1.タクロリムスによる脳症 +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |成分名             |該当商品名              | +−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |タクロリムス水和物       |プログラフ注射液,同カプセル     | |                |         (藤沢薬品工業)  | +−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |薬効分類等|免疫抑制剤                         | +−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |効能効果 |肝移植における拒絶反応の抑制                | |     |骨髄移植における移植片対宿主病の治療            | |     |腎移植における拒絶反応の抑制                | +−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ (1)症例の紹介  放線菌の産生物質として得られたタクロリムスはT細胞活性化を選択的に阻害する ことにより,強力な免疫抑制作用を有する。国内及び海外各国にて肝,腎などの臓器 移植,又は骨髄移植後の免疫抑制を中心に開発が進められ,拒絶反応の抑制に高い有 効性が認められており,移植成績の向上に貢献することが期待されている。国内では 平成5年4月に「肝移植における拒絶反応の抑制」,平成6年7月に「骨髄移植後の 移植片対宿主病の治療」,平成8年4月に「腎移植における拒絶反応の抑制」が,い ずれも稀少疾病用医薬品として承認された。  少数例での治験であったため承認時においては,十分な情報が得られておらず,そ のため「使用上の注意」は,市販後における国内及び海外から報告された新たな安全 性情報に基づき,数次にわたり改訂を行ってきた。  主な改訂は,相互作用(平成7年2月,同年10月),心室壁肥厚(同年7月), 急性腎不全(同年10月)などである。今回,汎血球減少症及びグレープフルーツジ ュースやワクチン類との相互作用等とともに,脳症の発現について一般的注意及び重 大な副作用に記載した。  報告された症例は国内では脳症として3例,脳症として副作用報告された症例では ないが,CT又はMRIによる画像診断にて白質部に異常が認められた例が2例報告 されている。  報告された症例の一部を紹介する(表1)。 (2)文献の紹介  本剤を投与した肝移植患者での報告(文献1)がある。臨床症状としては痙攣,失 見当識,無言症等がみられており,画像所見は国内症例と類似し,CTでは多巣性の 低吸収が顕著で,それに一致してMRI(T2 強調画像)で高信号域が観察されてい る。これらの異常部位は白質を中心に両側性で広範囲であった。通常の肝性脳症でみ られる所見とは異なっており,CTによる所見は脳梗塞あるいは感染時の所見と混同 しやすい所見もあった。本剤の減量・中止にて多くの例が2週間以内に回復した。  発症機序は明らかではないが,血管透過性亢進による浮腫の可能性と薬剤の脳神経 細胞への直接的な神経毒性の可能性が考えられた。  文献(文献1)に記載されている症例の一部を紹介する(表2)。 (3)安全対策  今回報告された脳症の典型例としては,軽度な中枢神経症状(全身倦怠感,応答不 良,虚脱,傾眠,振戦など)の後に全身痙攣が発現し,以後意識障害に至る経過であ る。国内では骨髄移植例での発現が中心であり予後不良例も多くみられたが,海外の 文献報告では,本剤の減量・休薬等の処置により回復例が多くみられており,早期の 発見,対応が重要である。また脳症の発見,診断には臨床所見とともにCTやMRI による画像診断が必要と考えられたため,全身痙攣,意識障害,錯乱,言語障害,皮 質盲等の脳症の徴候があらわれた場合には,画像診断を行うとともに減量・休薬等の 適切な処置を行うよう注意を喚起した。 <<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>> <タクロリムス水和物> 一般的注意  全身痙攣,意識障害,錯乱,言語障害,皮質盲等の脳症の徴候を呈することがある  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ので,このような症状があらわれた場合には,CT,MRIによる画像診断を行う  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  とともに,減量・休薬等の適切な処置を行うこと。  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 副作用 重大な副作用  中枢神経系障害:ときに全身痙攣,意識障害,錯乱,言語障害,皮質盲等の脳症の             〜〜  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   徴候を呈することがあるので,このような症状があらわれた場合には,CT,M   〜〜〜〜〜〜                          〜〜〜〜   RIによる画像診断を行うとともに,減量・休薬等の適切な処置を行うこと。   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <参考文献> 1)Appignani, B. A., et al.:Am. J. Roentgenol., 166:683(1996) 表1 症例の概要(国内報告) +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.1                             企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          男                      | |   年齢         10歳                    | |   使用理由       骨髄移植                   | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:2.5mg(i.v.)、16日間          | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |移植後の急性GVHD発現のため,本剤増量直後,眼球上転,全身性強直性痙攣発| |現。発現時タクロリムス血中濃度は39ng/mL。意識障害翌日には昏睡状態(| |JSC III−100〜II−30)となる。運動障害は認めなかった。