1 エパルレスタットによる肝機能障害

成分名     エパルレスタット
該当商品名 キネダック錠(小野薬品工業)
薬効分類等 アルドース還元酵素阻害剤
効能効果  糖尿病性末梢神経障害に伴う自覚症状(しびれ感,疼痛),振動覚異常,
     心拍変動異常の改善(糖化ヘモグロビンが高値を示す場合)

(1)経緯

 エパルレスタットはアルドース還元酵素を阻害し,グルコースのソルビトールへの変
換,細胞蓄積を抑制することにより糖尿病性神経障害における末梢神経の機能及び組織
障害を改善する薬剤である。
 本剤は治験時より,GOT,GPT上昇等の肝機能異常が認められており,平成4年1月の
承認時から「使用上の注意」の「副作用」の項にその旨記載し,注意を喚起してきた。
 承認以降,因果関係が不明なものも含め,17例の重篤な肝機能障害が報告された。こ
のため,「使用上の注意」の改訂を行い,医療関係者への一層の注意喚起を行うことと
した。

(2)症例紹介

 報告された17例(うち黄疸・黄染5例,急性肝炎2例を含む)の年齢は48〜88歳であ
った。投与開始から副作用発現までの期間は投与開始後3ヵ月以内が12例,4〜9ヵ月
が4例,1例のみ3年9ヵ月であった。
 転帰については投与中止後,軽快・回復までの期間は1ヵ月以内が4例,1〜3ヵ月
が9例,4〜6ヵ月が2例,継続投与中に軽快した症例は1例,未回復1例であり,4
例には肝庇護剤が使用されていた。
 発現した患者の背景には共通要因は認められないが,重篤な肝機能障害2例について
表1に紹介する。

(3)安全対策

 エパルレスタットの肝臓に関する注意事項は「その他の副作用」の項に記載していた
が,今回の報告状況を踏まえ,「重大な副作用」に肝機能障害の項を新たに設け,黄疸,
著しいGOT・GPTの上昇等を伴う肝機能障害があらわれることがあるので,観察を十分に
行う旨を記載し,一層の注意喚起を行うこととした。

                《使用上の注意》
〈エパルレスタット〉
副作用
(1)重大な副作用
 2)肝機能障害:黄疸,著しいGOT・GPTの上昇等を伴う肝機能障害(0.04%)があら
   われることがあるので,観察を十分行い,このような場合は投与を中止し適切な
   処置を行うこと。


表1症例の概要

No.1
患 者(性・年齢)    女 70代
使用理由〔合併症〕  糖尿病性末梢神経障害〔高血圧〕
1日投与量・投与期間  150mg 85日間
経過及び処置     近医にて高血圧の治療を受けていたが自己判断により,血圧降
          下剤の服用は中止していた。
          当院受診,受診時検尿にて尿糖(+++)のため,加療目的で入
          院(空腹時血糖524mg/dL)。
          血糖降下剤とともに本剤の投与開始,血糖はコントロールされて
          きていたが,投与開始79日目に黄疸,肝機能障害発現。
          肝庇護療法を施行するとともに本剤及びその他の薬剤を中止する
          ことにより回復した。
備    考    企業報告

臨床検査値
                 投与開始 投与開始 投与中止 投与中止 投与中止 投与中止 投与中止
                  15日前   79日目   3日目   16日目   35日目   63日目   84日目
GOT     (IU/L)       30     1084     365       72       18       21       18
GPT     (IU/L)       36     1704     716      132       23       22       17
LDH     (IU/L)      409      772     449      282      280      302      290
ALP     (IU/L)      142       −     198      121      134      149      130
γ‐GTP (IU/L)       18       −     157       90       40       19       16
直接ビリルビン(mg/dL) 0.2      4.5    11.4      2.9      1.2      0.6      0.2
間接ビリルビン(mg/dL) 1.2      3.1     9.3      3.4      1.7      1.0      0.7

併用薬       シラザプリル,グリベンクラミド,メコバラミン,複合ビタミン剤

No.2
患 者(性・年齢)    女 60代
使用理由〔合併症〕  糖尿病性末梢神経障害
1日投与量・投与期間  150mg 103日間
経過及び処置     数年前より糖尿病の診断にて外来治療中,手のしびれ感,足の
          ほてり感等の症状出現。
          糖尿病性末梢神経障害の診断にて本剤投与開始。
          その後,上記症状は改善するも全身倦怠感が出現し,また,血糖
          コントロール不良。
          投与開始74日目,検査の際,GOT61(IU/L),GPT85(IU/L)と上
          昇に気づくも本剤の投与は継続する。
          投与開始98日目,GOT,GPT,γ‐GTP,LDHが著しい上昇を示し,
          その後本剤及びグリベンクラミドの投与を中止。
          (HBs抗原(−),HCV抗体(−),IgM‐HA抗体(−),腹部エコ
          ー(異常なし))
          以後,入院にて安静と点滴治療により検査値は改善に向かった。
備    考    企業報告

臨床検査値
        投与開始 投与開始 投与開始  投与中止日  投与中止 投与中止 投与中止
             74日目   98日目  102日目 投与開始103日目 8日目  29日目   50日目
GOT    (IU/L)  61     698     677         595	       303      96       27
GPT    (IU/L)  85    1076    1106         956	       598     170       30
γ‐GTP(IU/L)  16     122     170         157	       138     107       66
LDH    (IU/L) 404     928     880         826	       480     353      357
T‐Bil(mg/dL)0.90      −    2.57        2.49	      1.42    1.10     1.13

併用薬   グリベンクラミド,カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム,カリジノゲナーゼ