3.テルフェナジンによるQT延長,心室性不整脈 +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |成分名             |該当商品名              | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |テルフェナジン         |トリルダン(日本ヘキスト・マリオン・ | |                |               ルセル)| +−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |薬効分類等|アレルギー性疾患治療剤                   | +−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |効能効果 |気管支喘息,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患に伴うそう痒(| |     |湿疹・皮膚炎・皮膚そう痒症)                | +−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ (1)テルフェナジンと心臓血管系症状  テルフェナジンは平成2年1月に承認された抗ヒスタミン作用を有するアレルギー 性疾患治療剤である。テルフェナジンの投与によるQT延長,心室性不整脈等の心臓 血管系症状の発現については,平成6年12月までに7例が報告され,平成7年1月 に「警告」欄の新設を含む使用上の注意の改訂を実施してテルフェナジン投与による QT延長,心室性不整脈発現のリスクファクターを明確に記載し,本剤に対する適正 使用の注意喚起を図ってきた。  しかしながら,その後も,同様なQT延長,心室性不整脈が平成9年1月末までに 新たに10例報告された。  今回,これまでに報告された17例の症例を分析し,QT延長,心室性不整脈の起こ り得る要因の再検討を行い,外国の添付文書との整合性も考慮して,使用上の注意に 追記するとともに緊急安全性情報の配布を行い注意喚起を行ったところである。今回 新たに加えた要因を含め,報告された症例のリスクファクター別分析を表1に紹介す る。 (2)症例の紹介  今回新たに併用禁忌としたクラリスロマイシンを併用した症例,抗不整脈薬を併用 した症例,利尿薬を併用した症例について,その詳細を表2に紹介する。 (3)安全対策  テルフェナジンは肝臓で活性体であるカルボン酸型に代謝され,未変化体はほとん ど血中には存在しない。一方,テルフェナジンによるQT延長や心室性不整脈は未変 化体の血中濃度が上昇したときに起こることが知られている。したがって,肝薬物代 謝酵素を阻害する作用のある薬物や,重篤な肝障害のある患者では,未変化体の血中 濃度が上昇しやすく,QT延長や心室性不整脈を起こしやすくなる。また,QT延長 を起こしやすい薬物を投与中の患者やQT延長を起こしやすい患者等にもテルフェナ ジンを投与するべきではない。  QT間隔は心室の脱分極から再分極までに要する時間であり,通常350〜440 msecである。一般的にQT延長はQT間隔が450msec以上になった状態を いうが,軽微な延長の場合には問題となることは少ない。しかし放置してQT間隔が 600msec以上に延長するとtorsades de pointesのような致死的な不整脈を発生 しやすい。テルフェナジンによるQT延長,心室性不整脈を予防するためには,適用 患者の選択等下記の点に注意することが重要である。 a.適用患者の選択  ・重篤な肝障害のある患者には投与しないこと。また,肝障害のある患者には慎重   に投与すること。  ・先天性QT延長症候群のある患者には投与しないこと。  ・QT延長を起こしやすい患者[低カリウム血症,低マグネシウム血症,透析中,   β遮断薬を除く抗不整脈薬,利尿薬,向精神薬(フェノチアジン系,三環系・四   環系抗うつ薬),プロブコールを投与中の患者]には投与しないこと。  ・心不全,心筋梗塞,徐脈のある患者には投与しないこと。また,それ以外の心疾   患のある患者には慎重に投与すること。  ・高齢者では,一般に肝機能が低下している場合が多いので慎重に投与すること。 b.併用薬の確認  ・肝臓の薬物代謝酵素の阻害作用のあるイトラコナゾール,ミコナゾール,エリス  ロマイシン又はクラリスロマイシンを投与している患者には投与しないこと。また,   フルコナゾール,ジョサマイシン,オレアンドマイシンを投与している患者には   慎重に投与すること。 c.患者への服薬指導の徹底  ・患者服薬指導にあたっては,ふらつき,めまい,動悸,失神等があらわれた場合   には,重篤な不整脈が発生している可能性があるので,服用を中止し,直ちに医   師・薬剤師に連絡するよう患者指導を行う。  なお,報告された症例を再度評価し,またテルフェナジンの米国添付文書及び類薬 の添付文書と内容の整合性を図った結果,テルフェナジンの使用上の注意を下記のと おり追加,改訂するとともに,更に「緊急安全性情報」を配布することにより,本剤 の適正使用情報を周知徹底させることを関係企業に指導した。 <<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>> <テルフェナジン> +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |                 警告                 | |本剤は未変化体及び肝臓で代謝されたカルボン酸型代謝物が薬理作用を持つ。下| |記の(1)又は(2)等の要因により代謝が阻害され,テルフェナジン未変化体の血中| |濃度が上昇した場合,QT延長,心室性不整脈(torsades de pointesを含む)な | |どの心血管系の副作用があらわれることがあり,外国では心停止(死亡を含む)| |があらわれたとの報告がある。下記の患者には投与しないこととし,また適応患| |者の選択を慎重に行うこと。                       | |(1) イトラコナゾール,ミコナゾール,エリスロマイシン又はクラリスロマイシ| |                            〜〜〜〜〜〜〜〜| |  ンを投与している患者                        | |  〜                                 | |(2) 重篤な肝障害のある患者                       | |(3) 先天性QT延長症候群のある患者                   | |(4) QT延長を起こしやすい患者(低カリウム血症,低マグネシウム血症,透析| |                                  〜〜| |  中,β遮断薬を除く抗不整脈薬,利尿薬,向精神薬(フェノチアジン系,三| |  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜| |  環系・四環系抗うつ薬),プロブコールを投与中の患者)        | |  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜        | |(5) 心不全,心筋梗塞,徐脈のある患者                  | |  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜                  | |なお,本剤服用中の患者に失神があらわれた場合には,重篤な不整脈が発生して| |いる可能性があるので,直ちに投与を中止し,心電図検査を含む適切な処置を行| |うこと。また,本剤の使用にあたっては使用上の注意を熟読のこと。     | |                  〜〜〜〜〜〜            | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ *そのほか,「一般的注意」「禁忌」「相互作用」についても改訂を行った。 表1 リスクファクター別分析 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  症  例  No                −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− リスクファクター       1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17  計 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 禁忌 薬物相互作用     イトラコナゾール併用 1 2 3 4 5 + 7 8 9 10 11 12 + 14 15 16 17 2例    クラリスロマイシン併用 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 + 13 14 15 16 17 1例   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    重篤な肝障害      1 2 + + + 6 + 8 9 10 + 12 13 14 15 16 17 5例   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   先天性QT延長症侯群           QT延長 1 + 3 4 5 6 7 8 9 + 11 12 13 14 15 16 17 2例   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   QT延長を起こすおそれのある患者        低カリウム血症 + 2 3 4 5 6 7 + + + 11 12 13 14 15 16 17 4例      低マグネシウム血症 1 + 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 1例            透析中 + 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 1例         利尿薬投与中 1 2 + + + 6 + + 9 + 11 12 13 14 15 16 17 6例       抗不整脈薬投与中 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 + 17 1例    心不全、心筋梗塞、徐脈 1 + 3 4 5 6 7 + 9 + 11 12 + 14 + 16 +  6例 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 慎重投与  上記以外の心疾患 1 2 3 4 5 6 7 8 + 10 11 12 13 14 15 + 17 2例      高齢者(75歳以上) 1 + 3 4 5 + 7 8 9 + 11 + 13 + + + +  8例 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−           過量服用 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 + 15 16 17 1例 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− No.14の症例は、副作用発現前日にトリルダンを2倍量(240mg/日)服用 した可能性がある。 図1 心電図所見(症例No.12,心室頻拍発現時)・・・省略 表2 症例の概要 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.8                             企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          女                      | |   年齢         68歳                    | |   使用理由[合併症]  喘息[肺炎、低カリウム血症、心不全、     | |                           慢性関節リウマチ] | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:テルフェナジン120mg日、13日間        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |63歳より喘息のため内服治療中であった。