1.高カロリー輸液療法施行時の重篤なアシドーシス +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ | 成分名            | 該当商品名             | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |高カロリー輸液用基本液・ア   |アミノトリパ1号、同2号       | |           ミノ酸液 |          (大塚製薬工場) | |                |ピーエヌツイン1号、同2号、同3号  | |                |           (ルセル森下) | |                |ユニカリックL、同N(テルモ)    | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |高カロリー輸液用基本液     |アリメール1号、同2号、同3号    | |                |           (ルセル森下) | |                |エネベース(光製薬)         | |                |カロナリーL、同M、同H       | |                |          (扶桑薬品工業) | |                |カロネットL、同H(日研化学)    | |                |グルコパレン1号、同2号、同3号   | |                |          (大塚製薬工場) | |                |トリパレン1号、同2号(大塚製薬工場)| |                |ハイカリック液‐1号、同2号、同3号 | |                |           (テルモ)   | |                |ハイカリックNC‐L、同N、同H   | |                |           (テルモ)   | |                |リハビックスK1号、同K2号、同K3 | |                |       号、同K4号(清水製薬)| |                | ワスタN(日本製薬)        | +−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |薬効分類等|滋養強壮薬                         | +−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |効能効果 |(アミノトリパの場合)                   | |     |経口・経腸管栄養補給が不能又は不十分で、経中心静脈栄養に頼ら| |     |ざるを得ない場合の水分、電解質、カロリー、アミノ酸補給   | +−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ (1)発現の状況  高カロリー輸液療法は生命維持に必要な成分を経中心静脈的に投与するもので、臨 床的に経口摂取が不能又は不十分な場合に応用されている。投与される成分は水分、 各種電解質、エネルギー源(糖質、脂質等)、蛋白質源(各種アミノ酸)、各種ビタ ミン、その他必須成分(必須脂肪酸源)、亜鉛をはじめとする微量元素類である。  ビタミンは生体機能の維持にとって必須の成分であるが、その中でも特にビタミン B1はエネルギー産生に中心的な役割を果たしている。その欠乏による乳酸の蓄積か ら引き起こされる代謝性アシドーシスは炭酸水素ナトリウム注射液等のアルカリ化剤 の投与では回復せず、ビタミンB1の急速静脈内投与による処置を行わなければ短期 間で死に至ることがある。  高カロリー輸液療法施行中に発現する重篤なアシドーシスについては、平成3年1 0月に緊急安全性情報、平成7年4月には適正使用情報を配布し高カロリー輸液療法 時の適正な使用を促すとともに、医薬品副作用情報No.111(平成3年11月号 )、No.123(平成5年11月号)、No.128(平成6年10月号)におい て症例の紹介あるいは解説を行い注意を喚起してきた。しかし、その後重篤なアシド ーシスの発現について因果関係の不明な症例も含め15例(死亡7例)の報告が寄せ られている。報告された症例について原疾患、合併症などをみてみると以下のとおり である。 a.原疾患・合併症  高カロリー輸液療法の適応患者は経口、経腸管栄養補給が不能又は不十分で、経中 心静脈栄養に頼らざるを得ない状態であり、全身状態は一般的に不良である場合が多 い。報告された症例の原疾患を表1に示す。  そのうち、ビタミンB1を投与していたにもかかわらず重篤なアシドーシスを発現 した6例をみると、高齢者であったり、合併症として感染症、腎不全等の腎障害、重 篤なアシドーシスを発現しやすい病態の患者である。 b.臨床症状  アシドーシス発現時の臨床症状は、報告の15例中7例に大呼吸、努力性呼吸等の呼 吸異常、7例に意識障害を認め、他に舌のもつれ、尿量低下等がみられている。 c.発現までの投与期間  アシドーシス発現までの高カロリー輸液施行期間は、1日から74日にわたってお り、15例中8例(53.3%)が3週間以内であった(表2)。 d.その他  報告された15例のうち、高カロリー輸液療法施行中にビタミンB1が未投与の症 例は9例(60.0%)であり、そのうち5例(55.6%)では重篤なアシドーシ ス発現後高カロリー輸液の中断、ビタミンB1投与等の適切な処置を行い回復をみて いる。  これらの症例の一部を紹介する(表3)。 (2)安全対策 a.高カロリー輸液療法施行中は必ずビタミンB1の投与をすること  ビタミンB1を併用せずに高カロリー輸液療法を施行すると、ビタミンB1の欠乏 による重篤なアシドーシスが発現することがある。したがって、高カロリー輸液療法 施行中は必要量(1日3mg以上を目安)のビタミンB1を投与する必要がある。 b.重篤なアシドーシスが起こった場合には直ちにビタミンB1欠乏を考慮すること  ビタミンB1欠乏によるアシドーシスはビタミンB1の大量投与以外の処置には反 応しないため、ビタミンB1欠乏によると思われるアシドーシスが発現した場合には、 直ちにビタミンB1を大量に急速静脈内投与(100〜400mg)する必要がある。 c.基礎疾患、合併症などの病態の悪化による重篤なアシドーシス発現にも注意を  ビタミンB1を投与していても基礎疾患、合併症などの病態の悪化により重篤なア シドーシスが発現することがある。基礎疾患、合併症によるアシドーシスが発現した 場合は直ちに高カロリー輸液療法を中断し、通常のアシドーシスの処置(アルカリ化 剤の投与等)を行う必要がある。(表3−2症例3) <<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>> <アミノトリパ、ピーエヌツイン、ユニカリック、アリメール、エネベース、カロナ リー、カロネット、グルコパレン、トリパレン、ハイカリック液、ハイカリックNC、 リハビックス、ワスタN> +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |                 警告                 | |ビタミンB1を併用せずに高カロリー輸液療法を施行すると重篤なアシドーシス| |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜| |が発現することがあるので、必ずビタミンB1を併用すること。       | |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜       | |ビタミンB1欠乏症と思われる重篤なアシドーシスが発現した場合には、直ちに| |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜| |100〜400mgのビタミンB1製剤を急速静脈内投与すること。     | |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜     | |また、高カロリー輸液療法を施行中の患者では、基礎疾患及び合併症に起因する| |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜| |アシドーシスが発現することがあるので、症状があらわれた場合には高カロリー| |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜| |輸液療法を中断し、アルカリ化剤の投与等の処置を行うこと。        | |〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 一般的注意 (1)高カロリー輸液療法施行中にビタミンB1欠乏による重篤なアシドーシスが起   こることがあるので、必要量(1日3mg以上を目安)のビタミンB1を投与す             〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   ること。   〜〜〜〜 表1 原疾患―覧 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   原疾患                  症例数 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  悪性腫瘍〔胃癌(2)、卵巣癌再発、中      5    部胆管癌、癌性腹膜炎〕  脳梗塞                     5  神経性食思不振症                1  肝硬変                     1  癒着性イレウス                 1  くも膜下出血術後                1  精神分裂病                   1 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 表2 アシドーシス発現までの高カロリー輸液療法 施行の期間 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−      期 間              症例数 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−     1〜 7日間              2     8〜14日間              5    15〜21日間              1    22〜28日間              3    29日間以上               4 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 表3−1 症例の概要 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.1                            企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性         女                      | |   年齢        24                     | |   使用理由[合併症]  摂食不良による低栄養             | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |投与期間:10日間                           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                          | |摂食不良、自己誘発嘔吐、体重減少が改善しないため、入院当初より経中心静脈| |高カロリー輸液を開始。摂食は40%前後であったが、自己誘発嘔吐の可能性あ| |り(嘔吐は自己否定)。その後摂食無くなり5〜6回/日の嘔吐を自己申告。何| |らかの変化を生じたと考え、動脈血ガスを測定。pH:7.373、BE:  | |−3.3であり、このときは経過観察とした。その後症状増悪し、投与10日目| |、BP:60となったため再度動脈血ガスを測定。pH:7.033、Po2: | |19.1、BE:−24.6と著明な代謝性アシドーシスを認めた。第一にチア| |ミン欠乏による代謝性乳酸アシドーシスの可能性を考え、輪液を10%ブドウ糖| |液1500mL、10%NaCl液60mL、複合ビタミンB剤10mL(チア| |ミン50mg含有)、7%炭酸水素ナトリウム液250mLを投与。5時間後改| |善し救命し得た。                            | |                                    | |臨床検査値                               | |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| |        投与3日前  投与5日目  投与10日目  投与中止23日後| |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| |血圧(mmHg)   90/50    90/60    60/36    100/75   | |白血球(/mm3)  4580     4870     12500     4700   | |総蛋白(g/dL)  6.0      6.3     6.8      6.1    | |血糖(mg/dL)    91      109     174      102    | |Na(mEq/L)    137      136     116.8     138    | |K(mEq/L)     3.4      4.0     4.89      4.2    | |Cl(mEq/L)     96       97      −      104    | |GOT(IU/L)     79       74      18      41    | |GPT(IU/L)     105      111      46      67    | |BUN(mg/dL)    13       13      33.2     10    | |Cr(mg/dL)     0.3      0.4      1.4     0.4    | |尿量(mL/日)   800      900      2900     1500   | |Pco2(mmHg)    −       −      19.1      −    | |Po2(mmHg)     −       −      110.7     −    | |pH         −       −      7.033     −    | |BE(mEq/L)     −       −     −24.6     −    | |乳酸(mg/dL)    −       −      −      3.9    | |ピルビン酸(mg/dL) −       −      −      0.8    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:乳酸リンゲル液、維持液、スルピリド、オキサゾラム、ブロチゾラム | |ビタミンB1の投与:なし                        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 表3−2 症例の概要 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.2                            企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性         女                      | |   年齢        66                     | |   使用理由[合併症]  栄養補給                   | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |投与期間:74日間                           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                          | |癒着性イレウスのため食事は3分粥を半量摂取して、再発を繰り返していた。