3.[解説] 医薬品の適正使用のために
  非イオン性X線造影剤等による副作用
 
 非イオン性造影剤等(イオキサグル酸を含む、以下同様)は、イオン性造影剤に比
べ副作用の頻度が低く、血管造影などのときにも患者に対する苦痛が少ないなどのメ
リットがあるとして広く使用されている。しかし、副作用頻度は低下したとはいえ、
ショックなどの重篤な副作用、特に遅発性の副作用があるので、使用に際しては十分
に注意することが必要である。
 
尿路血管造影剤
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 成分名            | 該当商品名             |
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|(非イオン性造影剤)      |                   |
|イオパミドール         |イオパミロン(日本シエーリング)   |
|イオトロラン          |イソビスト(日本シエーリング)    |
|イオヘキソール         |オムニパーク(第一製薬)       |
|イオベルソール         |オプチレイ(マリンクロットメディカル)|
|イオメプロール         |イオメロン(エーザイ)        |
|(イオン性低浸透圧造影剤)      |                   |
|イオキサグル酸         |ヘキサブリックス(栄研化学)     |
+−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副 作 用|ショック等                         |
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(1)副作用頻度
 我が国において、ヨード系X線造影剤を投与された337,647例(イオン性造影剤
169,284例、非イオン性造影剤168,363例)を対象とし大規模な多施設共同の副作用調
査が行われた。その結果、イオン性造影剤の副作用発生頻度が12.66%(21,428例/
169,284例)であるのに対し、非イオン性造影剤では、3.13%(5,276例/168,363例)
であった。副作用症状のうち呼吸困難、急激な血圧低下、心停止、意識消失などの重
篤な副作用の発生頻度をみると、イオン性造影剤では0.22%(367例/169,284例)で
あるのに対し、非イオン性造影剤では0.04%(70例/168,363例)と有意に副作用が少
なかった。
 しかし、イオン性造影剤の副作用は、使用後数分〜30分以内に発現する即時型アレ
ルギーが大部分を占めていたのに対して、非イオン性造影剤では、投与後1時間以上、
ときに数時間以上も経過して発現する遅発性アレルギーの報告が少なくなく、また即
時型の症例の報告もある点に十分留意する必要がある。しかし、遅発型副作用の発生
頻度及び発症機序については、まだ明確にはなっていない。
 
(2)具体的注意点
a.適応症例の選択
 イオン性造影剤、非イオン性造影剤のいずれも、いわゆるヨード過敏症の患者には
禁忌である。したがって、かつて造影剤を使用したときに蕁麻疹、悪心、嘔吐などの
過敏症状を認めたか否かをよく問診してその既往歴がある場合は使用しない。
 遅発性副作用を示す非イオン性造影剤等を使用した場合には、帰宅後、遅発性の重
篤な副作用を起こす危険性があるので、観察を十分にできる入院患者に使用し、外来
患者への使用は避けることが望ましい。
 確実な予知テストがなく、予知テストによってショックになることもあるので、テ
ストを行うよりも検査時に医師が患者の傍らで注意深い観察を行うことが重要である。
b.検査時の注意
 検査時には常にショックに対する速やかな処置を行うことができるように準備をし
ておくことは当然であるが、検査中、蕁麻疹、悪心、嘔吐及び胸内苦悶など認めた場
合には、アナフィラキシーの前兆であることが多いので、そのような症状を患者が訴
えた場合には直ちに中止して適切な治療を行う。
c.検査終了後の注意
 事情により止むを得ず外来患者に使用した場合には、上記のような症状が出現した
場合は直ちに来院するように、患者や家族に十分説明をしておくことが重要である。
d.副作用、特にショックが発現した場合の対応
 以下のような処置を的確に行う。
・造影剤を点滴中であれば、直ちに中止する。
・検査終了後であれば、直ちに静脈確保を行って5%ブドウ糖などの点滴を行い、ア
 ドレナリン、ドパミンなどの昇圧剤、ヒドロコルチゾンなどの投与を行う。
・チアノーゼ、呼吸困難等を認めた場合は直ちに気管確保を行い、酸素吸入を行う。
 必要に応じ人工呼吸を行う。
・心停止を認めた場合は、心マッサージを行う。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<イオパミドール、イオヘキソール、イオベルソール、イオメプロール、イオキサグ
ル酸>
一般的注意
(4)重篤な遅発性副作用(ショックを含む)等があらわれることがあるので、投与
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  中及び投与後も、患者の状態を十分に観察すること。
(5)外来患者に使用する場合には、本剤投与開始より1時間〜数日後にも遅発性副
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  作用の発現の可能性があることを患者に説明した上で、・・・、・・・、・・・、
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  ・・・等の副作用と思われる症状が出現した場合には、速やかに主治医に連絡す
  るように指示するなど適切な対応をとること。
副作用
(1)重大な副作用
 ショック:まれにショック(遅発性を含む)を起こすことがあるので、観察を十分
             〜〜〜〜〜〜〜〜
 に行い、必要に応じ適切な処置を行うこと。また、軽度の過敏症状も重篤な症状に
 進展する場合があるので、観察を十分に行うこと。
 アナフィラキシー様症状:まれに・・・、・・・、・・・等のアナフィラキシー様
 症状(遅発性を含む)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、必要に応
   〜〜〜〜〜〜〜〜
 じ適切な処置を行うこと。
*・・・は、各製剤の発生状況による。
 
〈参考文献〉
1)Katayama, H., et al.:Radiology, 175:621(1990)
2)厚生省薬務局:低浸透圧性X線造影剤投与後の遅発性ショック.医薬品副作用情報
 No. 96, p1(1989)
3)厚生省薬務局:低浸透圧性造影剤によるショック.医薬品副作用情報No.92, p1
 (1988)
4)高橋隆一:Annual Report 1991. 医薬品の副作用、伊藤宗元ら編、中外医学社、
 東京、p157(1991)
                    (国立東京第二病院 院長 高橋隆一)