2.シサプリドと喘息発作

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| 成分名            | 該当商品名             |

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|シサプリド           |アセナリン錠・細粒(ヤンセン協和)  |

|                |リサモール錠・細粒(吉富製薬)    |

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|薬効分類|消化管運動賦活調整剤                     |

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|効能効果|下記疾患に伴う消化器症状(胸やけ、食欲不振、悪心・嘔吐、上腹部|

|    |痛、腹部膨満感)                       |

|    |  慢性胃炎、胃切除後症候群                 |

|    |逆流性食道炎                         |

|    |偽性腸閉塞(特発性)                     |

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(1)症例の紹介

 シサプリドは平成元年に承認された、慢性胃炎、胃切除後症候群に伴う消化器症状

(胸やけ、食欲不振、悪心・嘔吐、上腹部痛、腹部膨満感)、逆流性食道炎、偽性腸

閉塞(特発性)を効能とする薬剤である。これまでにシサプリドを内服中の患者で喘

息発作、喘息症状の悪化等が認められた症例が3例報告されているので、その症例の

概要について紹介する。

 1例は、気管支喘息を合併し、アスピリン喘息の診断により食品、薬剤の注意を行

っており、経過は良好であったが、以前より慢性的に喘息の小発作を呈していた。ま

た、もう1例は、気管支喘息の家族歴があったが患者には喘息の既往はなかった。そ

のほか、気管支喘息の合併、不整脈による緊急入院の既往のある症例が含まれていた。

投与期間は、8日〜1年5ヵ月、女性2例、男性1例で、年齢は57〜80歳であっ

た。

 報告された症例の一部を紹介する(表1)。



(2)文献の紹介

 胃食道逆流性疾患(gastro−oesophageal reflux disease:GORD)は、慢性喘

息患者においてかなり高頻度でみられる疾患であり、気管支拡張療法によって悪化、

続発することもある。こうした患者においては、GORDを治療すると喘息にも実質

的な改善をもたらすとされ、併用されることも多い。喘息を合併症に持つGORD及

び消化管の運動障害にシサプリドが併用され、基礎疾患である喘息あるいは気管支痙

攣を発現あるいは悪化した症例の類似文献が2報(5症例)報告されている(文献1、

2)ので、その報告の概要について紹介する(表2)。

 5例中3例は喘息の合併があり、その内訳は過去12ヵ月の間に喘息の急性発作の

ため20回の入退院を繰り返していた重症のステロイド依存性喘息患者1例、安定型

の喘息患者2例であった。発現と服用の時間的関係が判明している症例の内訳は、初

回投与後数時間程度で発現した症例が3例、2週間後に発現した症例が1例、更にそ

の4例中3例は発現後の再投与によって同様の症状を発現しており、いずれも薬剤と

の関連が推察されるものである。



(3)安全対策

 シサプリドの喘息発作の発現に関しては、過敏症の可能性と、消化管の平滑筋に選

択的に作用する薬理作用が、気管支平滑筋にも影響を及ぼした可能性が考えられ、作

用機序は明らかではないが、過敏症と喘息発作を発現する可能性の高い患者への使用

に対して注意を喚起する必要があると判断した。

 このため、「禁忌」の項に本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、「慎重投

与」の項に喘息又はその既往歴のある患者を追加するとともに、「副作用(その他の

副作用)」の過敏症の項に喘息発作を追記し、注意を喚起することとし、本剤の適正

使用を促すための情報提供を行うよう指導した。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<シサプリド>

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| 禁忌(次の患者には投与しないこと)     |

|  本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 |

|  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 |

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慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

  喘息又はその既往歴のある患者[喘息発作の誘発や、症状の悪化が認められたと

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  の報告がある。]

  〜〜〜〜〜〜〜〜



副作用

(2)その他の副作用

  過敏症:まれに喘息発作、蕁麻疹、ときにそう痒感、発疹等があらわれることが

      〜〜〜〜〜〜〜〜

  ある。



<参考文献>

1)Nolon, P., et al.:Lancet, 336:1443(1990)

