3.[解説]医薬品の適正使用のために

  ニフェジピン(徐放剤を除く)の適正使用について



 Ca拮抗剤は高血圧症・狭心症の治療薬として使用されている薬剤である。このう

ちニフェジピン(徐放剤を除く)は昭和50年(1975年)12月に狭心症治療薬

として承認されたジヒドロピリジン系のCa拮抗剤であり、その後、本態性高血圧症

及び腎性高血圧症の効能が追加取得されている。ニフェジピン(徐放剤を除く)は通

常1日3回投与(用量として1日30mg)を要する短時間作用型の製剤であり、一

般的に狭心症並びに高血圧症の薬物療法では、服用が数ヵ月から数年以上に及ぶこと

や患者が壮年期以上の比較的高齢者が多いことから、現在Ca拮抗剤においては、徐

放剤が多く使用されている。

 ニフェジピン(徐放剤を除く)の降圧は冠潅流圧が低下し冠血流量が減少する可能

性が考えられる。また、降圧によって反射性に心拍数の増加が起こり、心仕事量の増

加ひいては心筋酸素消費の増大が起こる可能性があることなどから、心筋虚血の改善

効果が期待できない可能性がある。とりわけ、急性心筋梗塞や不安定狭心症患者の病

態は、急激な血行動態の変化によって大きく影響を受けやすいことから、「使用上の

注意」の改訂を行い注意を喚起することとする。



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| 成分名            | 該当商品名             |

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|ニフェジピン          |アダラート(バイエル薬品)      |

|                |セパミットカプセル・細粒(鐘紡)   |

|                |エマベリン錠・顆粒(高田製薬)    |

|                |ニレーナ錠(三和化学)        |

|                |セレブレートカプセル(東京田辺製薬) |

|                |レマール(杏林製薬)         |

|                |他                  |

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(1)はじめに

 Ca拮抗剤は高血圧症・狭心症の治療薬として使用されている薬剤である。このう

ちニフェジピン(徐放剤を除く)は昭和50年(1975年)12月に狭心症治療薬

として承認されたジヒドロピリジン系のCa拮抗剤であり、その後、本態性高血圧症

及び腎性高血圧症の効能が追加取得されている。ニフェジピン(徐放剤を除く)は通

常1日3回投与(用量として1日30mg)を要する短時間作用型の製剤であり、一

般的に狭心症並びに高血圧症の薬物療法では、服用が数ヵ月から数年以上に及ぶこと

や患者が壮年期以上の比較的高齢者が多いことから、現在Ca拮抗剤においては、徐

放剤が多く使用されている。

 平成8年1月25日米国FDA(食品医薬品庁)は、適正使用への方策を検討する

目的で諮問委員会を開催し、適応は取られていないが医師の判断で使用されている高

血圧症に対して使用しないよう注意を呼びかけるとともに急性心筋梗塞や不安定狭心

症には使用を避けるよう添付文書の改訂を行った。

 EU(欧州連合)においても、Ca拮抗剤[ニフェジピン(徐放剤を除く)]の安

全性について検討され、同製剤の添付文書の表示改訂を改めるよう勧告された。



(2)我が国での検討の要点

 厚生省では1995年10月以降、関連報告の評価と情報の収集並びに添付文書の

表示改訂について調査を行ってきた。FDA、EUの動向と入手された情報に基づき

平成8年6月10日に複数の循環器の専門医と副作用調査会の委員で構成される検討

会によりニフェジピン(徐放剤を除く)の安全性が検討され、「使用上の注意」の改

訂が勧告された。

 米国FDA、EU勧告と我が国における改訂で最も異なる点は、「不安定狭心症」

の扱いである。FDAとEUは不安定狭心症に対しては「禁忌ないしは使用を避ける

」としているが、我が国では以下の理由により「慎重投与」とすることが妥当である

と判断されている。

a.用量の違い

 Furbergらは1980年代に発表された16文献のメタアナリシスの結果を基に、

ニフェジピン高用量(1日80mg投与)における全死亡へのリスク比の増加を報告

したが、本用量は我が国では日常診療では通常考えられない高用量である。我が国の

場合、通常用量は1日30mgであり、この用量はFurbergらのデータに照らせばリ

スク比の増加は認められていない用量範囲にある。

b.病態の違い

 狭心症及び心筋梗塞を含めた虚血性心疾患の病態が、日本人(モンゴロイド人種)

と欧米人(コーカサス人種)では異なることが指摘されている。この人種差は一つに

は冠動脈の血管拡張性あるいは血管易スパズム性といった、血管反応性の差という形

で示唆されている。すなわち、欧米の冠動脈疾患患者に比べ日本人の患者では冠スパ

ズムの関与が大きいとされ、迅速かつ強力な抗狭心症効果が期待される不安定狭心症

の薬物療法においては、ニフェジピン(徐放剤を除く)の臨床的有用性はある。



(3)安全対策

 ニフェジピン(徐放剤を除く)による迅速で強い降圧は症例によっては冠潅流圧の

低下をもたらし、冠血流量を減少させる可能性が考えられる。また、降圧によって反

射性に心拍数の増加が起こり、心仕事量の増加ひいては心筋酸素消費の増大が起こる

可能性があることなどから、心筋虚血の改善効果が期待できない可能性がある。とり

わけ、急性心筋梗塞や不安定狭心症患者の病態は、急激な血行動態の変化によって大

きく影響を受けやすいことから、「使用上の注意」の改訂を行い注意を喚起すること

とする。

 なお、諸外国における改訂内容であるが、米国FDAとEUでやや異なるが、全体

として急性心筋梗塞、不安定狭心症に対しては「禁忌あるいは使用を避ける」とする

などの注意が喚起されることになっている。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<ニフェジピン(徐放剤を除く)>

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|禁忌(次の患者には投与しないこと)                   |

| 急性心筋梗塞の患者[急激な血行動態の変化により、病態が悪化するおそれが|

| 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜|

| ある。]                               |

| 〜〜〜〜                               |

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慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

  不安定狭心症の患者[急激な血行動態の変化により、症状が悪化するおそれが

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  ある。]

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その他

  外国においてニフェジピン(徐放剤を除く)に関し、急性心筋梗塞及び不安定狭

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  心症等の患者を対象にした複数文献報告を用いたメタアナリシスの結果、高用量

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  (1日80mg)投与群で非心臓死を含む全死亡へのリスク比が増加したとの報

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  告や、高齢の高血圧症患者を対象にした観察研究で、本剤投与群の生存率が他の

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  降圧剤投与群と比べて低かったとの報告がある。

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<参考文献>

1)Psaty, B.M., et al.:JAMA, 274:620-625(1995)

2)Furberg, C.D., et al.:Circulation, 92:1326-1331(1995)

3)Pahor, M., et al.:J. Am. Geriatr. Soc., 43:1191-1197(1995)

4)冠動脈の臨床、日本臨牀、通巻674号、日本臨牀社、東京(1994)

5)Egashira, et al.:N. Eng. J. Med., 328:1659-1664(1993)

6)Lefroy, D.C., et al.:Circulation, 86:1864-1871(1992)

7)Newman, C.M., et al.:Am. J. Cardiol., 66:1070-1076(1990)

8)Quyyuml, A.A., et al.:Circulation, 86:1864-1871(1992)