   赤血球数  (×104/mm3)    472           450             450
   ヘモグロビン量 (g/dL)   13.1          12.6	           12.6
   血小板数  (×104/mm3)    3.4          11.0	           17.4
   アミラーゼ     (IU/L)    233            −              −
   CRP           (mg/dL)   0.3↓        0.3↓	          0.3↓
   血沈       (1時間値)   26mm            −              −
   ヘマトクリット値 (%)   37.9          36.9	           37.5
   GOT            (IU/L)     36            −              −
   GPT            (IU/L)     22            −              −
   最高体温         (℃)   36.3            −            36.8

2.抗体価
                            第6病日
   血中抗体風しんIgM         14.63

(3)安全対策

 ワクチン接種後は急性血小板減少性紫斑病の臨床症状とされる紫斑,鼻出血,口腔粘
膜出血等の発現に注意し,本症が疑われる場合には,血液検査を行うなど観察を十分に
行い,適切な処置を行う必要がある。

                               《接種上の注意》
〈乾燥弱毒生風しんワクチン,乾燥弱毒生麻しんワクチン,乾燥弱毒生おたふくかぜワ
クチン,沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン〉

    副反応
      まれに(100万人接種あたり1人程度*)急性血小板減少性紫斑病があらわれるこ
      とがある。通常,接種後数日から3週ごろに紫斑,鼻出血,口腔粘膜出血等があ
      らわれる。本症が疑われる場合には,血液検査等の観察を十分に行い,適切な処
      置を行うこと。

   *ただしDPTワクチンの発生頻度は1000万人接種あたり1人程度,他はすべて同文


表1‐2症例の概要

No.2
患 者(性・年齢)    男  1
使用理由〔合併症〕  麻しんの予防
投与量                0.5mL	
経過及び処置     麻しんワクチン接種22日後に紫斑が出現,血液検査の結果,血
          小板減少を認め(血小板数1.6×104/mm3)治療のため入院(25
          日間)した。入院時の検査所見は,血小板数4.1×104/mm3,血
          小板抗体,抗核抗体は陰性,ウイルス抗体検査は麻疹で陽性,骨
          髄は正形成で異型細胞を認めないが,巨核球は277/mm3と増加,
          PAIgGは26.4であった。入院後は新しい皮下出血の形成がなく,す
          でに血小板数回復期に入っていると考えられたため,免疫グロブ
          リン製剤は使用せず,プレドニゾロンの内服投与により,紫斑は
          次第に消退し,血小板数も順調に回復した。
備    考    企業報告

臨床検査値
1.末梢値所見
          第6病日  第7病日   第14病日  第21病日  第30病日
        (接種27日後)	
白血球数      (/mm3)	−      8280        11140       12030        8970
Neut             (%)	−      18.1         45.6        46.0        40.3
Lymp             (%)	−      72.8         45.3        45.5        47.3
Mono             (%)	−       3.7          3.9         7.5         6.6
Eos              (%)	−       1.3          1.2          −         0.9
Baso             (%)	−       0.4          0.5         0.5         0.5
LUC              (%)	−       3.7          3.6          −         4.4
赤血球数(×104/mm3)	−       489          450         446         477
ヘモグロビン量 (g/dL)	−      12.7         12.3        11.9        12.5
ヘマトクリット値 (%)	−      38.9         36.5        37.5        39.4
血小板数(×104/mm3)	1.6      4.1         10.4        11.0        14.9
CRP           (mg/dL)	−       0.2          0.1         0.1         0.1
最高体温         (℃)	−      37.2         37.0        37.4        37.4

2.血中抗体
                      第7病日        第14病日        第30病日
抗核抗体                <×20            −              −
抗血小板抗体             (−)            −              −
麻疹(CF)              ×16             −            ×16
    (HI)	        ×32             −            ×32
IgG/IgM               (+)/(+)            −           (+)/(+)
PAIgG                     −           26.4*             −
                                                           * <25.0Ng/106plts
3.髄液検査(第7病日)

NCC           121200/mm3     Megakaryocyte         277↑/mm3
M/E            ratio1.25     Myeloblast                1.5%
正形成の骨髄像