2.[解説] 医薬品の適正使用のために
  子宮収縮剤による子宮破裂、胎児切迫仮死等の重篤な副作用
 
 オキシトシン(OXY)、プロスタグランジン製剤のジノプロスト(PGF2α)
及びジノプロストン(PGE2)は陣痛誘発、陣痛促進に用いられる子宮収縮剤であ
る。これらの薬剤により過強陣痛、胎児切迫仮死があらわれることは従来から知られ
ており、既に「使用上の注意」に記載し医療関係者の注意を喚起してきているが、最
近においても重篤な症例の報告があることから、使用に際しての注意を改めて喚起す
る。
 
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| 成分名            | 該当商品名             |
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|オキシトシン          |シントシノン注射液(サンド薬品)   |
|                |アトニン−O(帝国臓器製薬)     |
|                |オキシトシン注射液(富士製薬)    |
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|ジノプロストトロメタミン    |プロナルゴンF注射液(住友製薬)   |
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|ジノプロスト          |プロスタグランジンF2α注射液     |
|                |            (科研製薬) |
|                |グランディノン注(持田製薬)     |
|                |プロスタルモン・F注射液(小野薬品) |
|                |プロスタジールF注射液(大洋薬品)  |
|                |プロタモジンF注(東菱薬品)     |
|                |プロスモン注(富士製薬)       |
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|ジノプロストンベータデクス   |プロスタルモン・E錠(小野薬品)   |
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|ジノプロストン         |プロスタグランジンE2錠(科研製薬)  |
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|副 作 用|子宮破裂、胎児切迫仮死 等                 |
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(1)症例の紹介
 オキシトシン、ジノプロストは点滴静注、ジノプロストンは経口投与にて用いられ
る子宮収縮剤である。子宮収縮剤は母体・胎児の状態を十分観察し、投与速度を適切
に管理しながら使用しなければならない。特にジノプロストンの場合は、その投与経
路が経口であることより調節性が欠けるため、一層、十分な注意が必要である。また、
2種以上の子宮収縮剤を同時に併用することは過強陣痛を引き起こす可能性が高まる
ことから避ける必要がある。また、他の子宮収縮剤に引き続き使用する場合でも投与
間隔等について十分な注意が必要である。
 子宮収縮剤の安全性に関しては、既に本情報No.117(平成4年11月号)によ
り、必要最小限の用量にとどめること、また、使用にあたっては分娩監視装置等を用
いて子宮収縮の状態、胎児の心音の観察等十分な監視下で使用する等の注意を喚起し
てきた。その後、オキシトシン製剤については平成7年7月に、プロスタグラジン製
剤については平成7年12月に「使用上の注意」をより分かりやすくするための改訂が
なされたが、その後の調査でも子宮破裂等の重篤な症例が報告されていることから、
平成8年2月にそれぞれの医薬品の使用上の注意に「警告」欄を設け、一層の注意喚
起が図られたところである。これを機会に最近の子宮破裂等が生じた症例を紹介する
(表1)。再度これら薬剤の適正な使用法の徹底を図られたい。
 
表1 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         34歳                    |
|   使用理由       分娩誘導                   |
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|投与速度・投与量:PGE2    500μgX2              |
|         OXY    2m.u./分              |
|         PGF2α   3μg/分                |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|初産婦。                                 |
|7〜8時PGE2 500μgを2回投与。9時45分よりPGF2αを3μg/分にて、 |
|またOXYを2m.u./分にて投与開始。やや頻回の子宮収縮が認められた。16|
|時20分、血尿が認められその後胎児一過性徐脈が頻発したので、吸引分娩施行。 |
|17時35分両剤点滴終了。                          |
|分娩後も出血が持続し、血圧低下が認められたため開腹術を施行した。膀胱背部・|
|子宮頚部に横の裂傷あり。子宮摘出を行う。                 |
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|No.2                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         29歳                    |
|   使用理由       陣痛増強                   |
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|投与速度・投与量:PGF2α  4〜10μg/分             |
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|副作用−経過及び処置                           |
|経産1回。妊娠39週3日、骨盤位、前回帝王切開術。             |
|20時40分、微弱陣痛のため4〜10μg/分にて投与。翌日2時頃経膣分娩。本剤投与|
|終了。この頃子宮破裂が生じたと推定される。15時頃より出血が多くなり子宮破裂|
|、膀胱破裂が認められた。                         |
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|No.3                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         38歳                    |
|   使用理由       微弱陣痛                   |
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|投与速度・投与量:OXY    2.0IU                |
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|副作用−経過及び処置                           |
|妊娠39週。経産2回。                           |
|微弱陣痛のため10時オキシトシンの点滴を開始。点滴開始後、20mIU/分まで増量し|
|た。下腹部痛が増大し胎児心音も悪化のため切迫子宮破裂の診断にて帝王切開施行|
|(点滴中止14時30分)。開腹所見は腹腔内に多量の出血と子宮後壁に破裂部位がみ|
|られた。輸血。術後母子ともに良好で後遺症なく回復した。          |
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(2)具体的注意点
a.症例の選択
陣痛誘発
 陣痛誘発を行うにあたっては、医学的に適応のある場合で、かつ陣痛誘発を行うに
十分な条件が整った症例について子宮収縮剤を投与する。また母子共に安全性が確保
できるよう、十分な管理ができる条件下で投与すべきである。
 子宮収縮剤の投与の適応としては胎児側因子と母体側因子が考えられる。胎児側因
子としては過期妊娠、胎盤機能不全、子宮内胎児発育遅延などで、子宮内環境が悪く、
分娩させて体外で管理したほうがよいと判断される場合である。母体側因子としては
前期破水、妊娠中毒症など、妊娠を継続することで母体に危険があると判断される場
合である。いずれの場合でも、胎児、母体のいずれもが子宮収縮剤の投与に耐えられ
る状態であるかを十分検討し、子宮収縮剤の投与中に胎児や母体に異常がみられた場
合は直ちに投与を中止し、適切な処置を講じることができる条件下で使用すべきであ
る。
陣痛促進
 微弱陣痛により分娩が進行しない場合、あるいは分娩が遷延している場合に適応と
なる。この場合は胎児骨盤不適合がなく、陣痛を増強することで安全に経膣分娩が可
能と判断されることが条件である。ときには微妙な症例で試験分娩となることもある
が、この場合はいつでも帝王切開に切り換えられるように準備しておく必要がある。
b.使用に際しての注意
 陣痛誘発、促進にあたっては患者の既往歴にまず注意する。帝王切開の既往、子宮
筋腫核出術の既往などのある患者に子宮収縮剤を投与することはできれば避けるべき
で、どうしても投与する必要がある場合は極めて慎重に投与する。また陣痛誘発の場
合は子宮頚管の成熟度が問題となる。ビショップスコアーが低い未熟な状態で分娩誘
発を行っても効果が少ないばかりで、分娩が遷延することが多い。何らかの方法で頚
管の成熟度を上げてから子宮収縮剤を投与するようにするべきである。
 実際の投与では、過強陣痛にならないように少量から投与し、できれば投与量を調
節できる輸液ポンプを用いることが望ましい。投与中は必ず分娩監視装置を使用し、
陣痛と胎児心拍を監視し記録する。その上で陣痛状況をみながら少量ずつ投与速度を
上げていく。
c.過強陣痛が生じた場合の処置
・子宮収縮剤の投与を直ちに中止する。
・塩酸リトドリン等のβ2刺激剤を投与する。麻酔器がある場合は吸入麻酔剤を使うこ
 とも有効である。
・胎児仮死が発生した場合は酸素投与するが、回復しない場合は帝王切開を行う。