4.[医療用具安全性情報]
  医療機器に対する電磁妨害について
 
 携帯電話等による医療機器の電磁妨害について、米国及び日本の調査検討状況等を
紹介する。
 
(1)米国の状況(文献1)
 米国食品医薬品庁(FDA)の1973年からの20年間の調査によれば、医療機器につ
いて電磁干渉(EMI;Electromagnetic Interference)によると思われる現象が100
件以上発生している。これらの現象を再現することは困難であるため、原因の特定は
難しいが、それでも次のような事例がEMIによるものとFDAは考えている。
a.パルスオキシメータの無線信号受信機を遺体に極めて接近させたところ、脈拍と
 血中酸素濃度を誤表示
b.胎児心拍の測定探子が誤って市民無線(CB)等に感応
 FDAでは、このようなEMI現象は、無線技術の進展に伴う通信路の混雑により
増加しているが、その多くは発生原因が不明であるとしている。
 また、近年では、携帯電話、無線LAN、マイクロ波通信、テレビ・ラジオ等の高
出力送信器等、EMIの原因となるおそれのある機器は増加しているが、これらのす
べての使用を停止することは事実上不可能であるとしている。
 このような背景からFDAでは幾つかの医療機器について実験を行っており、例え
ば、呼吸監視装置等の医療機器はEMIの影響を受けやすいことが判明したとしてい
る。
 これらを受けて、FDAでは、医療機器のEMIを回避するため、医師、ホスピタ
ル・エンジニア等の医療機関関係者が次の点等に配慮するよう求めている。
「a.EMIが、多くの医療機器に対して機能妨害を発生させることを認識しておく
   こと。
 b.EMIを回避するため、医療機器製造業者等の指示を遵守すること。
 c.EMIが生じているおそれのある場合には、医療機器製造業者等に連絡し、適
   切な措置を講じること。
 d.医療機器は、携帯電話やトランシーバーのような送信機から意識的に距離を離
   しておくこと。」
 また、特に携帯電話に対して上述のd以外にも次のようなコメントをしている。
「欧州の多くの医療機関では、建物内に携帯電話を持ち込むことを禁止しているが、
 FDAとしては、正当化される場合には、米国内の医療機関が同様の措置を行うこ
 とを奨励する。」
「しかし、これはいかなる場所においても携帯電話を禁止すべきであるという意味で
 はない。また、携帯電話がEMIの唯一の原因というわけではない。」
「携帯電話は、電磁波の送信出力が比較的小さいにもかかわらず、他の電磁波の発生
 源に比べ、医療機器の間近まで接近させる可能性がある。したがって、電磁環境の
 影響を受けやすい医療機器を日常的に使用する医師及び患者は、EMIの発生する
 可能性のあることを意識し、その医療機器に携帯電話を近づけないように配慮すべ
 きである。」
 
(2)日本の状況及び対応
 我が国においても、米国と同様に多数の医療機関において医療機器が使用されてい
るほか、使用者の利便性を改善するための通信技術の発展に伴い、医療機器の周辺の
通信路が混雑してきたことも同様である。
 例えば、「平成7年版通信白書」(郵政省編)等によると、携帯電話の売り切り制
度が導入された平成6年4月以降の加入者数の増加が著しく、この1年間に2倍以上
増加している(平成7年3月現在、携帯電話の保有台数は総計433万台)。また、携
帯電話等は将来的にも高い成長が見込まれており、西暦2000年には1000万台規模に達
するものと推定されている。
 EMIが疑われる具体的事例としては、平成6年に厚生省に報告されてきたシリン
ジポンプの誤作動の事例がある。その概要は、平成6年6月、スウェーデンの医療機
関において、日本製シリンジポンプを用いて薬液を注入していたところ、誤作動が発
生し、その後の調査の結果、病室で携帯電話が使用されていたと思われるというもの
である。厚生省としては、同製品の製造業者から本件に関する報告を受けた後、直ち
に同社に対し携帯電話による誤作動に関する警告文を関係医療機関に配付するよう指
導したところである。
 また、最近、判明した事例として、平成7年4月、岡山県内の医療機関において、
入院患者に輸液の注入を行っていたところ、輸液ポンプが警報音を発し作動を停止し
たという事例がある。本件についてはその後の調査の結果、輸液注入時に同室内の他
の患者が携帯電話を使用していたと思われるというものである。
 医療機器を取り巻くこのような電磁環境の変化に対処するため、厚生省としては、
平成5年より学識経験者、医療機関及び医療機器関係企業より構成される研究班「医
用電子機器の相互干渉防止基準の策定に関する研究」等を組織し、その中で医療機器
の電磁気両立性(EMC;Electromagnetic Compatibility)に関する技術基準等の
検討を進めているところである。
 更に、電気通信事業者、医療機器等関係業界団体及び郵政省・厚生省を含めた関係
行政機関から構成される不要電波問題対策協議会(事務局:郵政省電気通信局電波部
電磁環境対策室)の医用電気機器作業部会において、諸外国における規制状況等を調
査するなどして関係機関と共同で携帯電話による医療機器の誤作動防止対策の検討を
進めているところである。
 また、医療機器の関係業界団体である日本医療機器関係団体協議会(東京都文京区
本郷3‐38‐1)においては、平成7年末、傘下団体等に対して「携帯電話等の電磁波
障害に関するユーザー向け注意文書についての提言」をまとめ、注意喚起を始めてい
る。
 
<参考文献>
1)Williams, R.D.:FDA Consumer, May 1995, p.13‐16