そ| |のため高カロリー輪液のみ投与し、総合ビタミン剤を投与しなかった。投与73| |日目より舌のもつれ、意識混濁が出現して、74日目に呼吸困難、アシドーシス| |を認め、ICUへ転室。呼吸器管理、ビタミンB1を投与。4日間、持続血液濾| |過透析、エンドトキシン吸着を施行、症状は軽快し、意識レベルも改善した。 | |                                    | |臨床検査値                               | |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| |        投与48日前  投与69日目  投与73日目  投与中止11日目| |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| |白血球(/mm3)  5000     3900     12000     3700   | |血糖(mg/dL)    89      146      251      −   | |Na(mEq/L)    144.4     138.5     129.0     147.3   | |K(mEq/L)     4.2      4.5      6.2      3.9   | |Cl(mEq/L)    107.2     101.1     106.4     112.6   | |GOT(IU/L)     52      14       11      34   | |GPT(IU/L)     46      10       8      24   | |BUN(mg/dL)    19.6     17.1      52.2     37.9   | |Cr(mg/dL)     0.8      0.5      0.7      0.9   | |Pco2(mmHg)    −      −      20.3     −    | |Po2(mmHg)     −      −      122.7     −    | |pH          −      −      6.83     −    | |BE(mEq/L)     −      −      29.5     −    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:なし                              | |ビタミンB1の投与:なし                        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.3                            企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性         女                      | |   年齢        84                     | |   使用理由[合併症]  栄養補給[貧血]               | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |投与期間:24日間                           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                          | |脳梗塞患者で、高カロリー輸液施行中褥瘡悪化し、蜂窩織炎に至る。血圧102| |/30とやや低下し、努力呼吸を認める。血液ガス分析にてpH:6.96、 | |Pco2:13.3、Po2:144.7、BE:−28.3と代謝性アシドーシ| |ス、低CO2血症を認める。高カロリー輸液療法を中止し、5%ブドウ糖液、コ | |カルボキシラーゼ、ウリナスタチン、FAD、炭酸水素ナトリウムの輸液に切り| |替える。処置2日後pH:7.398、Pco2:27.8、Po2:82.4 | |、BE:−5.9となり、血圧も回復した。                | |                                    | |臨床検査値                               | |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| |         投与6日前 投与11日目 投与中止1日後 投与中止4日後| |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−| |総蛋白(g/dL)    −     7.1      −       −   | |白血球(/mm3)   9000    10700     23800      22500  | |血糖(mg/dL)     −     290      −       −   | |Na(mEq/L)     136     136      120       131   | |K(mEq/L)      4.7     4.6      3.5       4.4   | |Cl(mEq/L)     105     113      102       98   | |GOT(IU/L)      15      16      23       44   | |GPT(IU/L)      18      14      29       16   | |BUN(mg/dL)     53      45      75       59   | |Cr(mg/dL)     1.4     1.7      1.8       2.0   | |尿量(mL/日)     −      −      300       −   | |Pco2(mmHg)     −      −     16.6      27.8   | |Po2(mmHg)      −      −     130.2      87.3   | |pH          −      −     7.18      7.49   | |BE(mEq/L)      −      −    −20.1      −0.5   | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:総合ビタミン剤、微量元素配合剤、塩酸セフォチアム、       | |    メロペネム三水和物                       | |ビタミンB1の投与:あり                        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+