3.[解説]医薬品の適正使用のために

  小柴胡湯の投与による重篤な副作用「間質性肺炎」について



 小柴胡湯は慢性肝炎における肝機能障害の改善等に用いられる漢方製剤である。小

柴胡湯による間質性肺炎については、既に「使用上の注意」に記載し注意を喚起して

いるが、小柴胡湯使用中の慢性肝炎患者で重篤な転帰に至った症例もあることから、

使用に際しての注意を改めて喚起する。



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| 成分名        | 該当商品名                 |

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|小柴胡湯        |ジュンコウ小柴胡湯FCエキス錠・細粒医療用   |

|            |             (アサヒビール薬品)|

|            |カネボウ小柴胡湯エキス錠(大峰堂薬品工業)  |

|            |カネボウ小柴胡湯エキス細粒(鐘紡)      |

|            |コタロー小柴胡湯エキス細粒(小太郎漢方製薬) |

|            |ホノミ小柴胡湯Nエキス錠・顆粒(剤盛堂薬品) |

|            |サカモト小柴胡湯エキス顆粒(阪本漢法製薬)  |

|            |小柴胡湯エキス顆粒・サトウ(佐藤製薬)    |

|            |三和小柴胡湯エキス細粒(三和生薬)      |

|            |JPS小柴胡湯エキス顆粒「調剤用」      |

|            |            (ジェーピーエス製薬)|

|            |仁丹ドルフ小柴胡湯エキス顆粒(仁丹ドルフ)  |

|            |KTS小柴胡湯エキス散(伸和製薬)      |

|            |太虎堂の小柴胡湯エキス顆粒(太虎精堂製薬)  |

|            |オースギ小柴胡湯エキスG(高砂薬業)     |

|            |KTS小柴胡湯エキス顆粒(建林松鶴堂)    |

|            |ツムラ小柴胡湯エキス顆粒(医療用)(ツムラ) |

|            |テイコク小柴胡湯エキス顆粒(帝國漢方製薬)  |

|            |テイヤク小柴胡湯エキス顆粒S(帝國製薬)   |

|            |小柴胡湯エキス顆粒T(東亜薬品)       |

|            |〔東洋〕小柴胡湯エキス細粒(東洋薬行)    |

|            |オースギ小柴胡湯エキスT錠(常盤薬品工業)  |

|            |マグマ小柴胡湯エキス細粒(日本薬品開発)   |

|            |小柴胡湯エキス顆粒「フジモト」(藤本製薬)  |

|            |本草小柴胡湯エキス顆粒−M(本草製薬)    |

|            |マツウラ小柴胡湯エキス顆粒(松浦薬業)    |

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|副作用 |間質性肺炎                          |

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(1)症例の紹介

 小柴胡湯は慢性肝炎における肝機能障害の改善の目的で、主にC型慢性肝炎の患者

等に処方されている。

 小柴胡湯による間質性肺炎の副作用については、平成3年4月に使用上の注意の「

副作用」の項に初めて記載し、平成4年12月には更に「一般的注意」に記載した。

また、平成3年春よりインターフェロンの適応がC型慢性活動性肝炎に拡大されたこ

とに伴い、インターフェロンと小柴胡湯の併用例でも間質性肺炎が報告されたことか

ら、平成6年1月にはインターフェロンとの併用が禁忌とされた。

 小柴胡湯による間質性肺炎については、本情報No.107(平成3年3月号)、

No.118(平成5年1月号)及びNo.125(平成6年3月号)に記載して注

意喚起を行っている。

 しかし、平成6年1月の改訂以降も、小柴胡湯使用中の慢性肝炎患者において、間

質性肺炎が発症し重篤な転帰に至った症例もあることから、一層の注意喚起を図るた

め、使用上の注意に「警告」欄を設けるとともに、関係企業に対し、緊急安全性情報

を配布するよう指導を行ったところである。

 小柴胡湯の投与による間質性肺炎の発生頻度は約2.5万人に1人程度と推定され

ている。平成6年1月以降報告された症例では、肺疾患の合併あるいは既往歴のある

患者、又は50〜70歳台の患者に多く発症しており、これらの患者に投与する場合

には十分な観察と注意が必要である。また、本剤の投与開始後2ヵ月以内に発症する

例が多かった。

 小柴胡湯の投与中は、発熱、乾性咳嗽、呼吸困難等の感冒様症状に留意し、このよ

うな症状があらわれた場合には、直ちに投与を中止し、胸部X線により間質性陰影の

有無を確認するとともに、ステロイド剤の投与など適切な処置を行うことが必要であ

る。また、発熱、乾性咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には一時服薬を中止し、直

ちに連絡するよう患者に対して注意を与えることが必要である。

 報告された症例の一部を紹介する(表1)。再度、小柴胡湯の適正な使用の徹底を

図られたい。



表1 症例の概要

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|No.1                             企業報告|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         61歳                    |

|   使用理由[合併症]  C型慢性肝炎                 |

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|1日投与量・投与期間:7.5g、1003日間               |