2)Pillans, P.:British Medical Journal, 311:1472(1995)





表1 症例の概要(国内報告)

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|No.1                             企業報告|

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|患者 性          男                      |

|   年齢         57歳                    |

|   使用理由[合併症]  大腸機能障害[気管支喘息]          |

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|1日投与量・投与期間:22.5mg、25日間               |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|アスピリン喘息の診断で食品、薬剤の注意を行っており、経過は良好であったが、|

|慢性的に喘息の小発作はみられていた。残便感のため本剤を投薬した。投与19日|

|目に胸の苦しみを訴えるようになった。その後、アミノフィリン、コハク酸ヒドロ|

|コルチゾンナトリウムを投与したが、喘鳴が出現し、不眠、ラ音(++)がひどく|

|なり本剤の服用を中止したところ、2日後に回復した。            |

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|併用薬:テオフィリン、プロピオン酸ベクロメタゾン、硫酸サルブタモール、オキ|

|    セサゼイン、酸化マグネシウム、アミノフィリン、コハク酸ヒドロコルチ|

|    ゾンナトリウム                          |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.2                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         80歳                    |

|   使用理由[合併症]  便秘[パーキンソン病]            |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量・投与期間:7.5mg、8日間                 |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|便秘に本剤を投薬したところ、3日目に咳、痰が出現した。その後、呼吸困難(喘|

|鳴、呼気延長)が出現したため、投薬を中止し入院。全肺野でラ音を聴取し、好酸|

|球増多を認めた。リン酸ベタメタゾンナトリウム、アミノフィリン、臭化水素酸フ|

|ェノテロールの投与を開始し、4日目には喘息症状が軽減した。翌日には退院し、|

|その後リン酸ベタメタゾンナトリウムの投与を中止するも、以後は喘息症状を全く|

|認めない。                                |

|(喘息の家族歴:父親)                          |

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|併用薬:塩酸エチレフリン、レボドパ・塩酸ベンセラジド、イデベノン、塩酸アマ|

|    ンタジン                             |

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表2 症例の概要(文献報告)

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|No.1                        参考文献(文献1)|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         18歳                    |

|   使用理由[合併症]  潰瘍性食道炎による逆流症状          |

|                  [ステロイド依存性喘息(不安定型)] |

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|1日投与量・投与期間:30mg、2日間(4回)              |

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|副作用−経過及び処置                           |

|喘息発作により、過去12ヵ月間に20回入院を繰り返していた患者の潰瘍性食道|

|炎にシサプリドを投与したところ、初回投与後3時間以内に胸部逼迫と喘鳴が発現|

|し、最大呼気速度(PFR)は490から360L/分に低下した。同様の症状は2回目|

|の投与後にもみられた。シサプリドを中止後はPFRは投与前値に戻った。   |

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|併用薬:プレドニゾロン、サルブタモール、ベクロメタゾン、テオフィリン   |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.2                        参考文献(文献2)|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         56歳                    |

|   使用理由[合併症]  不明[安定型喘息]              |

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|1日投与量・投与期間:20〜40mg、3回                |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|シサプリド服用後数時間以内に気管支痙攣が発現した。再投与時にも同様の反応が|

|2回発現した。                              |

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|併用薬:不明                               |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.3                        参考文献(文献2)|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         36歳                    |

|   使用理由[合併症]  特発性消化管麻痺[安定型喘息]        |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量・投与期間:30mg、約2週間                 |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|シサプリド服用の約2週間後に喘息症状が悪化した。シサプリドを中止後1週間以|

|上かかって回復したが、投与再開時に48時間以上にわたる気管支痙攣の急性悪化|

|がみられた。喘息は2回目の中止後数日で安定化した。            |

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|併用薬:イプラトロピウム、ベクロメタゾン、テルブタリン          |

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