1.イトラコナゾールとシンバスタチンの相互作用 +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ | 成分名 | 該当商品名             | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |イトラコナゾール        |イトリゾールカプセル(ヤンセン協和) | +−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |薬効分類|経口抗真菌剤                         | +−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |効能効果|皮膚糸状菌(トリコフィトン属、ミクロスポルム属、エピデルモフィ| |    |トン属)、カンジダ属、マラセチア属、アスペルギルス属、クリプト| |    |コックス属、スポロトリックス属、ホンセカエア属による下記感染症| |    |1.内臓真菌症(深在性真菌症)                | |    | 真菌血症、呼吸器真菌症、消化器真菌症、尿路真菌症、真菌髄膜炎| |    |2.深在性皮膚真菌症                     | |    | スポロトリコーシス、クロモミコーシス            | |    |3.表在性皮膚真菌症                     | |    | 白   癬:体部白癬、股部白癬、手白癬、足白癬、頭部白癬、ケ| |    |       ルスス禿瘡、白癬性毛瘡             | |    | カンジダ症:口腔カンジダ症、皮膚カンジダ症、カンジダ性毛瘡、| |    |       慢性皮膚粘膜カンジダ症、癜風、マラセチア毛包炎 | +−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ | 成分名            | 該当商品名             | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |シンバスタチン         |リポバス(萬有製薬)         | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |薬効分類|HMG−CoA還元酵素阻害剤                 | +−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |効能効果|高脂血症、家族性高コレステロール血症             | +−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  イトラコナゾールは平成5年に承認された、内臓真菌症、深在性皮膚真菌症、表在 性皮膚真菌症を効能とする経口抗真菌剤である。本剤は肝チトクロームP−450  3Aを阻害することが知られており、肝チトクロームP−450 3Aで代謝を受け るいくつかの薬剤は、本剤との併用により血中濃度が上昇することが知られている。 本剤の肝チトクロームP−450 3Aの阻害による臨床的に重要な相互作用に関し ては、既に「禁忌」「慎重投与」への併記を含めて、「相互作用」の項に記載されて いる。  今般、HMG−CoA還元酵素阻害剤シンバスタチンを使用中の患者に対して、イ トラコナゾールを追加併用したところ、相互作用によると推定される副作用あるいは シンバスタチンの血中濃度の上昇がみられたとの報告に基づき、使用上の注意を改訂 したので当該文献の概要を紹介する。 (1)文献の紹介  シンバスタチンの代謝酵素の肝チトクロームP−450の分子種は特定されていな いが、類似の構造を持つHMG−CoA還元酵素阻害剤ロバスタチン(国内未発売) の代謝酵素が肝チトクロームP−450 3A4であり、イトラコナゾールとロバス タチンの相互作用の臨床薬理試験において、ロバスタチンの最高血漿中濃度及びAU Cがプラセボ投与時に比べて約20倍上昇することが報告されている(文献1)こと から、イトラコナゾールの肝チトクロームP−450 3Aの阻害によりシンバスタ チンの代謝を阻害することが考えられる。  Horn(文献2)は、高脂血症治療のためシンバスタチンを服用中の足爪白癬患者に、 イトラコナゾール200mgを追加併用した患者で、相互作用によると推定される横 紋筋融解症を報告している(表1症例1)。  Segaert ら(文献3)は、シクロスポリンAとシンバスタチンで3年間特に副作用 もなく経過していた腎移植の患者に、イトラコナゾールを追加併用したところ横紋筋 融解症を発現したことを報告した(表1症例2)。更にイトラコナゾールとシンバス タチンの相互作用を検証するために、高コレステロール血症でシンバスタチン40m g/日を長期服用している志願者にイトラコナゾール200mg/日を投与した。そ の結果、イトラコナゾール投与前のシンバスタチン、シンバスタチンアシド体のトラ フ濃度は、それぞれ0.5ng/mL、2.1ng/mLであったものが、イトラコ ナゾール投与後には6.5ng/mL、5.1ng/mLに上昇しており、イトラコ ナゾールはシンバスタチンの代謝を阻害していると報告している。 (2)安全対策  イトラコナゾールは、これまでテルフェナジン、アステミゾール、トリアゾラムを 併用禁忌にするなど、肝チトクロームP−450 3Aの代謝阻害による臨床的に重 要な相互作用を、「禁忌」「慎重投与」「相互作用」の項に記載し、注意を喚起して きた。今回、海外において、我が国におけるシンバスタチンの用量(1日5〜10m g)よりも大量投与(1日40mg)ではあるが、HMG−CoA還元酵素阻害剤シ ンバスタチンの投与患者にイトラコナゾールの常用量を併用したことによる相互作用 の発現の可能性が示唆されたため、「相互作用」の項にシンバスタチンを追記し、本 剤の適正使用を促すための情報提供を行うよう指示した。 (3)報告のお願い  イトラコナゾールが肝チトクロームP−450 3Aを阻害することは既に知られ ているが、相互作用によりシンバスタチンの副作用が発現しやすくなることが考えら れる。安全性確保の観点から、両剤の併用時に横紋筋融解症等の副作用の発生に注意 するとともに、相互作用を示唆する症例を経験した場合には、副作用症例報告をお願 いしたい。 <<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>> <イトラコナゾール> 相互作用 2)併用に注意すること (3)シンバスタチン[併用例でシンバスタチンの血中濃度が上昇し、横紋筋融解症    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   が発現したとの報告がある。]   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <シンバスタチン> 相互作用  フィブラート系薬剤(ベザフィブラート等)、免疫抑制剤(シクロスポリン等)、  ニコチン酸、イトラコナゾール[筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中及び尿中ミオ        〜〜〜〜〜〜〜〜  グロビン上昇を特徴とし、急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい  。] <参考文献> 1)Neuvonen, P., et al.: Clinical Pharmacology and Therapeutics, 60:   54-61(1996) 2)Horn, M.: Archives of Dermatology, 132:1254(1996) 3)Segaert, M., et al.: Nephrology Dialysis Transplantation, 11:1846-1847   (1996) 表1 症例の概要(文献報告) +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.1                           参考文献2| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性         男                      | |   年齢 74                     | |   使用理由[合併症]  足爪白癬[高血圧、高脂血症(II−a型)]  | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:200mg、3週間                | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                          | |患者は、高血圧、高脂血症の治療のためリシノプリル、アスピリン、シンバスタ| |チン40mgを毎日服用し、健康状態は非常に良好であり、腎機能も正常であっ| |た。イトラコナゾール投与を開始して3週間後、下肢の疼痛が発現し、疼痛は上| |肢、頚部に広がったため薬剤の服用を中止した。疼痛は改善したが、褐色尿が発| |現し、筋肉痛を訴え、血圧は195/95mmHgに上昇していた。     | |CK、アルドラーゼ、LDH、GOT、GPTが異常値を示し、ミオグロビン値| |は222ng/mLであり、横紋筋融解症と診断された。          | |多量の水分摂取をすることと、過激な運動を控えることを指示し、降圧剤を塩酸| |ジルチアゼムに変更し、36時間後に異常値は低下した。          | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:シンバスタチン、リシノプリル、アスピリン            | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.2                           参考文献3| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性         男                      | |   年齢        70                     | |   使用理由[合併症]  鼻のアルテルナリア属真菌感染         | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量:200mg、2週間                     | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                          | |腎移植後、3年間、シクロスポリンAを中心とした免疫抑制療法等及びシンバス| |タチン40mg/日が投与されていた。筋肉に関する訴えはなく、CKも正常で| |あった。                                | |イトラコナゾールを投与後、シクロスポリンの投与量を減量した。      | |イトラコナゾール投与開始2週間後、倦怠感と全身の進行性筋力低下が生じ、起| |立困難、歩行不能で入院した。入院時の検査結果は、クレアチニン2.19mg| |/dL、尿素178mg/dL、カリウム6.6mEq/L、HCO 324mE| |q/L、CK 554IU/mL等であった。イトラコナゾール、シンバスタチ| |ン、エナラプリル・ヒドロクロロチアジドの投与を中止した。        | |中止2週間後には歩行可能となり、最終的に完全に回復した。        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:シンバスタチン、シクロスポリンA、塩酸クロニジン、エナラプリル・| |    ヒドロクロロチアジド、グリキドン、ジギトキシン、アロプリノール | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+