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|副作用−経過及び処置                           |

|IFN投与で間質性肺炎の副作用歴のある患者。C型慢性肝炎で小柴胡湯の投与開|

|始。投与開始997日後、胸部CTより間質性肺炎と診断。投与開始1002日後|

|に小柴胡湯の投与を中止。投与中止11日目よりプレドニゾロンの経口投与を開始、|

|その後漸減。投与中止28日目、急激に呼吸困難が増悪し、著明な低酸素血症のた|

|め酸素吸入を開始。投与中止31日目よりステロイドパルス療法(コハク酸メチル|

|プレドニゾロンナトリウム1000mg×3日、500mg×2日、250mg×|

|2日、125mg×2日)施行。投与中止41日目より酸素吸入下でPaO2 10|

|1.8torrまで改善したが、再び低酸素血症は増悪の一途をたどる。投与中止|

|56日目、酸素吸入下でPaO2 28.7torrとなり気管内挿管、人工呼吸管|

|理とした。一時PaO2 改善するも再び低酸素血症に陥る。投与中止70日目、長|

|期呼吸管理のため気管切開を実施。投与中止101日目、低酸素血症が更に進行し|

|死亡。                                  |

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|併用薬:トロキシピド、ケノデオキシコール酸、               |

|    グリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤           |

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|No.2                             企業報告|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         68歳                    |

|   使用理由[合併症]  C型慢性肝炎[アルツハイマー型痴呆]     |

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|1日投与量・投与期間:5.0g、8日間                  |

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|副作用−経過及び処置                           |

|アルツハイマー型痴呆加療中にC型肝炎の診断で小柴胡湯の投与開始。投与開始5|

|日後にspike fever (38〜39℃)出現し、各種抗生物質投与。投与開始7日後|

|、小柴胡湯の投与を中止するも症状の改善なし。投与中止6日目、呼吸不全、ショ|

|ック、間質性肺炎にて転院、入院した。人工呼吸器にて管理し、ステロイドパルス|

|療法(コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム1000mg)施行。一度は改善|

|するもステロイドの減量に伴い悪化。3回のステロイドパルス療法、2回のシクロ|

|ホスファミド投与(500mg、100mg)を行うも改善せず、投与中止27日|

|目に呼吸不全にて死亡。                                                   |

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|併用薬:アニラセタム、ファモチジン、塩酸インデロキサジン、        |

|    塩化マグネシウム、スパルフロキサシン、総合感冒薬、        |

|    塩酸セフォチアム、テプレノン                   |

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|No.3                             企業報告|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         68歳                    |

|   使用理由[合併症]  慢性肝炎[胃炎、虚血性脳血管障害、不眠症]  |

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|1日投与量・投与期間:7.5g、105日間                |

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|副作用−経過及び処置                           |

|慢性肝炎で小柴胡湯を投与開始。投与開始95日後より発熱、呼吸困難が出現。投|

|与開始104日後、症状の悪化により来院。両肺野に乾性ラ音を聴取し、胸部X線|

|にて全肺野に斑状のスリガラス様雲状陰影を認め、低酸素血症(PaO2 51.9|

|torr)を呈したことから間質性肺炎と診断し即日入院治療を開始。小柴胡湯を|

|含む一部薬剤を中止し、プレドニゾロン40mg/日の投与を4日間施行すること|

|により症状は急速に改善。その後プレドニゾロンを漸減。投与中止31日目に胸部陰|

|影消失。投与中止41日目に退院。                                          |

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|併用薬:グリチルリチン・アミノ酢酸・メチオニン配合剤、          |

|    ウルソデスオキシコール酸、シサプリド、塩酸チクロピジン、     |

|    塩酸リルマザホン                         |

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(2)具体的注意点

 小柴胡湯による薬剤性間質性肺炎と疑われる場合には、直ちに小柴胡湯の投与を中

止し、胸部X線等の検査を実施するなど十分に観察し、必要な処置をとること。本剤

の中止により症状の改善をみることが多く、また、ステロイド剤の投与が効果的であ

る。

 いずれにしても、早期発見と早期治療が重要である。

a.使用中の注意

 発熱、乾性咳嗽、呼吸困難等感冒様症状に十分留意し、このような初期症状があら

われた場合は直ちに小柴胡湯を中止し、胸部X線により間質性陰影(スリガラス・粒

状・網状陰影)の有無を確認する。

 更に、胸部CT、動脈血液ガス分析を実施し、確定診断することが望ましい。

 患者には、発熱、せき、息切れ等の症状があらわれた場合には、一時服薬を中止し、

直ちに連絡するよう説明する。

b.間質性肺炎が発現した場合の対応

 以下のような処置を的確に行う。

・小柴胡湯の投与を直ちに中止する。

・投与中止により改善しない場合は、ステロイド剤の投与が効果的である。

・重篤な症例ではステロイドパルス療法を行い、重篤な呼吸困難を認めた場合は直ち

 に気管確保し、酸素吸入を行う。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<小柴胡湯>

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| 警告                                 |

| 〜〜                                 |

|  慢性肝炎における肝機能障害の改善の目的で投与された患者で間質性肺炎が|

|  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜|

|  起こり、重篤な転帰に至ることがある。                |

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<参考文献>

1)厚生省薬務局:小柴胡湯と間質性肺炎.医薬品副作用情報 No.107、p7(1991)

2)厚生省薬務局:インターフェロン‐α製剤及び小柴胡湯と間質性肺炎.医薬品副

  作用情報 No.118、p2(1993)

3)厚生省薬務局:インターフェロン‐α製剤と自殺企図、間質性肺炎.医薬品副作

  用情報 No.125、p2(1994)