2.シサプリドとQT延長

+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

| 成分名            | 該当商品名             |

+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|シサプリド           |アセナリン錠・細粒(ヤンセン協和)  |

|                |リサモール錠・細粒(吉富製薬)    |

+−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|薬効分類|消化管運動賦活調整剤                     |

+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|効能効果|下記疾患に伴う消化器症状(胸やけ、食欲不振、悪心・嘔吐、上腹部|

|    |痛、腹部膨満感)                       |

|    |   慢性胃炎、胃切除後症候群                |

|    |逆流性食道炎                         |

|    |偽性腸閉塞(特発性)                     |

+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+



(1)症例の紹介

 シサプリドは平成元年に承認された、慢性胃炎、胃切除後症候群に伴う消化器症状

(胸やけ、食欲不振、悪心・嘔吐、上腹部痛、腹部膨満感)、逆流性食道炎、偽性腸

閉塞(特発性)を効能とする薬剤である。アゾール系抗真菌剤、エリスロマイシン、

クラリスロマイシン併用での心血管系副作用(心室性不整脈、QT延長等)について

は、既に使用上の注意の「慎重投与」と「相互作用」の項に記載し注意を喚起してい

るが、今回、併用以外でQT延長が2例報告された。

 1例は塩酸イミプラミンとの併用例で、塩酸イミプラミンが関与すると考えられた

が、本剤の関与も否定できない症例である。

 他の1例は、QT延長発現日、疼痛の訴えのため、ジクロフェナクナトリウムの坐

薬を投与され、その後本剤服用。数時間後、胸苦、意識の低下、血圧低下が認められ

た。胸苦時の心電図検査ではQT延長が認められた。両剤中止後にQTは正常化して

おり、本剤との関連は否定できないと考えられた。

 2例の概要について、表1に紹介する。

 なお、アゾール系抗真菌剤との併用での心血管系副作用は現在までに国内で2例報

告されている。併用例での発現例2例の概要を表2に紹介する。



(2)文献の紹介

 シサプリドの心血管系に対する作用を、ウサギのプルキンエ線維を用い、in vitro

の実験で確認した報告が外国文献に掲載された1)。報告によると、摘出したウサギ

のプルキンエ線維におけるシサプリドの電気生理学的作用を検討した結果、シサプリ

ドは0.1〜1μMの濃度範囲で、他のパラメーターに影響を与えることなく、濃度

依存的に活動電位持続時間(APD;action potential duration)を延長させ、早期後

脱分極(EAD;early afterdepolarization)を誘発し、高濃度ではその後に続くtrig-

gered activity(EADが6回以上連続してみられた場合と定義)を誘発することが示さ

れた。動物実験の結果を臨床観察に当てはめるには慎重を期す必要があるが、活動電

位持続時間の有意な延長等がみられたことから、本剤投与でQT延長等の心血管系副

作用が起こる可能性が示唆された。



(3)安全対策

 これまでアゾール系抗真菌剤、エリスロマイシン、クラリスロマイシン併用での心

血管系副作用については「慎重投与」「相互作用」の項に記載し、注意を喚起してき

た。今回、動物実験で本剤がQT延長を誘発する可能性が示唆され、国内で2例の併

用外で本剤との関連性が否定できないQT延長が報告されている。そのため、より一

層注意を喚起するために、「副作用(その他の副作用)」の項に「QT延長」を、「

その他」の項に、「動物実験で、QT延長等の心血管系副作用が示唆されたとの報告

がある」を追記し、本剤の適正使用を促すための情報提供を行うよう指導した。



(4)報告のお願い

 併用で心血管系副作用が発現することは既に知られているが、安全性確保の観点か

ら、本剤投与で心血管系副作用が認められた症例について、副作用症例報告をお願い

したい。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<シサプリド>

副作用

その他の副作用

 循環器:まれにQT延長、立ちくらみがあらわれることがある。

        〜〜〜〜〜

その他

 動物実験で、QT延長等の心血管系副作用が示唆されたとの報告がある。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



<参考文献>

1)Puisieux, F. L., et al.:British Journal of Pharmacology,117:1377(1996)





表1 症例の概要

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.1                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         52歳                    |

|   使用理由       便秘症、NUD(Non-ulcer dyspepsia)     |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量・投与期間:7.5mg、継続                  |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|QT延長                                 |

|本剤投与5ヵ月後、QT延長(450msec)がみられ、1週間後もQT延長(|

|470msec)がみられた。副作用発現1週間前に塩酸イミプラミンの投与を開|

|始し、副作用発現後も本剤とともに投与を継続した。副作用発現20日後のホルタ|

|ー心電図上で不整脈や有意なST−T変化は認められなかった。副作用発現23日|

|後、本剤服用3時間後の本剤血中濃度を測定した結果25ng/mLであった。Q|

|T延長は発現から1ヵ月後に軽快した。                   |

|(原疾患:うつ状態)                           |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|併用薬:塩酸イミプラミン、アルプラゾラム、マレイン酸セチプチリン、    |

