1.G−CSF併用癌化学療法後の間質性肺炎

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| 成分名            | 該当商品名             |

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|フィルグラスチム(遺伝子組換え)|グラン注射液(麒麟麦酒)       |

|レノグラスチム(遺伝子組換え) |ノイトロジン注(中外製薬)      |

|ナルトグラスチム(遺伝子組換え)|ノイアップ注(協和醗酵)       |

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|薬効分類|その他の血液・体液用薬                    |

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|効能効果|がん化学療法による好中球減少症(詳細略)           |

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(1)間質性肺炎とG−CSF

 G−CSF製剤として平成3年10月に承認されたフィルグラスチム、レノグラス

チム及び平成6年4月に承認されたナルトグラスチムは癌化学療法後の好中球減少症

に用いられているが、本剤を投与した患者での間質性肺炎の発症例が報告されており、

その薬理作用から考えて、本剤が間質性肺炎の発症に関与した可能性が考えられたの

で、平成8年1月に使用上の注意に追記し、注意を喚起することとなった。

 抗癌剤等が間質性肺炎を惹起することは古くから知られているが、抗癌剤の投与後

にG−CSFを投与した例で間質性肺炎の発症がみられている。この発症機序として、

G−CSFの好中球及びマクロファージに対する影響が考えられる。G−CSFは好

中球を増加させ、その機能を亢進させる働きを持つ。機能亢進した好中球は細胞障害

性のスーパーオキサイドを産生する。一方、マクロファージに対しては、G−CSF

がその数を増加させるとの報告がある。活性化された肺胞マクロファージにより産生・

分泌された増殖因子が線維芽細胞の増殖や細胞外基質蛋白の産生を促進する。これら

の作用が抗癌剤により障害を受けた肺胞上皮細胞に加わることにより、間質性肺炎が

進行するとも考えられている。



(2)症例の紹介

 これまでの報告例によると、G−CSF投与時に間質性肺炎を発症した例ではブレ

オマイシン、シクロホスファミド、メトトレキサートなど肺毒性を有する抗癌剤が投

与されていた患者が多く、癌種別では悪性リンパ腫に多くみられる。

 報告された症例の一部を紹介する(表1)。



(3)安全対策

 間質性肺炎のリスクの高い患者では、添付文書に記載されているように、必要以上

に好中球が増加しないように定期的に血液検査を行い、投与量の減量や中止を速やか

に行う必要がある。また、聴診によるラ音、呼吸の異常などの有無に留意して、肺炎

を早期に発見することが良好な予後につながる。最も早くあらわれる特徴的な症状は

両下肺野の背側のfine crackle音と突然の呼吸困難であり、咳嗽は少ない。これらの

症状は胸部X線像やCT像の異常よりも早く認められるので、これらがみられた時点

でG−CSFの投与を中止し、観察を十分に行い適切な処置を行う必要がある。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

副作用

(1)重大な副作用

 間質性肺炎:間質性肺炎が発現又は増悪することがあるので、観察を十分に行い、

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 発熱、咳嗽、呼吸困難及び胸部X線検査異常等が認められた場合には、本剤の投与

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 を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。

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表1 症例の概要

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|No.1                             企業報告|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         57歳                    |

|   使用理由[合併症]  悪性リンパ腫                 |

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|1日投与量・投与期間:75μg、13日間                 |

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|副作用−経過及び処置                           |

|ステージIVの悪性リンパ腫に対して、MACOP−B療法中に白血球数が1700ま|

|で低下する骨髄抑制が出現したため、G−CSF製剤を1日75μg、13日間皮|

|下投与した。本剤投与4日目には白血球数6800に回復したが、5日目に胸部X線検|

|査で両下肺に網状影と、ガリウムシンチで両肺野にびまん性の集積を認め、抗癌剤|

|による薬剤性間質性肺炎が疑われた。血液ガス所見で低酸素血症を認め、経気管支|

|肺生検により組織学的に薬剤性間質性肺炎と確診した。本剤の投与を中止したが、|

|翌日より肺炎の急性増悪を認め、PaO2 は35.7Torrに低下した。副腎皮|

|質ホルモン剤の投与と酸素吸入を開始し、10日目にはPaO2 107.2Tor|

|rと呼吸状態は軽快したが、肺線維症となった。               |

|約3ヵ月後にG−CSF製剤を再投与したところ、呼吸状態が再び悪化した。抗癌|

|剤による積極的治療が行えず約3ヵ月後に腫瘍の増悪により死亡した。     |

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|No.2                             企業報告|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         69歳                    |

|   使用理由[合併症]  悪性リンパ腫[腎不全]            |

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|1日投与量・投与期間:100μg、6日間                 |

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|副作用−経過及び処置                           |

|白血化した悪性リンパ腫に対して、CHOP療法施行4日後からG−CSF製剤を|

|1日100μg、6日間投与した。本剤投与終了翌日に呼吸困難を訴えたので、 |

|O2 2L吸入開始した。胸部X線にて肺野にびまん性陰影出現し、白血球数3800(|

|好中球比率88%)であったので、副腎皮質ホルモン剤の投与を開始した。翌日 |

|O2 2L吸入にてPaCO2 31.8Torr、PaO2 112.9Torrと改|

|善したが、その翌日再度呼吸困難がありO2 5L吸入を行うがPaCO2 54.1|

|Torr、PaO2 68.5Torrと悪化したため気管内挿管し人工呼吸管理を|

|行う。3日後、自覚症状の改善があったので抜管し、O2 5L吸入により    |

|PaCO2 37.1Torr、PaO2 128.3Torrとなり、胸部X線の肺|

|野の陰影も改善傾向を示した。9日後O2 2L吸入にてPaCO2 30.7Tor|

|r、PaO2 127.7Torrとなり回復した。              |

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