2日後| |のCTは正常であったが,脳波検査にて脳症が疑われる所見あり。意思疎通なく,| |発語なし。その後,筆談等の意思疎通が可能となる。 | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム              | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.2                             企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          女                      | |   年齢         44歳                    | |   使用理由       骨髄移植                   | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:6mg(p.o.)、256日間           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |タクロリムスの投与256日後,意識障害が発現し,昏睡状態となる。CTは正常| |であったが,脳幹部の梗塞を疑い,オザグレルナトリウム,濃グリセリン・果糖注| |射液で治療を開始したが,改善せず。MRIにて白質にびまん性の高吸収域あり。| |脳波にてθ波主体の徐波化及び低電位波確認。その後,意識障害は改善せず。発現| |55日後に感染症,肝不全,呼吸不全,汎血球減少進行し,多臓器不全となり死亡| |。                                    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:プレドニゾロン,ニザチジン,アルファカルシドール,インドメタシンフ| |    ァルネシル,塩酸ベネキサートベータデクス,塩酸アンブロキソール,レ| |    ボフロキサシン,ST合剤,センナ・センナ実,テオフィリン,塩酸プロ| |    カテロール                            | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.3                             企業報告| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          女                      | |   年齢         47歳                    | |   使用理由       肝移植                    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:不明(i.v.)、60日間             | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |タクロリムスの投与60日後,応答が悪く,傾眠傾向となり,意識障害発現。タクロ| |リムス血中濃度は17.8ng/mL。血中アンモニア値190と高値。CTは正| |常であった。1週間後に意識は回復した。                  | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |併用薬:コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム,塩酸ドパミン,ピペラシリン| |    ナトリウム,フロセミド,人免疫グロブリン,メシル酸ガベキサート  | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 表2 症例の概要(文献報告) +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.1                            参考文献1| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          女                      | |   年齢         46歳                    | |   使用理由       肝移植                    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:6日間                       | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |本剤開始6日目に失見当識,不明瞭言語,左側不全片麻痺等が発現した。発現日の| |血中濃度は42.2ng/mLで,CTにて白質,特に右側前頭葉に低吸収域を認| |めた。25日目に言語及び運動機能回復し,26日目にはCT異常も解消したが,| |38日目のMRIでは高信号領域の大きさ及び数が増加した。40日目に認知障害| |を発現し,その日の血中濃度は23〜32ng/mLであった。12ヵ月目のMR| |Iでは白質病巣の大きさと数の減少を認めた。                | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |No.2                            参考文献1| +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |患者 性          女                      | |   年齢         53歳                    | |   使用理由       肝移植                    | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |1日投与量・投与期間:9日間                       | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |副作用−経過及び処置                           | |本剤開始9日目に無言症,嚥下不能症が発現した。発現日の血中濃度は10.5n| |g/mLで,CTは異常なし。投与11日目のMRIでは橋,基底核,及び後部白| |質に病巣を認める。13日目に痙攣を発現。血中濃度は5.0ng/mL未満。薬| |剤の投与を中止し,18日目に神経学的検査にて回復を認める。2ヵ月後,MRI| |に変化はなかった。                            | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+