他院にて肺炎,心不全の診断にて入院| |し抗生物質,利尿剤により治療されていたところ,テルフェナジン投与13日目に意| |識消失発作が発現し,QT延長(QTc:606msec)とTorsades de pointes| |を認めた。当院転院後,テルフェナジン投与中止と電解質補正,塩酸リドカイン投| |与により,QTcは正常化しTorsades de pointes は認めなかったが,肺炎悪化の| |ため,7日後永眠となる。                         | |医師の見解:塩酸リドカイン中止後も不整脈は出現しなかったが,肺炎が治癒せず| |全身状態が悪化し死亡した。                        | |企業の見解:臨床経過からみて,肺炎が直接の死因と考える。         | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:フロセミド,テオフィリン,ブシラミン,シメチジン,ザルトプロフェ | |    ン,メチル硫酸アメジニウム,メトクロプラミド,テプレノン,ニザチジ| |    ン,硝酸イソソルビド,フロモキセフナトリウム,セフォペラゾンナトリ| |    ウム/スルバクタムナトリウム                    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.12                            企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          男                      | |   年齢         88歳                    | |   使用理由[合併症]  老人性皮膚そう痒症[慢性気管支炎、慢性びらん | |                      性胃炎、S状結腸癌、慢性腎炎]| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:テルフェナジン 120mg/日、8日間       | |           クラリスロマイシン 200mg/日、63日間    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |クラリスロマイシンを投与約2ヵ月目に,テルフェナジンを8日間併用したところ| |,めまい感が発現した。ECG所見はQT延長,心室頻拍,Torsades de pointes | |を示した。内服薬すべて中止し,ECGモニター下で,リドカイン及び硫酸アトロ| |ピンを静注した。その後,ECGモニターより心室頻拍認めるも,失神等の症状の| |発現は認めなかった。翌日,第T度AVブロックが残るが心室性期外収縮の発現は| |減少した。失神症状はなく,血圧等のvital signsも異常なかった。翌々日, EC| |G所見は正常化した。                           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:マレイン酸イルソグラジン,酸化マグネシウム,耐性乳酸菌,オキサトミ| |    ド,フルオシノロンアセトニド                   | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.16                            企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          女                      | |   年齢         87歳                    | |   使用理由[合併症]  アレルギー性皮膚炎[第I度房室ブロック、心室性| |                期外収縮、心房細動、発作性心房性頻脈、狭心| |                症、敗血症、SMON、高血圧]      | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:テルフェナジン 120mg/日、10日間      | |           リン酸ジソピラミド 150mg/日、39日間    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |患者はテルフェナジン服用前から元々第I度房室ブロックを合併しており,心室性| |期外収縮,心房細動,発作性心房性頻脈等様々な不整脈が発現したため,リン酸ジ| |ソピラミドにより治療を行った。リン酸ジソピラミド投与2〜3日後,完全房室ブ| |ロックが発現し,徐脈傾向(40〜50)であった。             | |その後敗血症を併発し塩酸ミノサイクリンを投与し,また皮膚そう痒の訴えに対し| |,テルフェナジンを投与開始した。                     | |テルフェナジン投与10日目,心室頻拍が発現し心室細動に移行した。心マッサー| |ジ等にても回復せず,意識も全くなく全身チアノーゼが出現。3分経過後,塩酸リ| |ドカイン100mg静注により,元の心電図パターンに戻り数分で意識も回復した| |。内服薬はすべて中止した。その後も4〜5回心室頻拍,あるいは心室細動が出現| |したが,胸骨叩打のみにて回復した。心電図はしばらく元の完全房室ブロックの状| |態であった。                               | |翌日には第I度房室ブロックとなり,発作性心房性細動と第I度房室ブロックを繰| |り返すようになり,その後全く心室頻拍,心室細動は認めなくなり,また,完全房| |室ブロックについても全く認めていない。                  | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:硝酸イソソルビド,塩酸ニカルジピン,塩酸ミノサイクリン,ファモチジ| |    ン,テプレノン,牛車腎気丸                    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+