|    エチゾラム                            |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.2                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         85歳                    |

|   使用理由       胃切除後逆流性食道炎             |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量・投与期間:7.5mg、71日間                |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|QT延長                                 |

|本剤投与48日目、K低下(3.0mEq/L)を認めた。3日間Kを静注補給、|

|その後食事療法により正常化。本剤投与71日目夕方、疼痛の訴えあり、ジクロフ|

|ェナクナトリウムを投与。夕食後本剤服用。約4時間半後、腹部膨満感のためトイ|

|レに行きベッドに戻ったが、胸苦を訴え、意識の低下があり血圧低下を来した(血|

|圧60/40mmHg)。昇圧剤使用し、血管確保にて血圧は70/50、106|

|/58、116/58mmHgと回復した。胸苦時、心電図にてQT延長(471|

|msec)が認められたが、不整脈は認められなかった。同日本剤の投与中止。1|

|2日後、心電図は正常となった。                      |

|(原疾患:骨粗鬆症)                           |

|(既往歴:胃切除術、洞性不整脈)                     |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|併用薬:アンピロキシカム、カルシトリオール、L−アスパラギン酸カルシウム、|

|    ジクロフェナクナトリウム、消化性潰瘍剤              |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+



表2 症例の概要

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.1                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         63歳                    |

|   使用理由[合併症]  食欲不振[肺炎]               |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量・投与期間:7.5mg、78日間                |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|心室性不整脈、QT延長、意識消失、torsades de pointes(フルコナゾールとの |

|併用)                                  |

|急性骨髄性白血病に対し本剤投与5ヵ月前より化学療法施行、本剤投与44日前に|

|地固め療法施行。食欲不振、嘔気強く発現のため本剤投与開始。本剤投与51日目|

|、肺炎に対しフルコナゾール投与開始(34日間)。本剤投与72日目外泊(2日|

|間)。その際嘔吐あり、帰院時低K血症(2.5mEq/L)であった。夜、睡眠|

|時全身硬直、意識レベルの低下、尿失禁あり。翌日、不整脈、夜、尿失禁あり。Q|

|Tc:631msec。その翌日も午後1時頃意識消失、尿失禁。午後10時頃尿失 |

|禁。午後10時4〜5分にtorsades de pointes発現。低K血症に対する補充と、 |

|本剤、塩酸ミノサイクリン、硫酸ポリミキシンB、スルピリドの中止にて心室性不|

|整脈は消失。8日後にフルコナゾール投与中止。その1週間後QTc:400ms |

|ec。回復。                               |

|(原疾患:急性骨髄性白血病)                       |

|(既往歴:子宮筋腫〜20年前)                      |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|併用薬:フルコナゾール、塩酸ミノサイクリン、硫酸ポリミキシンB、     |

|    スルピリド、パニペネム・ベタミプロン               |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.2                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          男                      |

|   年齢         64歳                    |

|   使用理由[合併症]  慢性胃炎に伴う腹部膨満[細菌性肺炎]     |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量・投与期間:7.5mg、14日間                |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|心室性不整脈(イトラコナゾールとの併用)                 |

|本剤投与約5ヵ月前、多発性骨髄腫により腎機能の悪化。血漿交換、血液透析など|

|の後、化学療法を3コース施行。深在性真菌症に対してアムホテリシンBシロップ|

|投与開始したが、効果不十分、悪心・嘔吐の悪化により中止。         |

|イトラコナゾール(消化管真菌症に対して)投与開始し、約1ヵ月半後、本剤投与|

|開始。                                  |

|約半月後、午後5時頃VT(心室性頻脈)様の波形確認。VPC(心室性期外収縮|

|)頻発。自覚症状は、はっきりせず(意識低迷のため)。午後7時、10%リドカ|

|イン2mL/min開始。VPC頻発。翌日イトラコナゾール投与中止(腎機能悪|

|化、肺炎出現のため)。その3日後、胸圧迫感の訴えあり。心拍数102〜110|

|/min、心電図でII誘導(*1)、aVF誘導(*2)の両部位でST波の上昇傾向|

|が確認された。その後、症状消失。翌日、本剤投与中止。中止4日後、上記同症状|

|出現するも、自然消失。更に4日後、キシロカイン減量。翌日VPCの出現回数減|

|少(1〜2/2〜3min)。副作用回復。2週間後リドカイン中止。それから約|

|1ヵ月後、肺水腫を伴う細菌性肺炎で死亡。                 |

|(原疾患:多発性骨髄腫)                         |

|(既往歴:腰椎椎間板ヘルニア、糖尿病)                  |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|併用薬:イトラコナゾール、ファモチジン、テプレノン、硫酸ポリミキシンB、 |

|    センノシド、酸化マグネシウム、ピコスルファートナトリウム、    |

|    スルファメトキサゾール・トリメトプリム              |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

(*1)II誘導:双極誘導で、左足−右手間の電位差を記録。

(*2)aVF誘導:単極誘導で、横隔膜の方向から心臓の電気的中心に興奮が近づ

    いたり遠ざかっていくのを記録。